平沼:谷尻さんは、どんな建築空間をつくりたいと目指されていますか?

谷尻:最近よく思っているのは、違和感を設計するということです。そのことをとても事務所では、話しています。

平沼:それは具体的にどんなものですか?

谷尻:良い違和感のことなんですけど、例えば数値的なものよりも圧倒的にひどく感じるのはどういうときにそういうことが起きるのか、とかです。それは狭いのに広いっていう違和感が、あると思うんですよね。だからそれは、暗そうなのに明るい、ということも良い方向に、なるでしょうし。そうやって、人がはっとする瞬間って、良い違和感を覚えている気がして、そういったことがどういうときに起きるのかというのを意識しながら、つくろうとしています。最近は。

平沼:もうひとつ聞かせてください。谷尻さんは建築の中で、人と人の関係どういうふうになっていけば良いと考えていますか?人と建築の関係でもいいのでお聞かせください。

谷尻:まず、最近よく言っているのは、不便さ、豊かな不便さみたいなことを設計した方が、人同士の関係も良好になるじゃないかなと思っています。もので解決しようとすると、人間はわがままな生き物なので、便利さを手に入れるとまたその中にある不便さをみつけるはずなので、それよりは、ある一定の不便さの中で、どう使うのかだとか、ということを、人がこう、能動的に考える、空間を作った方が良いんじゃないかなっていうふうに思っているので、変に便利に便利にしない、ということを、意図的に設計に入れようとしていますね。

芦澤:反機能主義みたいな。

谷尻:そうですね。ええ。
これは静岡で、洋服屋さんをつくったときのです。お店の名前が52ですね。
これは、あのオランジェリー美術館の写真ですけど、モネの絵が自然光の下に展示されてる、んですけど、モネってきっと太陽の下でこの絵を描いているので、鑑賞者にも、モネと同じ視点を、持ってもらう意味ではこういう、展示の仕方がふさわしい、だなと、勝手に読みとって、洋服も実は外で着るものなんですけど、実は自然光の下で洋服を選んでる環境がなくて、そういう意味で自然光と人口照明の、こう両方の空間で、服の本質を分かった上で買ってもらうことが、洋服屋のあるべき姿なんじゃないかという、ことでこんなものを、つくらしてもらいましたね。こんな感じですね。

芦澤:人口照明はかなり抑えている感じですか?

谷尻:そうですね、わりと、抑えています。外の光が一日、の中で刻々と変わってくれれば、その混ざり加減で、明るさが変わるので、それで良いのかなということで。

芦澤:なるほど。夜は結構暗くなる?

谷尻:暗いですね。はい。これも静岡で、カフェをつくったんですけど、たまたまつくる、その建物の目の前に自動車学校があってですね、なんとなく黄色い車と、黄色いポールが沢山あって、居酒屋だった場所を、リノベーションするんですけど、リノベーションするときって最初に解体するじゃないですか。でも、最初にお話したように、居酒屋という名前をとってみたら、カフェと居酒屋が一緒だということに気づいたんですね。それで、置いてあるものが厨房器具とか照明とかテーブル、とかカウンターとか、ほとんど一緒なんですけど設えが違うだけだったので、一色でこう、居酒屋を塗りつぶして、居酒屋の気配をこう、一度、消してみたんです。それで、床だけその、アスファルトひきこんで、カフェをつくったプロジェクトですねこれは。

芦澤:間違って車入ってきたりとか。

谷尻:はい、一応輪留めを、この辺にしているので、大丈夫かなと。後は、店内にわざと、黄色い色を配色すると、なんかあたかも自動車学校の一部のような、どこまでもカフェが続いているような、どこまでも自動車学校が続いているような関係性を、つくっています。

芦澤:自動車学校の人いっぱい来ますか?

谷尻:結構来てくれるみたいですね。

芦澤:すごく良い効果ですね。

谷尻:はい。ソファー席もミニクーパーの、シートをオークションで買いました。このお店のものじゃないかという、黄色いラインの入ったものが見つかってですね。こんなものを作ったり…。
これは最近竣工した、今治のオフィスです。これは環境に配慮した、オフィスをつくりたいとのことで、3者ぐらいの指名コンペだったんですよ。それで、僕ら、勝たして頂いて、出来上がったのですが、結局エアコン使ったりするとエネルギー使うじゃないですか。照明もしかりなんですけど、人間がわがまま言っているから、エネルギーがいる、わけじゃないですか。だから、人のためだけにエネルギーを使う、ということをコンセプトにして、わりとここが執務空間ですけど、収納は全て外にあってですね、カタログとか、書類って、暑いとか寒いとか言わないので。最小限の執務空間だけでエネルギーを使う感じです。

芦澤:なるほど。

谷尻:昔で言う縁側のように、ぐるりと空気の部屋がもう1層あるので、外との間の干渉体になってくれるっていうのと、そういうことをやりながらこんなオフィスを造りました。自然界の中で太陽だけは規則性を持っていると思ってですね。必ず今日の12時と1年後の12時に同じ位置に太陽が帰ってきてくれるので、それをエンジニアリングして、じゃあ外のルーバーのピッチはどれぐらいにするかだとか、奥行きどれぐらいにして、どれぐらいの光をどこに入れるかみたいなことから、だんだんファサードデザインを決めていったプロジェクトですね。

芦澤:そのエンジニアリングは谷尻さんの事務所でやっているんですか?

谷尻:それはArupとやりました。あと、建物以外のことで、お話をたまに声をかけてもらうようなこともあって。これはCOACHさんという鞄のブランドから鞄をカスタムしてくださいって言われたものです。この新しいカスタムってないかなといろいろ考えて、鞄に3mmのパンチングをずっとしてですね。鞄から皮の3mmの丸い材料をたくさん取り出して、それで絵を作って。そうすると、鞄って外に出かけるものですけど、家の中に居続ける鞄の一部と外が自然と感覚的につながっていくような、何かそういう新しいカスタムがあってもいいんじゃないかっていうのをやりましたね。

芦澤:これセットで売り出しているとか?

谷尻:これチャリティーオークションですね。被災地にオークションの売り上げをっていうのでやったプロジェクトです。あとは、建築でもないようなアートのようなものですけど、マウンテンジムっていうのを去年六本木でやりました。ジャングルジムって、高いと落ちると危ないですけど、山っていつのまにか高い所に登れている、というのがあるので、そういう緩やかなジャングルジムを造って、登るとジャングルジムで、休みの日は猿山みたいになっていましたけど、こんな感じで。

芦澤・平沼:(笑)

谷尻:これ、中に入ると建築じゃないですか?人がこの辺に座るとベンチになって、夜になるとアートのようなものになるので、ものの名前が人との関係性によって変わるんだなってことを、いつも考えていたので、それがわりと明確に造ることができたものかなと思っています。

芦澤:これ、どちらにあるのですか?常設?

谷尻:六本木ミッドタウンの芝生広場のところにあります。2週間だけでした。これは、尾道で今やっている倉庫をサイクリストのためのホテルにするっていうものです。しまなみ海道に自転車乗りがたくさんやってくるので、それを県にプロポータルだったのですが、出して、とれました。年末ぐらいオープンで、今進めているような感じで、やっております。

芦澤:これ自転車ならではの仕掛けとか空間の特徴とかって何かあるのですか?

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