平沼:
次にいきます。「経験の速度について」について。
木村:
はい、「経験の速度について」です。
これは雨の降る午後に森の中を、親しい友人達と散歩しているときの写真です。
これは初夏に2人でレンタサイクルして街中を散策したときの写真です。
平沼:
仲良いんですね。
木村:
はい(笑)。これは田舎道をドライブしているときの写真です。
これは近所の公園にひと月に1回トロッコ列車がやってくるんですけど、そのときにトロッコ列車に乗って公園をぐるっと一周したときの写真です。
これはかたちの話になるんですけど、先月まで東京の表参道のGYREというところで開催されていたCITY2.0展というTEAM ROUNDABOUTが主催していた展覧会です。この中の企画で、磯崎新さんが96、97年くらいに「海市」というプロジェクトをされていて、それを現代に蘇らせるということで、「海市2.0」という同世代の建築家たちがアイデアを出し合って、かたちにしていって、都市というものをどんどん生成していくということをしました。僕たちは、プロジェクトの中盤かちょっと後ぐらいの頃、都市がだいぶ成長してかたちが随分変わってきた頃に提案を求められて、都市だけでなくて、敷地が島で、島の周りにも自然があるんですが、それをどんなふうに体験するかを考えようと思いました。経験の速度をデザインすることを考えています。都市や自然の体験の仕方の多様化というものを考えて、人の目線よりも少しだけ高い位置、あるいは飛行機よりもずっと低くて、歩くより少し速くて、車よりも遅い、スキー場にある椅子だけ付いているリフトのようなものを提案しました。交通手段ではなくて島を巡るためのリフトです。僕たちが建築をやっていて大切だと思うことは、場所と経験だと思うんですね。経験そのもの自体にかたちを与えるということは、どういうふうに可能かなと考えていて、そのときにこのような企画をいただいて、既存のものですが、リフトというかたちで提案させていただきました。
平沼:
もう少し具体的な写真はありませんか?
木村:
これだけです。このひょろっとあるやつです。
芦澤:
これは通常のリフトと違う点はあるんですか?上から眺めるだけですか?
木村:
そうです。ただ乗り場が一カ所くらいしかないので、移動のために乗っても元の場所に戻ってきます。ただただ、時間だけが過ぎるというだけの乗り物です。
芦澤:
スピードは一定ですか?
木村:
はい。速度や経験のかたちのデザインを考えたときに、以前、知り合いの会社から自転車のデザインを頼まれて、かたちにはならなかったんですが、自転車のデザインをしました。それは普通、プロダクトデザインの行うことだと思うんですが、考えようによっては、自転車が持っている速さとか街の経験というのは、固有のものがあるわけで、それをデザインすることは、体験の形かたちや速度をデザインするようなことなのかな、と漠然と思っている時期がありました。
平沼:
速度の話が出てきましたが、例えば石上さんがつくっているテーブルや風船であったり、建物や公園であったり、自分のつくったものであったり、ジェット機のような速さでなく、季節の移り変わりのようなゆっくりした目視できない速さに興味があるっておっしゃられていたんですが、そんな感覚はどうでしょうか?僕なんかは、建築と速度の関係についての考えを持っていなかったので、そういうところは面白いなって思ったんですけど、お二人は速度というものにかなり興味を持たれていますか?
松本:
そうですね。「海市」のときに思っていたことは、プロジェクト自体が都市規模で、アイデアが出てきて一週間ごとに動いているので、違う速度を入れたかったというのと、なかにリフトの持っているゆっくりさを取り入れたかったのです。リフトのゆっくりさは、何だか笑える。そのばかばかしさを都市に入れたかったというのはあります。
芦澤:
観覧車とかは違いますか?
松本:
そうですね。もっと役立たずな感じがいいなって思いました。
木村:
何かばかばかしいものに魅かれる傾向はあると思います。

>>続きへ
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | NEXT