平沼:はい。じゃあ会場から、ご質問ある方?じゃあ、あれ?見たことあるな。来日した人ですね。

加藤(会場):加藤と申します。コペンハーゲンで建築をやっていて、以前、藤本壮介さんのところで働いていた時にお見かけしたことあったんですが、今日はどうもありがとうございます。千葉さんの理解の仕方がすごく変わって、色々無知だったことが、千葉さんのことがすごくよく分かって良いお話でした。今、建築家が建築をやるっていうこと、建築家が設計することが、日本では限定的になっちゃっているんじゃないかと思っていて。というのは、例えばコペンハーゲンっていう街と比べると、どっちが良いとか悪いとかじゃ無いんですけど、日本って地面がアスファルトでできているところが多いじゃないですか。今までフェンスを作らなかったという観念からいって、その道がどうなっているかとか、外がどうなっているかとか、そういうところについてのご興味というか、今後どうしていったら日本の街が良くなっていくのかなというアイデアがお有りでしょうか?

千葉:大したアイデアはないんですが、道路にはすごく興味があります。道路網とか。東京の街は、道路によってほとんど性格が決まっているなと思う場所がたくさんあって、研究室でも実は100マップという、昔、新建築にも連載しましたけど、東京の街の構造をちゃんと読み解こうというリサーチを行っていました。今の時代は、大規模開発がどんどんできるような技術力と資本力がある。だから道路網すら簡単に書き換えられる。そのことには僕は危機感を持っています。道路とか土地割とか、そういうことが持っていた歴史性みたいなものが消えていくことをとても危惧していて、そういうことを残しながらできる再開発の方法は無いものかと、そういうことを最近よく考えています。

加藤(会場):なるほど。ありがとうございます。高いものって日本の土地柄もあって、どんどん上物は壊されて次が建ってってなっていっちゃうじゃないですか。例えば、ハウスメーカーとかが、30戸とか50戸とか、なんとかタウンとかいってつくる時に道路だけやりたいなと思っているんですけど、例えばその地域ならではのスタンダード、ユニークなものをつくることで、上の物がどんどん壊されて次の物が来ても、ユニークさが残ったりするんじゃないかなと。

千葉:そうですね、僕も全く同感です。日本の都市計画は、道路を作るアイデアが全然無いんですよね。基本的にはグリッドで、交差点は鋭角じゃダメだとか、いろいろと分かりやすい計測可能な評価軸がたくさんありますよね。もちろん、交通量とかそういう指標も大事ですが、その合理性の根拠をもう一度疑ってみてもいいのではないかと思っています。そうでないと、新しい都市計画はできないのではないかと思います。
例えば渋谷の街は、すごく面白いと思っているんですが、渋谷の街にはいくつもの潜在的な都市計画的観点での魅力がある。例えばいくつものループが描ける道路網とか、既存不適格のような特異点もたくさん有って、街に不連続点があったりするとか、そういう要素の重なり合いが渋谷の街の活気に無くてはならないものになっていたりします。或いは神楽坂だと、道路が全部T字路で出来ているとか、そういうことをもう一度発見的に読み解いてデザインに結びつけていくことは、これから重要になってくるのではないかと思っています。

加藤(会場):なるほど。ありがとうございます。

平沼:良いですね。ありがとうございます。じゃあもう一方、どうぞ。

会場:大変貴重なお話ありがとうございました。建築の意匠設計やっていますカミヒサといいます。工学院大学のお話の時に有孔折板を野老さんと一緒にやられたというお話のときに、任せるんじゃ無いというお話が有ったと思うんです。昨今、特に若い建築家の方々いろんな専門家の方々、グラフィックデザイナーとか、プロダクトデザインとか、いろんな方々と協業する機会があって、その時にお任せみたいな形で、全くその建築家が自分でジャッジしないっていうようなことがあるかと思います。自分が設計する以上は自分でジャッジするんだというようなお話があったと思うので、そこのお考えをお聞かせください。

千葉:僕は最初にパートナーシップでやってたんですね。パートナーシップっていいなと若い頃は思っていたんですけど、やはり最終的にものを決めるのは、一人の人が決断しないとダメだなと、その時強く思いました。僕は様々な領域の人とのいろんな形での共同作業が大好きですし、スタッフとも、僕が決めて指示するというよりは、スタッフと議論をしながらやる方が好きです。でも、最終的なジャッジはすごく重要なのではないかと思っています。そういう意味では、責任をきちんと持ちたいと言ってもいいのかもしれません。ただ、野老さんとはいつもどうでもいいような話も延々とするくらい、議論が面白いんですね。議論の中で、野老さんが建築に口を出すときもあるし、逆に僕がグラフィックについて意見することもたくさんあります。もちろん信頼していることもたくさんあるので、ある部分では任せることもよくあります。でも、こうしたディスカッションをきちんと共有しつつも、最後は責任持って判断をしたい、そんな感覚に近いかもしれません。

会場:ありがとうございます。なかなかそう責任を持ってという言葉を最近の建築家はなかなか言ってくれないので。非常に勇気になります。ありがとうございました。

平沼:ありがとうございます。これね、最後の質問で毎回皆さんにお聞きするんですけど、建築家ってどんな職業ですか?

千葉:すごく難しいですが、僕自身はあらゆる生活や社会全般の可能性を広げるためにやっていると思っているんですね。例えば、もちろん日々の暮らしから始まって、仕事をするとか人と会うとか、さらには社会の持つ制度や仕組み、そういうことも含めてあらゆる場面の可能性をどんどん広げていくのが建築なのではないのかと思ってます。だから、飽きることはないですね。なんでこんなに飽きないで、ずっと建築のことを考え続けることができるのか不思議に思うこともありますが、やはり毎回新しい仕事に出会うと興奮します。恐らくそこにまた新しい土地の価値や、プログラムから見える新しい世界とか、もちろん新しい人との巡り会いも含めて、発見的な展開が、大変なこともありますけど、すごく面白いと思ってますね。

芦澤:生まれ変わっても建築家になりたいですか?

千葉:それはわかりません。

平沼:ははは。お時間いっぱいになりました。今日はどうもありがとうございました。

千葉:どうもありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

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