芦澤:そういう建築を設計するということだけではない、物づくりだけではないソフトづくりだとか、プロダクト、先ほど言われたような世界観をつくるだとか、幅がかなりあるということですか?

鈴野:そうですね。ただ、インテリアでやっていてもそれが都市を楽しく、豊かな空間に変えていきます。インテリアとかプロダクトをやっているように見られるのですけど、どちらかと言うと、常に都市に繋げていきたいなというところがあります。ある意味で建築が真ん中にあります。

芦澤:楽しいということを、僕らの前の世代の建築家は口にしないですよね。もっとストイックに、社会とは、文化とはとか、そういう言葉を使いますけど、鈴野さんの世代は、もっと軽いような気がします。楽しいとか、幸せだとか、すごく大事なことだと思います。

平沼:僕がひとつお聞きしたいと思ったのは、鈴野さんはきっとこれから、例えば大規模の建築を依頼される機会がある。その時に当然ながら構造とか防火や避難の、法規以上の安全安心の防災がくっついてくるわけですよね。これを僕たちは解きながら、空間性を魅せるわけですよね。でも、どんどん構造や耐火被覆なんかが大きくなってきていて、建築という固く強固な殻のようになっていく。もちろん、雨風もぬぐわなきゃいけないし、地震から人の安全を守らなきゃいけないから、どうしてもそっちに意識が倒れがちになる。でも違った解釈というのかなぁ、新しい、つくり方みたいな方法を、実はお持ちですか?

鈴野:建築を設計するときは、家具をデザインするようにとか、家具デザインするときは建築を設計するようにとか。建築って固くて、しっかりしたものにしていくものだと思うんですけど、どちらかというともう少しパーソナルな、家具のようにとか、思考をなるべく、方向を変えていく意識をしています。

平沼:なるほど。

鈴野:ミラノサローネのキャノンの展示では、1年目は石上純也さん、そして2年目、3年目は連続で、平田さんが手掛けていました。大きい空間とプロジェクターが数台与えられて、あとはインスタレーションというか、力をフルに発揮したものです。プロジェクターを見せる展示会じゃないので、なんだろうと考え、スクリーンをつくる事になるんです。平田さんが、みんなも覚えておられるかもしれませんけど、ぐにゃぐにゃしたスクリーンとかパキパキしたスクリーンをつくっていました。そのあとに何かできるかなと思って、なるべく原点に戻ろうとするんですけど、その時には、常に頭で考えるんじゃなくて、桐山さんというプロデューサーから「空気の器のように」と言われたので、ものすごく大きくつくって実際にプロジェクターであててみたりもしました。そもそもプロジェクターとスクリーンという関係を見直してみると、ここにスクリーンがあるから見えるのですけど、途中にもこう映像はあるとなりました。ここの部分だけを、実際には見えないんすけど、確実にあるので、映画館とかでチリがあったりすると、そこにすごく光線が見えるとか、水蒸気があって、朝なんかだと太陽の光が線のようになってくるだとか、そういうところだけを取り出せないかなと思いました、あとは普段見ている、海外に行ったりとか旅行に行ったりとか、普段自分の写真ですけど、これは面白いなと思って、日本の織物工場ですね、縦糸と横糸を織っていて、これ自体がすごく光線のようで面白いなと思っていました。プロジェクターとスクリーンを結ぶたくさんの糸を使ったのですけども、結んで、そこにプロジェクターを当てると、途中の見えてなかったところが、飛び出すのじゃないかという所でつくりました。入ると、実は糸で、糸が壁まで貫通していて、その糸で刺繍ができているイメージです。糸の刺繍によって「WONDER」という文字列を描いています。中に入っていくと、ガリバートンネルみたいなところを通っていくんです。輪郭にたくさんの穴があいていて、そこから糸で引っ張る。18mくらいあります。光線はたわまないので、実際には建築の水糸を使いました。だからすごく安いですけども、白い水糸を使ってビンビンに引っ張ったわけです。そこにプロジェクターを当てると面白くて、スクリーンの方ではなくて、このプロジェクターの方を見て、映像が自分に降り注いでくるような体験ができました。映像を見る方が結構淡いですけど、逆向きはすごく強い光で、はっきりとした映像も見えます。

平沼:みんなこっち側を見ているんですね。

鈴野:はい。こういう空気のようなスクリーンをつくりたいというところに落ち着いたのと、自分たちで形を与えるだけじゃなくて、そこにある見えないものを、1本の糸をそこにつけるだけで、すごいきれいな光がそこから出てくるわけですね。そこにあるものを見させるのは、すごく建築的なのかな…。

平沼:そこにあるものを発見して、気づかないという物を気づくようにしていくという意識ですね。

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