坂 :はい、これは2/5ハウスと呼んでます。なぜ2/5かというと、長方形の敷地を5頭分にした細長い長方形が5つあるのですが、そのうちの2つ、2/5だけが屋内で、3/5は全部屋外です。ここが前庭。中にリビングルームがあって、中庭があって、屋内があってというように、屋外と屋内が順番にありまして。図面の点線の所は全部ガラスの引き戸で、その引き戸を全部壁の外に引くと、壁から壁まで全部解放して外と中が連続するようになっています。左の写真は、ガラスが空いているときに、前庭のフロントフロートヤードから写真を撮ったところです。そうすると外も中も連続した一つの大きな床になります。2階にはあえて、ミースのファンゾワース邸のようなガラスの絵を乗せることによって、ミース的な透明のビジュアル空間を作り、その下にあえて日本的な透明な空間をつくることで、対比的に構成しました。
これは、ピクチャー・ウィンドウの家と呼んでいます。ピクチャー・ウィンドウというのは普通壁に正方形の穴をあけて、窓を付けて、景色のいい所をあたかも絵のように、取り込む家のことをいいますが、あえてそういう風に正方形の窓をあけるのではなくて、建物をトラス状に組み替えまして、建物全体を22mスパンの大きな水平のガラスの窓にし、ピクチャー・ウィンドウのように構成しました。前の引き戸は両開きになっているのですが、そこを開けますと、庭とそれから室内、更に水平の海の景色を見渡せるピクチャー・ウィンドウが構成される。そういう住宅になっています。
これは最近スリランカに作ったピクチャー・ウィンドウがテーマの住宅です。スリランカに津波があった時、ボランティアやっていたら、運良くお金持ちの人と知り合って住宅を頼まれました。建設予定地にはすごくいい景色があったので、それを3つのピクチャー・ウィンドウとして構成し、テーマとしました。建物が斜面の上にあるので、既存の家から少しずつ階段を伝って、少しずつステップがアップしていくような、そういう構成になっています。スクリーンを通って行くと少しずつ階段があって、入り口からダイニング、リビングルームへとだんだん上がっていきます。最後に辿り着くのが一番のメインのサロンで、そこに水平の大きなピクチャー・ウィンドウがあります。ここにはスイミングプールがあって、下のジムに光が水を通して落ちるようになっている。そういうピクチャーウィンドウをテーマにした住宅です。
これは、ナインスクエアグリットの家、9つの正方形の家と呼んでいます。両側に構造家具があって、真ん中に引き戸によって9つに分割された正方形があります。引き戸の締め方によって細長い空間になったり、中くらいの長方形になったり、小さい長方形の部屋になったり、まちまちにいろんな大きさに仕切る事ができます。唯一ここにバスルームとキッチンという名前のついた部屋があって、それ以外は寝室ですとか、リビングルームとか部屋に名前がついていません。だから、例えば夏は北の方にベッドを置いて寝室にしますし、冬は南側においたほうが暖かいので、南側に移すと、そこが寝室になる。また、夫婦喧嘩した時には2つ寝室を分けられるようになっています。このへんで笑っていただかないとあと続かないんですけれども…。

会場:(笑)。

坂 :これは東京に作ったレストランの建物で、ファサードが既製品なのですが、二面のファサードが全部ガラスのシャッターでできていて、それをオープンすると、スルスルっとシャッターが開いて、入り口の扉が見えてくるんですね。天気の良い日は、全部シャッターが開いて屋根の中に収まって、外のテラスと室内の空間が全部一体につながるようになっています。あ、質問もしあったら、いつでも聞いてくださいね。

芦澤:はいわかりました。

坂 :これは福島の岩城に作った家です。日本の家にしては非常に大きい家で、そこら中にコートヤードやプールなどがありまして、これも工業的なシャッターを住宅の開口部に使った例です。上の写真はシャッターが閉まった状況、シャッターが開くとリビングルームから直接プールに飛び込めるようなそういう構成になっています。これはファミリールームで、シャッターが開くとコートヤードと室内が連続するようになっています。

次もシャッターを1つのテーマとした建物で、銀座にスウォッチと作ったのですが、これ実は国際コンペだったんです。それで、施主の要望を全く無視したおかげで運良くこれ勝ち取った建物なんです。ご存じのように、銀座は土地の値段が高いですから、みんな間口が狭いんですね。それで奥行が深いと。スウォッチグループは、オメガやティソ、ブランパン、ジャケドローなど、いろんな世界的に有名なブランドを持っています。ここに最終的に独立した7つのショールームを持ちたいというのが条件でした。ただ間口が狭いので、普通に配置すると銀座通りに面するのは1店舗だけで、残りの店舗は後ろですとか地下ですとか2階とか、3階に配置されなきゃいけない。そうすると一店舗だけ銀座通りに面して非常に商業的にはいいのですけども、他は奥に配置されてしまうので、不公平が出来てしまうんです。なんとかしてその不公平が無いように、7つの店舗全部が通りに面するような事が出来ないかなぁというのが、まぁ、施主から要望されたわけじゃないですが、自分のテーマだったんです。それとなるべく空調を最小限にしたいという要望もありました。3層の吹き抜けのロビーやレセプションがあるのですが、その前面をシャッターにし、その後ろも4層分まではシャッターになっていて、シャッターを開けて半屋外化することによって、なるべく空調の使用を最小限にしています。さっき言いましたように、前面の4層分はシャッターが開いて、後ろも4層分開くことによってこの建物の中がパブリックの誰でも入れるパッセージ、つまり道になります。みなさん行くとわかりますが、銀座通りは、1本裏道に入ると細い通りにたくさんのお店が並んでいて、それが銀座の特色です。反対に銀座にないものは何かというと、緑なんですね。まっ、土地が高いから。だからここに銀座らしさと銀座に無いものの両方を作ろうと思いました。そこで、銀座らしい細い通りを作って、銀座に無い緑と、水の出る設備を壁に付けました。7つの各ブランドごとに3m×2m50pぐらいのガラスのショールームを道に沿って置くことで、全てのブランドが道に面してお店を出すことが出来ました。もっと時計を見たい場合は、ボタンを押すと、お客さんがそれぞれのブランドのショールームにアプローチ出来る。各ブランド専用エレベーターが、このパッセージに沿ってある。まぁそういう奇抜な案のおかげでこのコンペを取れました。

芦澤:坂さん、あのー・・・

坂 :はい

芦澤:要求されているボリュームに対して、かなりボリュームを抑えられたってことですか?

坂 :いや、マキシマムにとって。

芦澤:あっ、そうですか。

坂 :ええ。

芦澤:その分じゃあ高さは?

坂 :高さの制限はありますけど、要求の面積は取れています。この写真は、5階にあるそのパブリックのレセプションで、ここまでは、時計を直しますって言うと誰でもタダで入れるので行ってみて下さい。天気が良い日はここが開いていて半屋外化する、そういう場所です。一番上の14階にあるイベントに使う屋根は、ちょっと特殊な屋根です。この時ちょうどコンペで取ってポンピドゥーセンターの分館を設計していました。そこで使う木造の屋根のプロトタイプを、鉄骨で作り、ここでやらせてもらって実現させたものです。


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