芦澤:吉阪さんとお会いになられたのは、その、大学院生ではなくて卒業してからですか。

樋口:卒業論文で、僕は登山家の吉阪隆正って指導教授を指名したんです。ところが吉阪隆正、南米行ってて居ないんだよね。それで僕は手紙書いた。そしたら、吉阪先生の弟子になる戸沼幸市さんと、歴史をやってた渡辺保忠先生の二人が面倒をみてくれた。それで先生と会ったのは卒論発表の二日前。僕が建築やろうと思ったのは何でかって言うと、こう言われたんです。「君ね、建築は自由でいいよ」って。「何でもできるよ」って。僕それまでこんな不自由な世界に身を置くのは嫌だなって思っていた。ところが彼はいきなり目をキラキラさせて僕にこう言うんですね、良いよ、自由だって。

芦澤・平沼:うんー。

樋口:慌てて僕もやってみようと思って。それからやり始めました。

平沼:なるほど。なるほど。

芦澤:卒業するちょっと前ってことですね、やり始めたのは。

樋口:そうですね。だから大学院では正直言って2年間一生懸命勉強しました。

平沼:なるほど。

樋口:まず建築家の名前って言うのを知らない。例えば、丹下健三くらい辛うじて知ってたけど、清家清とか、その時代にね、槇文彦とか先輩諸氏の名前を覚える。あと、ル・コルビジェとかね。フランク・ロイド・ライトとかね。知ってる? 皆。

平沼:はははは。

樋口:吉阪隆正の名前知ってる人、何人くらい居るんだろう。手上げて。優秀だね、大阪。

平沼:んー、東京の方は知らないんですか?

樋口:いやー、知っているんじゃない。

平沼:そうですか。はははは。ありがとうございます。じゃあ早速に。

樋口:やばい、時間が無いからね。
今日は七つの言葉というのを用意しました。最初に、「海の底に行ってみたい」。これは生命の話をします。二番目が「私はここに立つ」。場所の話をします。「あいまいもこ」。これは境界。この三つをまずやって、途中に質問とかする時間がいるって言うんで三部構成にします。ここまで一部。
「ディスコント」これはさっきから話題にしている吉阪隆正の言葉です。それから「雪氷-30℃」、「幸せになれよ」これは「男はつらいよ」の寅さんで…寅さん知ってる人、「男はつらいよ」見たことがある人。ああ、大阪すごいね。この映画見ないともぐりだね。建築家なんかやってる場合じゃない。最後に、「好きなことはやらずにいられない」。これは僕が一言もしゃべらないでスライドだけ流します。じゃあ、早速始めたいと思います。

平沼:はい。

樋口:緋牡丹博徒のお竜さん。僕の時代には一番のマドンナ。知ってる?

芦澤:いや、知らないです。

樋口:建築家の資格が無いね。

芦澤:はははは。

樋口:緋牡丹お竜、藤純子さん。今、年寄りになって出てますね。

芦澤:あー、はい。

樋口:こればっかやってるとね、すぐ30分経っちゃう。生命の話です。これ銀河です。馬頭星雲って、馬の恰好してるでしょ。太陽のコロナ。このコロナがどうこうじゃなくて、デジタルの変換技術。 すごい。これ、こんな色してないんだよほんとは。こないだ僕、大動脈解離って言うすごい病気やったんだけどね、僕の病気を説明するために、一瞬にして僕の中身がね、三次元で出てくんの。すごいよ。太陽と一緒。地球の歴史でこれ恐竜が絶滅する所なんだけど。僕達が一応、何となく知ってる時間の最長スパンが、僕は宇宙誕生の150億年くらい前。実感は無いんだけど、時間を考える時、例えば大阪まで2時間半とか。そういうんじゃなくて、とりあえず僕達が考えられる最長時間ってどのくらいか考えた時、やっぱり宇宙が生まれる時。生命はそこから始まる。地球が生まれ、海が生まれ、酸素が生まれっていうのはすごく重要で。酸素って言うのも意志をもった一つの生命体だと考えると非常に分かりやすい。あるいは、最近では粘土。後で出てきますけど、建築も命持つものと考えると非常に分かりやすい。これは、何となく生命のイメージと、循環と放浪、放浪と循環でも良いんですけど、今日言いたい事で、日本の文化の根底には、循環と放浪を良しとする流れがある。一遍、西行、芭蕉、寅さん、山下清とか。要するに、放浪してるやつは偉いっていう、これは大切なことで。ね、君なんか放浪してる?

芦澤:昔してましたね。

樋口:今は?

芦澤:今は、たまーにします。5年に一回くらいは。

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