内藤:別にさぁ、金儲かるわけじゃないし。いっそ、金に走るとかね、女に走るとかね、いろんな人生がある訳じゃないですか。だけど、なんかわからないけど机にかじりついてさぁ、夜遅くまで線ひいたり、模型作ったり、施主から頼まれもしないのに少しでも良い物をつくろうみたいな。それって本当に、どうなの?って思いません?

芦澤:そうですね。ちょっと思いますね。

平沼:ふふ、いやぁ、思うんですか?

芦澤:このぐらいの歳になって、少し考えるところがありますよね。

内藤:建築家って、不思議な商売でね、頼まれもしないのに良くしようとするんですよ。その分、裁量労働制でね、設計料の外なんだよね。だから勝手に良くしている商売なんですよ。こんなアホな事で、一生潰していいのかってやっぱり…思うわけじゃないですか。それで、これもしょうがないかなと思ったのは、海の博物館の収蔵庫ができたぐらいの時に、「これだったらやってもいいかな」って思ったんですね。それが37歳か38歳ですね。

平沼:なるほどー。

芦澤:その時に建築の面白さを実感したって事なんですね。

内藤:例えば、建築を思考的に考えるってことでは磯崎さんに敵わないだろうなとかね。それから僕がスペインにいた時の師匠のフェルナンドは非常にアーティスティックで、天才だと今でも思っているんですけど、とても敵わない造形力っていうのがあった。帰国してからの師匠の菊竹さんも技術を横断して変えていくような破壊力があって、どれも敵わないんですよ。で、一番敵わないのは僕の大学の師匠の吉阪隆正で、人間としてもう敵わないと。

平沼:(笑)

内藤:敵わないものだらけで。やっぱりこういうやり方だったらば、自分なりに新しい価値を生み出していけるかなと思ったのが海の博物館の収蔵庫ができたときだったと思いますね。見えていない時は、もう明日にでも辞めてやろうかって思っていました。

平沼:じゃぁ早速に、海の博物館。

内藤:いい建物ですよね。(笑)

平沼・芦澤:ははははは!(笑)

芦澤:いやぁ、良い建物ですよ。

内藤:もう収蔵庫ができて30年近くになりますね。展示棟まで含めると25年ぐらいですけど。貧乏博物館でね、ほとんどメンテナンスしていないのに、なんとかなっているってのは、一応立派なんじゃないかなと思います。

芦澤:この海の博物館は、ずっとここにあり続ける建築に思えるんですよ。内藤さんとして、何年ぐらい保つイメージをもたれていますか?

内藤:展示棟の方は、人を入れて見せる消耗品ですから、ある程度短いかなと思うんですよ。今から考えると、木造で多少無理しているところもあるのでね。収蔵庫の方は、未だに性能的なところは全然落ちてない。一般の収蔵庫みたいに空調で温湿度調整をしていませんからね。ほっといたら2〜300年いくんじゃないですかね。

平沼:そんなにですか。

芦澤:空調はほとんどないんでしたっけ?

内藤:はい。博物館の館長がケチンボで。

平沼:はははは。(笑)

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