平沼:なるほど。じゃ早速に、レクチュアの方を進めて頂いても良いですか。

千葉:こういうふうにやり取りしながら進めるレクチュアは初めてで慣れないのと、こういう状況だとは知らずに山のようにスライドを持ってきたので、最後までいけないかもしれませんが、今日は人の集まり方をデザインするということについてお話します。僕は、建築は人が集まるために作ると思っています。その事について、これまで携わったプロジェクトを通じてお話ししたいと思います。最初にお話しするのは工学院大学の総合教育棟ですが、この建物を説明する前にお話ししたいのは、映画の話です。これ、皆さんご存知ですか?「家族ゲーム」という1983年に公開された森田芳光監督の映画です。僕はこの作品を大変よく覚えています。これは要するに、当時の家族間にあった様々な問題、受験とか家庭内別居とか、そんな問題を、この食事の1シーンで描ききったところが凄いと思っています。多分皆さんは、こんなふうに座ってご飯を食べないですよね、家族だったら。僕は、どういうふうに人が、ある空間なり場をつくるかということと、そのコミュニティの関係は密接に関わっていると思っています。だから、普通はご飯を食べるときは、家族だったらこうで、こんなふうにしてご飯を食べることはないと思います。そういうことを建築でも考えたい。ただ世の中には、こういうふうに、まるで同じ方向を向いて座っているかのような建築がいっぱいあります。家具だったら動かせますが、建築だとそうはいかない。そのことをどう考えていったらいいのか、それがここでのテーマでした。
この総合教育棟は、基本的には大学の校舎で、キャンパスの一角に建っています。キャンパスの中を見てみると、ほとんどの校舎はこういう片廊下型の建物です。まさに横並びでご飯を食べているような。それをもう一度考え直そうというのが設計のスタートです。そういう意味で言うと、僕にとって設計は、関係性を考えることと言ってもいいと思います。何か新しい形をつくるのではなく、その場に必要とされている関係性を見つけていこうと。これはコンペでしたが、この時に提案したのはこのようなL型の建物が4つ集まって、真ん中にパサージュと呼ぶ隙間状の空間と、敷地の4隅に広場をつくろうという考え方です。こういう通常の片廊下型の建物をL型に曲げ、それが背中合わせに集まる関係をつくると、大学での様々な活動がいつも感じられるような場ができると考えたんですね。人が集まってそこで様々な情報交換が行われることが大学の原点なので、そういう関係を考えていこうということです。だから、1つ1つの建物をみれば単純に教室が並ぶ方廊下型の建物ですけど、それらが集まって築く関係性によって、全く新しい場をつくろうとしたものです。大体コンペは提出まで1月半くらいですね。その期間にこのくらいの検討をします。最終案に近いのがこのへんにあります。いろんな検討の過程で、敷地の4隅が大事だと気付いたというのが1つあります。それは大学の全体のキャンパス計画との関係の中で見えてきたことです。同時に教室同士がどういう関係性を築くべきか、ということが検討の重要な視点になっていました。その中で、L型の建物が4つ背中合わせになれば、大学のどんな場所でどんな活動が行われてるのかを日々体感できる、そう気づいたのです。僕たちの事務所は非常に泥臭く、模型と図面でスタディをするのですが、L型4つに決まってからもこのくらいスタディしていますね。

芦澤:コンペは案をどのタイミングで決めるんですか? 1週間くらい前ですか?提出の。

千葉:いやー、もっともっとギリギリですね。だから、さっきお見せしたのはコンペの時に提出した図面ですけど、プレゼンがしょぼい。よく審査員の方が拾ってくれたなと、本当に感謝しています。

平沼:でも、コンペ強いじゃないですか。

千葉:そんなことないですよ。勝ったとこだけ見てると強そうに見えるけど、その間に20連敗も30連敗もしてますから。僕たちは、基本的には下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると思って出してるし、あと半分は筋トレだと思ってやっています。考えることや、スタッフと一緒に議論して案を練り上げるということは、日々やってないと中々できないですよね。テニスだって、素振りもしないでいきなり試合に出ても勝てない。なので、基本は筋トレだと思ってやっています。

平沼:凄いなこれ。うん。

芦澤:スタッフの方とどんな感じで案を出したりとか、進められるんですか?

千葉:それは本当に自由です。プロセスの中で色んな気づきがありますよね。さっきみたいな、キャンパス全体のマスタープランから考えたら、こういうとこが重要かな、みたいなことから案をつくっていくんですけど、案を1つつくると常に新しい気づきがあって、そのディスカッションの繰り返しですね。最初からこうしよう、みたいなのはないんですよ。

平沼:やりながら考えていく?

千葉:ひたすら、やりながらですね。

平沼:初期のスタディでも50はありましたよ?

千葉:あの土俵に登っていないものもあるので、あれの3倍くらいあるかな。

平沼:ふふふ。凄いなー。

千葉:これは一番大きな広場で、この広場を通って潜っていくと、その後ろのパサージュと呼んでいるところに出ます。ここに来ると、先生の研究室もあれば、大小様々な教室もあって、それらがお互いに見合っている関係になっています。基本的には、どの教室からも別の教室が見える。隣の授業も聴けるような状態になっている。

平沼:あ、気持ちいいですね、凄い。

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