平沼:国際コンペで一等になられた、この集合住宅の話しを聞かせてください。

藤本:モンペリエのものです。モンペリエは南フランスの地中海にほど近い街で、古い街がありますが、実は、建築に昔から熱心なまちなのです。70年代か80年代にリカルド・ボフィルっていう建築家がいて、ポスト・モダンの建築家ですが、神殿のような感じで新市街をつくりました。さらにその向こうに、現代建築家を色々招いて新しいまちをつくっていて、例えば市庁舎、市役所が、ジャン・ヌーベルの設計でもうできていたり、ザハの建築があったり、まさに現代建築のメッカのような感じになっている場所です。コンペティションが色々ある中で、たまたま集合住宅をつくるというコンペがあるので一緒にやりませんかと、あったこともないフランスの建築家からメールが来ました。よく調べてみると、彼らはジャン・ヌーベルの事務所出身の若い2人で、良さそうな方々だったので一緒にしました。最初は書類審査で、MVRDVとArchitecture Studioというフランスの大きい事務所と、僕たちの3人がファイナリストに選ばれました。これはディベロッパーも一緒にチームになり、かなり本格的に、建築だけじゃなく、エンジニアリングからどのように売るか、採算が合うのかまで詰めて提案するコンペでした。僕たちは、バルコニーのお化けみたいなものを提案しました。このバルコニーが長い所だと8mぐらい出ています。幅4m、5mの大きいバルコニーが飛び出しているアパートメントです。考え方はとてもシンプルで、モンペリエは南仏の街で、彼らのライフスタイルは、天気がよければ外で生活するという話を聞いたので、そういうまさにそこのライフスタイルそのまま現代建築になったようなものにならないかと考えました。バルコニーは、普通のアイテムというか、集合住宅といえばバルコニーがついている。それが巨大化していっぱいついたっていうだけで、何もしていないに等しいのですが、その普通さ故に、新しいスタンダードというか、さきほどのサーペンタインのグリッドを使っていながらグリッドを超えたような、そういうインパクトがあったような気はしています。もちろんそうはいってもまじめにしっかり考えていて、敷地をみると、左側に見えているのが川で、川沿いにグリーンベルトみたいな緑地があります。そこで川沿いはグリーンベルトを連続させようと。また北側に既存の建物がありますが、そこの視線も通してあげようとすると、敷地の右側に建物が寄るような感じになりました。視線を遮らないように建物の形をふにゃーっていう形にして、そうすると不思議なムニュっていう形になって、バルコニーを出すアイデアは最初からあったので、ここからバルコニーが出ていたら、毛むくじゃらの不思議なものになるのではと、建築ぽくない何かになるのではということで、俄然盛り上がりました。

芦澤:コンペティターはMVRDVだったのですか?

藤本: MVRDVでしたね。

芦澤:MVRDVの老人用住宅のバルコニー案を越えていますね。

藤本:越えてはいないのですが、正統的継承者というか、そういう意識はありました。MVRDVはコンテナを積み上げたような感じで、バルコニーをたくさん作っていたので、これが普通ですが、どストレートのど真ん中を突き抜けて向こう側にいっているという意味で、ある種新しさと普通さが同居しているという面白さはあるのかなと思います。

芦澤:バルコニーがあることで内部プランは変わっていますか?

藤本:一切変わっていないです(笑)。ディベロッパーが一緒に入っているので、コストのことをどうしても気にしますので、真ん中の建物の部分は、本当に普通のただのコンクリート造の建物です。中もすごく普通に割られていて、アパートが入っています。バルコニーにお金がかかるので、内部で遊ぶ訳にもいかなくなりました。そのバランスを考えた時に、もしかして、とても普通の本体にめちゃくちゃバルコニーがついて毛むくじゃらになることで、建物が化けるというのも、それはそれも面白いのかなと感じました。経済原理にも絡みながら、新しいスタンダードを作るという意味では、経済的にどこまでも攻め込む訳にもいかないわけです。
ニームという町が南欧仏にあり、ジャン・ヌーヴェルの初期の傑作の集合住宅があります。船みたいな形ですが、大きなバルコニーがついていて、手すりが外側に広がっていて、船みたいになっています。僕が大学四年生のときに、行ったことあるのです。すごく好きだったので、行って、感動して、その記憶がずっとありました。そのインスピレーションに向けて、現代に引き継いで、未来に引き渡して行くみたいなことを言ったりしています。

AAF:それでは会場からご質問をお聞きしたいと思います。

会場1:大阪大学で建築を学んでおります。ひとつご質問をさせてください。藤本先生が学生の頃、進路についての考えを見つけるきっかけとなった本などはありますでしょうか。どうか教えてください。宜しくお願いします。

藤本:1冊をあげるとしたら、自然科学の本ですが、「混沌からの秩序」ですね。混沌から秩序が出来上がってくことを物理科学的に説明している本です。それは元々秩序というのは、バシっとできるものだと思われていましたが、60年代、70年代ぐらいに、雲のふわっというものの中に秩序があるとか、森がふわってなっているなかに秩序があるのではないか、エントロピーが、温かいものと冷たい水が混ざるというところのなかに秩序が生まれてくるような内容です。それを読んで、これこそがコルビジェの秩序に変わるものだと思いました。先ほどの段差の住宅においても、拠り所が常に変化しています。床レベルが一階二階じゃなくて、僕が今立っている所が床であり、座った所が椅子だけれど、この椅子に座ったら、そこが床になるよね、という常に秩序が揺らいでいきます。そういうような考え方はその本から影響受けました。もうひとつ上げるとしたら、ロラン・バルトの「表徴の帝国」という、まさに日本文化をフランスの人が見て、こんな変な面白いことが起こっているね、という本です。それはとても示唆に富んでいます。今日はあまり言わなかったけれど、日本ということをとてもよく考えていて、それをよく考えるきっかけになった一つです。

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