芦澤:大学の研究室ではそういうご指導をされてるですか? 建築家として将来進めと。

千葉:そういうことを直接言ったことはないかもしれないですね。大学では、今日のお話しとは全然違うことをやっています。ついでだからお話すると、大学では、実際の仕事だとなかなかできない思考実験みたいなことをやっているところもあって、半分はリサーチプロジェクトをやっています。リサーチと言ってもただ調べるのではなくて、むしろ通常の仕事では手に負えないようなことも含めて提案をしていこうと。1つは東京の湾岸の将来像を描くことをしています。ここ1年くらいずっと継続しています。東京は、せっかく海に面していて、埋立地も含めると海岸線の長さはもしかしたら日本一長いのではないかと思うくらいあるんですが、でも東京は海辺の街だと思う人は少ないくらい工業用地、あるいはゴミ捨て場として使われ、後は暫定利用しかしてきていないわけです。かつて丹下さんが1960年に東京計画を発表した時に描いたのとは全然違う形で、そういう都市的なスケールの話を建築家が語らないといけないかなと思って、そういうプロジェクトを行っています。

芦澤:へー。それってあれですよね? 東京都に依頼されてってことではなくて。

千葉:じゃないです。勝手にやってます。

芦澤:なるほどなるほど。

千葉:もう1つは、全然違うスケールのプロジェクトですが、建具の研究をやっています。それもまたある企業と共同研究で行っているんですが、建築の境界面の研究です。関係性をつくるという僕の一つの大きなテーマを今日はお話ししましたが、さっきのフェンスも1つの境界面と言ってもいいです。その境界面がどうあるべきか、というテーマは、今の時代に様々な住まい方が社会の中に生まれてきている時代に必要な視点ではないかと思っていて、中でも建具が興味深い。日本はもともとすごくたくさんの建具の種類がありましたよね。鎧戸や蔀戸があったり格子戸があったり、襖もあったり障子もあったりと。現代は、そういうものがどんどん失われている時代だと思うんですが、失われたのにはそれなりに理由がある。なので今の時代に必要な建具、現代のコミュニティや様々な新しい社会の関係性にとって必要な建具を、新しい素材とともに考えていけたらおもしろいなと思っています。

平沼:これ最後に聞きたいんですけど、千葉さんのご自身で思うご自信の個性ってなんですか。

千葉:僕たちがつくっている建築は、毎回違うプログラムで、違うクライアントで、違う場所に建てています。そういう一回性が建築で一番おもろしろい点だと思っています。当然敷地の読み取り方や、プログラムの解釈、クライアントの付き合い方も含めて毎回異なるのですが、もしかしたらその読み解き方に一番の個性が現れているのかもしれません。それは直接的にかたちに表れることではないのかもしれませんが、ある状況を空間化するその触媒的な役割が一番面白いと思っている時間でもあります。

芦澤:特殊解をつくられているというよりはある種の共有解をつくられ、その個性というのはどうしてもある特異性という見られ方をされてしまうんですけども、千葉さんの場合はある種の可能性を示されてるところに個性があるのかなと思って。

千葉:いつも特殊解をつくりたいと思っているんですが、その特殊解の中に普遍性がある答えが潜んでいるように思っています。例えば、今世の中に残っている名作の家具などは、誰かの家のために設計しましたという特殊解として生まれたものもたくさんありますよね。世の中に流布しているもの、みんなに共感を得ているものが、必ずしも共有解をつくろうと思って生まれたものではない、そこが面白いところです。なので僕は、むしろ特殊解だからこそできることを考えていくことの方に、可能性を感じています。
平沼:次が最後のプロジェクトですね。

千葉:これは今まさに動いている仕事なので、触りだけでもお見せできれば。これは府中市庁舎で、ついこの間コンペで選んでいただいたものです。だいたい多くの人が、庁舎って用事がないと行かないと思うんですね。住民票を取りに行くとか、税金の相談に行くとか、そのくらいでしょうか。今、公共がちゃんと建築にお金を使うことがどんどん減ってきていて、庁舎は公共がきちんとお金をかけてつくる、最後の象徴的な建築のようにも思います。だからこそ、そこに用事がなくても行きたいと思える場所、人が集まれる場にしないともったいないと思うんです。ここでは、庁舎を「おもや」と「はなれ」というふうに解釈し直して計画しています。従来の庁舎としての機能は「おもや」の方で充分に満たしながら、近年盛んになっている市民活動とか市民参加のための場を「はなれ」に設けるという計画です。さらに「おもや」と「はなれ」の間に「通り庭」のような外部空間をつくり、近くにある大國魂神社というすばらしい神社へと通り抜けていけるような、連続的な外部空間としてつくっていこうというものです。ただ、建て替えながら進めなくてはいけない計画なので、できるのは2022年、オリンピック後なんですよね。

芦澤:ずっと使われながらってことですか?

千葉:そうですね。今ある庁舎の敷地で建て替えていくので、それが計画の中での大きな条件になっています。「おもや」と「はなれ」に読み替えた理由は、この建て替え計画からも来ています。

芦澤:元々のものを一切残さずですか?

千葉:はい、何も残しません。決して今の建物が良い状態の建物ではないので、何も残らないですね。

芦澤:これは…自転車ですか?

千葉:これは、被災地での自転車のイベントの企画で、今年で3年目になります。牡鹿半島を自転車で走り、地元の美味しい物を食べて、地元の民宿に泊まろうという、ただそれだけのイベントです。ただ、将来の観光に繋げたいと思っているんです。人が集まることは僕にとってはとても大事なテーマですが、これは形とか空間としてではなくて、仕組みとして取り組んでいることです。これまでは、まず箱モノがつくられて、そこから何か起きればという社会の流れがありましたが、そうではなく、まず人の集まる仕組みがあって、その先にどんな建築があったらよいか、という従来とは逆の流れをつくりたい。被災地では特に、そのような時間をかけた町の復興が必要ではないかと思っています。もし興味のある方は、ぜひ参加いただけると嬉しいです。

平沼:千葉さんが企画されているんですか?

千葉:僕が企画して、実際に僕も走ってます。本当に美しいところなんですよ。今はもちろん復興の道半ばですが、すばらしいところなので。ぜひ。

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