青木 : これはその後につくった奈良県にある小学校です。これも非常に形式が強いものなんです。これもさっきと同じく、素材の感じとか含めて同じような事がやれたかなというものなのです。
もうひとつ次も過去の作品をお話ししますけど、青森県立美術館という美術館を2000年から2005年くらいにかけてつくっていました。これはとても大きな建物なんです。さっき言った、人がその場所で自分で何かやりたいことを見つけてやれる、自由っていったらいいのかな、楽しみが見つけられるような場所。それをこの頃は原っぱっていう言い方をしていましたけど、原っぱ、みたいな自由さを持った空間をつくる。それは、おそらく形式的にも考えられることだし、素材の上でも考えられると思って追求した建物です。
この建物の隣に、縄文時代の遺跡の発掘現場があるので、この発掘現場の雰囲気をこの美術館にもってこようと思いました。それで地面に溝を切っていくと上向きに凸凹なランドスケープができますね。その上に建物を乗せて、それを今度は下を凸凹にする。上は雪が積もるので大屋根で平らなんですけど下は凸凹にする。そうするとこう噛み合うわけで、噛み合ったところに、床が土、壁が土の展示室ができるし、乗っかっている建物の中は普通の展示室ができて、自動的に2種類の展示室ができるだろうと。これが青森県立美術館にいいんじゃないかって思った提案でした。
これを設計している間にいろんなことがあったんですが…。奈良美智さんっていう有名な現代アーティストの生まれ故郷が青森の弘前なんです。その頃に奈良さんが個展をやっていたんです。巡回展だったのですが、横浜と青森は展示しているものは変わらないんですけど、断然、青森の方がよかったのね。青森の会場はこのレンガの建物なの。倉庫に見えるんですがこれは正確に言うと倉庫じゃなくて、大正時代の終わりの、リンゴ酒のシードルをつくるための醸造研究所だった。その後、倉庫に使っていたという建物なんです。 写真のように、壁が真っ黒でしょ。これはコールタールだと思うのですが、滅菌のためにコールタールを使っているんじゃないかと思うんだけど、木を真っ黒に塗ってるの。ところがボロくなっているから木と木の隙間があって向こうに断熱材が見えていて、そこに光が当たると銀色に光って、そこから日が射しているように見えるの。本人自身が、展示場所を決めているんだけど、レンガのボロい壁のところとか、窓があったのを潰したところとかにずらして絵がくるとかね。それから、リンゴを洗っていた部屋だと思うんだけど、剥げているモザイクタイルの部屋に、それに合うと思う照明をくっつけて彫刻作品をやるとか。もう展示として完璧だったのです。こんなすごい空間があって、これ以上の美術館を新築でつくれるんだろうかって僕は、悩んじゃったのね。よくよく考えてみると、建築家もいい美術館にしようと思ってつくっているはずなんですけど、美術館としてつくられてないものを改修した美術館の方が遥かにいい美術館だったりするっていう皮肉なことが起きていることに気が付くわけですね。例えば、この写真はテート・モダンというロンドンにある美術館ですね。この建物はヘルツォーク・ド・ムーロンが改修したということでご存知の方も多いと思うんだけど、元々は火力発電所だったんですね。火力発電所だから元々は巨大なタービンがあって発電機があって、そのための空間があります。その場所でカップアだったりオラファー・エリアソンだったり、毎年一人の作家がインスタレーションしている。これはタービンがある部屋だったからできた、美術のためには、とてもいい空間なんですよね。それ次は、ニューヨークからちょっと離れるんですけども、ディアセンタという財団のビーコンという展示施設で、中はすっごく大きな空間なんですよ。現代美術にほんとにいいんですけど、これなんかはナビスコの工場だったの。こうしてふたつだけを見ていてもね、やっぱり建築家がつくったものよりも何かを改修してつくったほうがいい美術館じゃんってことになります。どうしてそうかって考えると、アーティストはそこで自分で楽しいことが見つけられるから。建築家がつくった展示室っていうのは展示がしやすいようにってつくるから、作家にとっては余計なお世話なのね。自分でこうをどう使おうかなって思えた空間の方が楽しいわけですよ。要は、こうつくると展示しやすいんじゃないかってことは自由を奪ってるわけ。

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