木村:
これは先ほどの「他人の庭」に少し関連する、「猫に名前を付ける」というものです。
これは近所の公園に住んでいる黒猫です。これは散歩コースにある家に住んでいる猫です。
平沼:
ふたりとも猫好きですか?
木村:
はい。これは少し前に解体されて空き地になった場所に住み着いている、最近知り合った猫です。
平沼:
野良猫が多いですね。どこですか?
木村:
住吉です。これも最近出会った、まだ小さい黒猫です。
芦澤:
どれも名前を言ってくれないじゃないですか(笑)。
木村:
どれも名前自体に意味はなくて。
芦澤:
タイトルは「猫に名前を付ける」なんですけど・・・
木村:
はい、そうなんです。猫に名前を付けるって一体何なんだということですが。建築に関わることとして、場所というものを考える時に、例えばその建物や家を、内と認識するんですけど、その建物のある近所の住み慣れた町も内と認識すること、それはある意味自然なこととしてあると思います。そういう認識を前提として見て気づいたのが、猫と場所との関係というところです。猫というのは、よく人じゃなくて場所につくって言われますが、そういう猫に対してひとつひとつ名前を付けていくことは、何かその場所に対してかたちを与えるというか、その場所に対して自分との関連性を作るというような、そういう行為なのではないかなと思います。そうすることによって自分たちにとっての「内」が広がっていく。そういう場所の捉え方というのが、単純に猫に名前を付けるだけで広がるのかなと思います。
そしてこれは、先ほどの「他人の庭」ともすごく繋がるんですが、他人の庭を一方的に自分の意識的なものとして、所有区画に入れるんですね。なぜこういうことを二人で考えるのかなと思ってみると、僕は出身が和歌山、彼女は京都で、大阪にもう随分住んでいるんですけど、何か大阪に対して近しいものというか、自分の内部としてたまに認識しづらいところがあるんですね。というのも、僕の個人的なものなんですが、僕は和歌山のとても田舎の方に住んでいて、ここからここまでが誰の家とかそういう感覚が全くないところに住んでいました。それが大阪にポーンと出てきて、全てが人の持ち物で完成されているということに衝撃を受けました。ここは人の家、ここも人の家、僕の家はここだけ、というのがびっくりしました。その中で都市や街が、自分の内部というか身近なものとして認識していけたらいいなという動機で考えていたのがさっきのスライドです。
松本:
このスライドに出てきてないんですけど、植物を植えるっていう勝手なプロジェクトもやっていて(笑)。
木村:
芦澤さん、アヴァン・ガーデニングってご存知ですか?
芦澤:
はい。
木村:
されていますか?
芦澤:
ある種やっています。
木村:
芦澤さんはされているんじゃないかと、ずっと思っていました(笑)。
アヴァン・ガーデニングというと、アヴァンギャルドの造語で、勝手に人の土地に植物を植えるということなんです。ゲリラ・ガーデニングとかスクウォット・ガーデニングとも呼ばれたりしています。もともとは凄く政治性の高いものなんですけど、僕たちがそれで思っていることは、都市で場所を見いだして、獲得して認識を広げていくこと以外に、もっとアクティブに自分の領域を広げることをできないかと思って、今年から植えていまして、色々なところですくすくと育っています(笑)。
平沼:
さっきのスライドでもそうでしたけれども、関西、大阪と京都は碁盤の目に道路が走っていて、道路に囲まれた部分を区画割りされて、敷地も用意されていますよね。これ東京だったら、区画整理がきちっとなされていないところがあるから、角を曲がる度に商店街やお店、面白い建物など、何か発見があって、それが東京らしいのかなと思っています。それに対して、大阪はせっかちなのか、目的の場所に道を通すのが先で、その余白が敷地なのかと僕も思っていて、それが、お二人がおっしゃっていたように、それを曖昧にしていくのが凄く共感をもてるように感じました。
芦澤:
話を戻すのですが、僕は結構植えてますよ、実は(笑)。事務所の前がフサアカシヤの並木で、おそらく大阪市の緑地課が設計して植えたものなんですが、冬になると落葉が多いのでばっさり切られるんですが、何となく楠を植えたくなって、植えて結構な大きさになってきました。
木村:
僕、恥ずかしくなってきました(笑)。
芦澤:
いえいえ、まだまだこれからですよ(笑)。僕らはドングリを拾ってきて、発芽させて、ある程度の大きさになったら街に植えていくんですよ。
松本:
個人の土地だったら問題かもしれませんが、国とか県とかの土地なら、近所のおばちゃんもやっていることなので。やってみると楽しいので、皆さんも是非やってみてください。街が楽しくなります。
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