芦澤:
では、最後にバングラディシュのコンペ案ですね。これについて、すこし話をお願いします。
前田:
これも最近参加したコンペなんですけど、このコンペ自体をオーガナイズしているのは国際的なNPO団体です。バングラディシュを2007年に通過したシドルというサイクロンでは、4,000名くらいの人が亡くなって、いろんな国から援助がきているんですけど、これぐらいの規模のものが5年に1度くらい通ります。実際、サイクロンのためのシェルターが現地にはあるんですけど、ここに1,000人くらい集まってくるそうです。僕も実際に現地に行ったわけじゃないから、実感を持って言っているわけじゃないんですけど、被災地レポートがありまして、シドルという大型台風がくると、水位が3mくらい上昇して、洪水が起こるんです。そこに300人くらいは非難できる600uくらいのシェルターを建てましょうというのが求められていたことです。問題点は、家畜は彼らの財産みたいなものなので、家畜が全部流されてしまうことでもあるようです。私の提案は、家畜も一緒に避難できるような計画を行いました。要項にはそこまで書かれていなくて、むこうが求めているのはシェルターだけなんですけど、こういう提案をしようとした理由は、敷地がすごく広いんですよ。敷地自体はすごく広くて、3,000uくらいかな。それで、これはちょっとコンペの要項を無視しているかもしれないんですけど、敷地全体を4mの壁で囲ってしまって、その壁の上にシェルターをつくりました。その4mの壁の中の囲まれている場所というのは、永遠に流されない公共の場所です。建物だけじゃなくて、洪水で流されない場所が常にここにあるということが、現地に住む方々とって何らかの安心感に繋がればいいなぁと思って、そういう場所を提案しました。
芦澤:
これは橋みたいなものですか?
前田:
壁で囲った上に建物を建てていますから、色んな方向から集まれる歩道橋のようなものが、シェルターとして機能しています。さっきのマドリッドの橋に似ているかもしれませんが、橋なんだけど、その下の部分が、橋の下としてさみしい場所にならないようにしました。それは、僕が好きな古墳だったり、地形によって居場所をつくっているパリの事務所の近くの公園という、僕が好きな場所の両方の特性とも重なっているのかもしれないです。床の下であっても、微地形を持った場所があって、その上をおおっている建物も機能を補完している。その二つが重なっていくことによって両方の場所ができるということが、ここでやろうとしたことです。
芦澤:
では、そろそろまとめに入りたいと思うのですが、我々がまとめる前に、会場の方から前田さんに聞いてみたいことがあれば、是非質問してください。いかがですか?
質問者:
ちょうど2週間前にフランスに行ってきました。全くプライベートの旅行だったんですけど、そのスケールの違いというのを身体感覚で感じたんです。私もときどき外国に行くんですけど、あくまで住むというよりは、滞在が短いので、前田さんの10年という長い間の身体の変化というのにすごく興味があります。その変化した後に、日本に戻られて、何が良かったのか、あるいは何が向こうの方が良かったのか、いくつか教えてください。
前田:
身体に戻っているという意味では、スケールは割と操作可能のような気がしています。意識的にすれば、操作可能な気がするんですけど、それよりも、公共空間を所有しているかしていないかという意識が大きく違うな、と最近思っています。フランスもそうでしょうし、ヨーロッパに元々ある感覚として、政治も含めてだと思うんですけど、公共空間をそれぞれが所有していると思ってる感覚があると思うんですよ。その感覚って、何らかのものごとにすごく影響を及ぼしていて、政治も自分たちのものだと思っているし、何らかの公共と言われるものを自分たちの所有物だと思っているという感覚は、ひょっとすると日本にはないのかなと思っています。例えば一戸建てで、自分の庭を持ちたい、自分の庭を所有したいという願望を持っていること自体が、もしかすると元々ヨーロッパの人にはない感覚というか。彼らはあまり個人の庭を持ちたいと思わないんですよね。パブリックの場所をピクニックに使ったりしているので。そういう日本人の感覚から、一戸建ての囲われた庭に対する所有感というものが出てきているのかなと。最近思うだけで、何も日本のパブリックなスペースに対しての解決策は持ち得てないのですけども。ただそうは言っても、たぶん日本もアジア全体もどんどん変わっていくでしょうし、世代が変われば、ひょっとすると日本はもう少し目に見えないものの所有と言うか、そういうものもあるかもしれないし、また別のかたちかもしれないですけど、そこが最近気になっているところです。 
芦澤:
日本人は確かに、公園とか公共空間というのは自分たちのものではなくて、行政がやっているものだと、それが良い意味でも悪い意味でも、大体そういう意識ですよね。だからあまりそれに対しての参加意識もないし、責任もないという・・・前田さんは、それを変えたいんでしょう?
前田:
僕一人が変えられるものではないと思うんですけど、その感覚が建築家を推し進めてくれるきっかけになるということは絶対にあるはずなので、そこに近づきたい気持ちはありますね。職業としてもそうだし、ちょっとずつ変わっていくきっかけの何かはしたいなと思いますね。

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