原 :お金を儲けろって訳じゃないんですよ。物の見方をちょっと変えないとね。生命の基準が、どんどん違ってくるんじゃないか。老人がどんどん増えてくるし、そしたら、老年学校とか、義務教育みたいなシステムをつくってみんな健康にならなくちゃいけないとかね、そういう風にしないと寝たきりっていうのは問題じゃないかって。

平沼:そうですね。

原 :そういう事を最近すごく感じているんです。

芦澤:そういう高齢社会と言いますか、120歳くらいまで続くと想定するこれからの社会の中で、建築でできる様な事ってありますかね。

原 :まず基本的には、僕は皆学生たちを育てる時に言うべきだけれども、焦っちゃいけないと。待つって事を覚えなくちゃいけない。60歳くらいはもう軽く待ってて良い訳ですよ。

平沼:原先生のお話しをお聞きしていますと、年をとることに少し余裕が出てきました。

原 :そう、ぜんぜん余裕で待っていていいよ、建築家はね。もっと生きるとすれば、建築で色々やるという事じゃなしに、あなた達自身の生き方を考えた方が良いんじゃないかって、長期的に色々武装した方が良いんじゃないかと思ったわけです。
話を建築に戻します。住宅の紹介は終わりまして、大きなプロジェクトを3つ紹介致します。『梅田スカイビル(1993)』です。

芦澤:僕の部屋から見えます。

原 :そうでしょ。毎日その表情が絶対同じではないはず。変わるんですよね。次のスライドは、キャメルの宣伝「Smoking seriously harms you and others around you!」、このキャンペーンはですね、実はこれ南米から送られてきたんです。一緒に実験住宅をやっている連中から。ラクダと桜。梅田スカイビルがラクダの足になっているでしょ。良いんじゃないかと思った。

平沼:これ良いんですか??

原 :良いんじゃないのかなって言うのはね、これはキャメルのアジアへ行こうキャンペーンのポスターなんです。

平沼:ラクダに乗って?

原 :ラクダに乗ってね。あっそうだ、僕も気がつかなかったけど、そう、ラクダに乗って。(笑)その次は、数日前の出来事ですが、今パリに行っているドクターの子が撮ったばかりの写真で、その子が向こうの地下鉄で、この宣伝を見たという。梅田が出ているぞって送られてきたので、今日皆に見せるのに一番だと思いまして、今日一緒にやったメンバーもたくさんきてくれているんでね。普通だったら富士山じゃないですか、日本へ旅行に行こうっていう宣伝には。梅田スカイビルが出るっていうのはすごい。彰国社から、スカイビルを巡るディクショナリーみたいな本(建築文化別冊『空中庭園 – 連結超高層建築1993 – 新梅田シティの記録』)をだしたんだけど、その時に関係する人の名前を全部集めたんです。積水の関係した人から始まって、大阪の役所の人達、それから施工会社の職人さん。最初から最後まで関係する人を集めろって言って8,000人集まったんだよ。それでその8,000人の名前を全部本に出して、そういう建物なんだと。建物ってのは一人で建築家が作るんじゃないから、あまり表で言っちゃいけないかなって感じがいつも意識としてある。梅田スカイビルができた日は本当すごくてね。ヘリコプターがバーってあって、リフトアップとかして。空中庭園ができた時にね、現場の人達、吉永さんとか原田さんとか積水の石田さんとか。仲間達が来てくれているけど、その人達が本当に頑張ってくれている。僕はちょっと遠慮していたんだけども、3つのプロジェクトを強く押し出した方がいいんじゃないかって思っていたのは、誰が作ったのか、少なくとも誰がこれに関係して作ったのかという詳細をはっきりさせといた方がいいんじゃないかって思い出したんです。つまり、それはアトリエが作りましたって言ったって、いやこの時やったのは中谷じゃないかとか、そういうのをちゃんと記録しとかないといけないんじゃないかと。それが永続する組織だったらいいんだけど、そうでないとすれば。

 次は「京都駅ビル(1997)」です。京都駅に関して言えばですね、梅田が建ってもう20年くらい経っているわけです。我々は自惚れじゃなしにこれがどういう建物くらいなのかって認識していたつもりなんです。みんな、この建物が実現すればどういう事が起こるのかって分かっていた。しかし、世界に発信する一般的な広告に出てきて、外国から皆が見に来てくれるという風になるには梅田スカイビルを例にとると、20年かかってるわけです。そういう意味からすると京都駅は大論争があった中で、僕は沈黙を守った。外国の方が日本に来て、僕が京都駅設計したんだよって言うと、ええ!?本当!?とか言ってみんな驚いてくれるのですよ。建物を知っているって言う意味でね。一番知られているわけです。子ども達も修学旅行なんかで。だけども色んな思いがあって、これは後30年くらい経ってから話した方がいいんじゃないかと考えています。
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