芦澤 : では、次に、比較的初期の頃によく設計されていたと思うんですけど、スペースブロックについてのお話をお聞かせください。

小嶋 : はい。建築というのは、立体を人に伝えるときに、図面上、二次元に一度落とし込まないとメディアにならない。それがすごく建築を不自由にしているのではないかと思って、今は独立して活動している日色真帆という元パートナーと最初に始めました。いろんなバージョンがあるの ですけれど、その中でベーシックスペースブロックというのは、角砂糖を3つないし5つ繋いだような積み木で、全バージョンでこれだけあります。いったん繋いだときに内側の仕切りは入れないというルールを使って、積み木ゲームをやって、機能を入れていくとすると、始めから3次元で設計できます。どれだけ頑張っても、いきなり空中に模型はつくれないですよね。でもこのスペースブロックというのは、空中で組み合わせておけるんです。 研究でやっていたのですけれど、ワークショップで学生につくらせたら、ばらつきなくおもしろいものが出てくるので、実際の設計でもやってみたらいいのではないかと思い、やってみたのがこのスペースブロック上新庄です。

芦澤 : では、最初は学生さんにスタディをさせていたのですか。

小嶋 : いや、このプロジェクトは赤松が担当者として、延々とやっていました。

赤松 : 延々と試行錯誤の繰り返しをしていました(笑)。

小嶋 : 学生たちには、もうちょっと概念的なことをさせていました。角砂糖の一辺を1と数えて2×3×6を、さっきの積み木を積ませていました。隙間なく積ませるのは難しかったりするのですが、これを住宅と見立ててどこかの面を地面に置いたとき、2×3×6ですから、6階建てにしてもいいし、2階建てでも3階建てでもいいことになります。そこに家具を入れてバスタブを入れて住宅にしなさい、という課題でした。

赤松 : それを現実的に建つものにしようとしたときに、構造だの設備だの法規だの、あらゆることがドカンと降ってくる。だから、積み木を積んでいる間はものすごく楽しいんですけど・・・(笑)

平沼 : 実際の敷地にはまらなかったりしますよね。

赤松 : そうですね。だから、本当にこれを延々とやっていって、解けないんじゃないかと言いながら、ぎりぎりのところまで粘って粘って、これでダメなら諦めようというところまでいって、何とか実現したのがこれです(笑)。

小嶋 : 設計していて、どうやってもたどり着けない部屋がある、この部屋に行けないからこの案はダメだ、そういう順番なんです。

赤松 : スペースブロックの難しいところは、空間が壁を入れないというやり方をしているので、構造は壁式構造なんですけど、実は上から下まで通っている壁がないのを立体的に全部解析して解いていかなければいけないので、なおかつ設備も通さなければいけないというところです。

小嶋 : これは2.4×2.4×2.45というモジュールなんですけど、そうすると、そのグリッドのXYZの交点には必ずコンクリートがあ るんです。 壁が通っていなくて、明らかにガチガチに固そうなんだけど、上下に壁が通っていないから普通にはNGとなる。壁式構造の基準を考えた中田捷夫 先生という構造家の先生に相談して、ニコニコして、できそうですね、とか言ってくれるんですけど、挙句の果ては壁式構造基準の本を事務所で買って、見てもわからなかったから、念じていましたね。模型を見ながら、力がどういっているのかって(笑)。

芦澤 : この仕上げ方で、例えばスペースブロックのユニットを強調しようとすると、意匠的な話なんですけど、全部ボックスの仕上げを変えるとか、例えば箱型で構造を組んでいくとか、技術的にはかなり難しい面はあると思うんですけど。

赤松 : 色を黒と打ち放しの2種類を使っているんですね。全部のボリュームをやろうとするとなかなか大変なので、暗示するようなボリュームをちょっと残すとか、そういったかたちで部分的に切り替えたりしています。それが部屋の中にそのままつながっていくと、ちょっとここだと(スライドには)映っていないのですが・・・

小嶋 : 確か、3 スペースブロックだけは、その外側を全部打ち放しにして、インテリアやエクステリア問わず打ち放しにしています。全部カラフルでも、大阪だとウケるのかもしれないですけど(笑)。

芦澤 : できたときはすごく衝撃的で、見に行かせていただきましたけど・・・

赤松 : 本当に2.4×2.4の極小ミニマムの幅だったりするので、これは本当に板を事務所の中で立てて、「これは許されるかなぁ」とか言いながら、原寸大で検討していましたね。

小嶋 :  壁厚220(mm)で、内のり2.18なので、さすがにそれは怖いですよ。コンクリートでつくってしまって使い物にならないと言われたり、ワンルームアパートですから人が入らなかったりすると大変ですから。

平沼 : 当時、友達が住んでいて、泊まらせてもらったことがあるんですけど、全然住めますよ。ある意味で、快適ですよ。

赤松 : 吹き抜けが二層あったり、思わぬところから光が入ってきたりするので、そういう意味では、やっぱりそれはスペースブロックで立体で考えたことがうまく生きたんじゃないかと思っています。

平沼 : これは、ある種の安心感がないですか。

赤松 : 割と居心地が良いというか、きゅっとしているところはありますよね。

小嶋 : 洞窟型なんだけど、明るいというか。壁面量が多いですから。ちなみにこのアパートはオーナーが予備校時代の友達 だから、今も僕らでちょくちょくメンテに入っていて、極小ユニットバスがあったところに、FRP防水かけてシャワーユニットを付けたり、やりながらバージョンアップしていったので、 人を入れるのに、と言ってはちょくちょく直したりしているので、今でもこの状態を維持しています。興味のある人は値上げもしていませんので、家賃はウェブサイトで探したら出てきますけれど、割とお得感あるんじゃないかと思いますから、言ってください。

芦澤 : 上新庄ですからね。下町ですから。
では次に、先ほどもお話を伺いましたけど、ハノイのスペースブロックのお話を伺えればと思います。

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