古谷:これは100m以上の試作の製造ラインが並んでいるといったものです。で、同じ日清食品から、小諸の研修センターにツリーハウスをつくってくれと頼まれたんで、今度は床を除く、壁材すべてに吉野杉を使ってカップヌードル型のツリーハウスをつくりました。食品会社だから、吉野杉っていう元々酒樽をつくるための、非常に清潔感のある無節の大変美しい材でつくるのにも意味があろうということでこの「又庵」っていう樹上の茶室をつくりました。この吉野材、さっきも言いましたけど、樽や桶をつくるためのものだったので、節があっちゃいけなくて、稠密な真っ直ぐな木目が必要だった。それで樽丸製材っていって吉野の林業の一つの礎だったものが500年以上続いています。密植・多間伐・長伐期と手間がかかるんですけど、こういう森の文化を僕達は失いつつあるんで、これを子供の世代に伝えたいと思って、次の話題はこれです。学校などに、木をできるだけ使っていきたいと思っています。
これは群馬県高崎市の、桜山小学校。この場合は大きいのでコンクリートでつくらなきゃいけないんですけど、コンクリートの学校でも、これぐらい木質感のあるつくり方はできる。オープンスペースの所でみんな勉強してる。この吸音壁が無垢の木材でできていて、掲示板にもなる。子供たちが木に接する機会をつくっておかないと、今の子供たちはメラミン化粧板が木だと思っちゃうといけないので木に触れられるような環境をできるだけつくりたいということを今、考えていますね。
桜山小学校は都会型の学校。次は本当に、木材産地である熊本県北部の山鹿市につくった生粋の木造の学校です。学年1クラスしかない可愛い学校ですが、それでも建築基準法的にいうと1棟まるまる木造でつくることはできません。そこでコンクリートのコアを間に挟んで分棟化する形で、全館木造かのようにつくっていますね。専門的になりますけどコンクリートの部分に、地震力を全部もたせてるんでそれ以外の所に垂直力だけをもたせられるという利点があります。同じように内部にかなり木質がでますが、これ、かなり重要なことのように思うんです。新型インフルエンザが流行った年に、木造校舎と、内装木質化した校舎と、完全にコンクリートの校舎の学校の3つのタイプで学級閉鎖の発生した率を測った人がいて、その結果によると、生粋のコンクリート造と、木質化と木造の学校との間にものすごい顕著な差があったんですよ。それはやっぱり、この木に囲まれてる空間の方が、日頃からストレスが少ないんじゃないかなと僕は思うんです。
とにかく次世代に向けて子供たちに木に触れてもらいたいと言う事を今一所懸命考えてまして、これC.W.ニコルさんという、今自然保護をされてる方に頼まれて、仙台の東松島市の、被災した小学校を高台に移転する計画をしています。だけどその移転計画とは別にその後ろの森をできるだけ生かして、森そのものが学校だっていう計画を一緒にやってます。高台からは被災した元の浜を見下ろせるような所に展望台を、釘も使わずに木ダボだけでつくるんですけど、材料は馬に運んでもらう。さらに、そこに森の声、虫や鳥や風の音を聴けるような、教室になるサウンドシェルターをつくってます。これ全部、学生と地域の人たちが一切釘を使わずに自力建設してます。そのニコルさん、馬に助けてもらって馬とともに生活する、ホースロギングという文化を日本中に取り戻さなきゃいけないって言ってまして、自ら馬を5頭飼って、それを復活させるための馬屋を長野県の黒姫につくりました。これが僕のまだ発表してない最近作です。いずれにしても、今でないと木を身近に感じる暮らしっていうのを、子供たちに伝えてあげられないと思っています。ボランティアの人たちがきたら馬房の上のロフトの部分に寝るんです。このカーブしてる所が重要で、これ現代の曲り家ですよねってニコルさんと言ってます。曲り家って意味があって、馬は臆病な動物だから、南部の曲り家のように人間にちゃんと守られてる感じがなきゃいけない。人間を感じられるところに馬がいて、人間の方も馬の様子が変だったらすぐ感じられるように、微かに湾曲して、曲り家になってるという建物です。

平沼:いかがですか芦澤さん。

芦澤:内容というよりは、つくられ方をお聞きしたいですが、古谷さんとスタッフとどのような感じで設計の作業っていうのを進められているんでしょうか。時と場合によって違いますか?

古谷:時と場合によるけど僕は割とせっかちなんで、これで行ったほうがいいんじゃないみたいなことを最初に言うわけですよ。そうするとみんなが色々オルタナティブをつくってくれて、最終的にそれを修練していくのが多いですけど、僕が直感的な思い込みが激しいんで、結局最後には最初に思ったやつに戻ったりしています。

芦澤:なるほどなるほど。

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