平沼:大丈夫。(笑)ま、そんな話を聞いていて、僕も何回かトライアルした事があるんですけど全然、笑ってくれないんですよね。

藤本:へー。

平沼:それでYouTubeで、Sou Fujimoto Lectureを調べてみると、会場が笑っているんですよ。これは一度聞きに行かなきゃいけないんじゃないか、と思いながら見ていました。何か、コツみたいなものってありますか?

藤本:僕、普通に日本語で喋っていても全然人を笑わせられないのですよ。英語で話すレクチュアは、ホントにベタなネタで笑わせています。(笑)なので、あまり自慢できるような、特に大阪でそういう笑いの話ができるようなものではないです。 例えば今日も持ってきたトイレのプロジェクトがあるのですが「トイレのプロジェクト」だけでみんな笑ってくれるんですよね。建築に全然関係ないネタでも笑ってくれるんですよね。

平沼:大阪で「笑ってね」と言うと、ハードル高くなるからダメなんですよ。

藤本:日本ってそうですよね…、笑ってねって言うと「何言ってんのこいつ」みたいになるけど、海外は、「ここ面白いとこだよ!」という感じで言うと、ちゃんと笑ってくれるんですよ。

平沼:おお。なるほど!つぎやってみます。

芦澤:建築そのものが面白いとか、そういうことはないですか?

藤本:まぁ、トイレの場合はね。普通に見て笑えるから、そこに少し笑いのネタを付け加えてあげると、よく笑ってくれますね。(笑)でも別にレクチュアは笑わすことが目的じゃないので、一応ちゃんと感動もさせて、笑いもさせて・・・、

平沼:あ、じゃ皆さん、今日はそういう会を期待しておきましょう。(笑)

藤本:いやいや、ハードル上げないでくださいよ。(笑)

平沼:(笑)でも藤本さん。そもそもなぜ建築をしようと思いましたか?

藤本:これは、話すと長くなる割りには落ちがないんですよね。結論から言うと…、あっ、ノート広げないでよ。大した話じゃないんだから。(笑)

会場:(笑)

平沼:会場の方たちすごいですね!書くぞ!みたいな勢いがノートを広げるスピードから伝わります。(笑)

藤本:(笑)ありがたいです。 でもあまり積極的に建築を志していた訳ではなく、半ば消去法でしたね。元々、物を作るのが好きだったり、絵を描いたり、なんか手を動かしたりするのが好きだったんですけ。たまに本とかにも書いてあるんですけど、中学生の時にアントニオ・ガウディの本を見て建築の道へ…というくだりもあるけど、別にそれで建築家になるんだ!ってなった訳でもなく、ただ建築はそういうクリエイティブな仕事のひとつなんだなっていうぐらいだったんです。高校生の時は、物理学者アインシュタインの事がものすごく好きで、アインシュタインの入門書を読むと、言ってみれば、ひとつの数式によって世界観が変わるみたいなね。なんかガラッと世の中の価値観とか見方を変えるっていうのは、常々かっこいいなと思いはじめたんです。物理学の世界って本当に頭のいい人しか出来ないんですよね。一応理系で東大に入っているからそこそこ得意つもりだったけど、最初の授業で、先生が話してる事何一つ理解できなかったんです。
これは初めての経験だなと思って、周りを見たら、それなりにわかっている風なんだよね。言ってることがわからないから僕はノートをとることすらできなかった。それで、これはもしかして、いわゆる、「わからない」ってやつだなと思って。わりと早々に諦めたんですね。別に打ちひしがれた訳ではなくって、これは僕が達せるレベルでは全然ないなと。その後とブラブラしてたんだけど、1年半ぐらいしてから決めなきゃいけなくなって、そこでもしかすると建築なのかな…?って感じで、建築の事そんなに知らないし、特に建築の下調べをした訳でもなく、当時はアントニオ・ガウディぐらいしか建築家の名前は知らなくて、コルビュジエもミースも知らなかったんです。だけどなぜか建築って志望欄に書いて入ったんですよね。

芦澤:東大の2年生までは…。

藤本:そう、1年半は一般教養みたいなことをするような感じになっています。皆さんご存じかと思いますが、コルビュジエとかミースは調度アインシュタインと同じ時期に、同じ様に世界観・価値観を変えるような提案をしていたと後で分かって、これだよ…僕がやりたいのは、ってすぐシフトしました。

平沼:そんな藤本さん…どんな空間をつくりたいと目指されていますか?

藤本:いきなりこれでなんか終わりそうな感じ。(笑)

平沼:いやー、ダメです。今からです!(笑)

藤本:難しいですね。一言で言うと嘘くさい感じがして…、でも先ほどの話みたいに、今までの歴史が積み上がってきたものを現代という時代において、まずは引き受けたいなと思います。過去数千年の間いろんな地域でいろんな試みがなされてきたことを引き受けて、それを未来に受け渡していく仕事なんじゃないかなと思って、特に最近そう思うんですよね。だけどそれは単に、歴史を学んでいればいいって訳じゃない。やっぱり最大限のクリエイティビティを持って、歴史の上に置いていくような作業なので、だから今までの建築ってこういうもんだよなっていうものに根ざしながら、でも今までの建築ではない何かを作り出したいなと、とても曖昧で申し訳ないんだけど、大きな意味はありますね。

平沼:分かります。村野藤吾さんが関西におられて、お亡くなりになられる前に書かれたのが、「建築の歴史の40年ぐらいを当番しただけ」だって。担当したんだ、ただそれだけっていう。

藤本:でもその担当する人が、最大限全力でやらないと、それは担当したことにならないですよね。

平沼:次の担当者が困りますからね。

藤本:そうですね。具体的にはもう少しプロジェクトを見ながら、空間の話をすることになると思います。

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