平沼 : また一方で、公共建築としての役割を持つわけですから、コーナーに役物を使うとか、使わないということがマニュアルで決められていて、使わないで良いとしている設計者に対して、役人からの反発がありませんでしやか?

青木 : それは、最初から言うかどうかってことですかね。
土の床はタタキという方法だし、土の壁は版築みたいな方法なので、割れます。みたいな、最初から割れるっていいますし、割れることは良いことだと言い続けているんですね。

平沼 : あぁ、なるほど。(笑)

青木 : もうすこし詳しく話すと、割れるから普通は目地を入れるでしょ。目地を入れて、その目地で割れるようにするというやり方ですよね。でも、神様という自然がつくったクラックという「ジョイント」が生まれるわけだから、同じことじゃないか、と最初からずっと言い続けているから反発がないんですよ。

芦澤 : 青木さんがお話しされている中で、ルールと形式というお話に非常に興味があります。スライドを見せていただいたヘルツォークのテートのように、元々の特徴的な用途の場所に建築家がアプローチして美術館としての空間を獲得していく方法に対して、新築の場合でも、機能ではない何らかのルールあるいは形式を用意して、それをオーバードライブとおっしゃっていましたけど、美術館の用途というものを使って何かやっていくという方法でしょうか。

青木 : 例えば、さっきの断面スケッチですね。この断面スケッチがルールなので、このルールから平面図をどうやってつくるかですね。この断面図を見ると、もし自分がそこに居て前に歩いていくと、いま土の部屋で次は建物の中の白い部屋で、次は土の部屋でまた建物の中で、と交互に中外、中外、左右に行っても中外、中外となる。ということは、基本的には中と外が市松模様になっているような平面になるだろうとなりますよね。隙間ができるのはそれは作為的ではなく偶然生まれちゃうから、サイズがバラバラになっちゃう。それからプロポーションもバラバラになっちゃう。高さ関係も含めて、いかにこの市松模様のバリエーションを増やすかってこと。市松模様っていうのはおもしろくて、例えばここでいうと、茶色の所と茶色を地に思うと、白が図になりますよね。つまり背景が茶色で、そこに白が乗っている。逆に白を背景に考えると茶色が乗っているとみれる。どっちでもみれるようになっている。そうすると、普通は茶色の所がつながっていくんだけど、白同士もつながる所が要るんじゃないかというように。あの断面スケッチから出発して市松模様が出て来て、そのサイズとプロポーションをバラバラにする。それからこの白い建物の中と隙間を同等にするために操作を繰り返しやっていくと、ほとんど論理的に建物が設計できちゃうんですよね。それがルールのオーバードライブという風に思っています。

芦澤 : なるほど、なるほど。

平沼 : 想い出しました。十数年前のテンプラスワン(10+1)で、最近まで国立国際の大阪の館長をされていた建畠さんと、ホワイトキューブ論から美術館の、青森の設計の方法を探っていく対談を読んでいて、青木さんのその自動決定のやり方がとても独創的だなと思っていました。

青木 : 事務所の中で僕がひとりでやっているわけじゃなくて、スタッフと議論してやっているわけなので、ルールがないとものが決まらないじゃないですか。やっぱりディスカッションするってことは何らかの前提となるルールがいるでしょ。だから、あのスケッチが意味していることから外れちゃいけないというのは、スタッフ間でも共有出来るんです。クライアントである青森県の人も、この考えだけは変えられないというのがあって、あとは全部変えていいけど、このスケッチから派生することは許してくださいということで。何年間もやるわけだから、毎回このルールに合っているのかどうかっていうのをずーっとやっているから、結果的にそれがオーバードライブに見えるんですよね、きっと。共通する、土壌みたいな。

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