芦澤:先生、先程クライアントが大事だという話しをいただいて、クライアントを見つけるコツといいますか、依頼されたクライアントを、先生が育てていらっしゃるような所があるなと思っていました。

安藤:クライアントを育てるよりも、設計家が育たないと。設計家が輝いて、人々の目標になるような生き方を示すことが大事です。建築家は毎回、毎回、光輝く考えを示さないといけない仕事。だから建築の設計家は、依頼される人からみても、やっぱり輝いてなくてはいけません。そのためには、設計の提案だけじゃなくて、設計以外でも社会的に取り組む姿勢を見せないといけませんね。私はいつも大阪にいますが、大阪の企業家にはお金をたくさん持っていても、「なんとか冥途の土産にお金を持っていきたいんです」と言う考えの方もいます。私はそういう人たちに、「儲けたら、社会に還元しろ」といつも言っているのです。先ほどのレクチャーで、30_30_ 30 %の活動のうち、ボランティアに30%割いているという話をしましたが、こういう社会的な取り組みが、今後の設計家の活動にはますます必要となってくると思います。

平沼:なるほど。設計者という、建築の技術者とした役割の職業ではなく、建築を通じた都市と社会を、人へつながる設計をするように、求められていくのですね。
安藤さん、クライアントからの依頼を受けられ、建築の条件がいろいろと出てきた後、安藤さんがつくられる建築のプロセスは、まず、どういうことから始められますか。

安藤:良い質問です。設計を頼まれたら私の場合、所員で案のコンクールをします。私もちょっと考えて、だいたい勝つんです。私が審査員ですから。(笑)
だけどね、審査員である私が他の人よりアイデアが良くなかったら所員はついてきません。「自分でやって、自分で選んでいくけども全然内容、良くないじゃないか」と言われて終わりです。そのためには5人とか…。芦澤さんは所員、何人いるんですか。

芦澤:5人くらいです。

安藤:その5人すべてで競争をさせます。
例えば現代は、中国からの依頼がたくさんくる。みんな夢を求めてくるわけですから、やっぱり夢のある提案を渡してやりたい。その時の問題は、コンピューターグラフィックで絵を描くじゃないですか。枚数を描けばいいというもんじゃない。むしろ描けば描くほど相手の気持ちが離れていく。それよりも、設計家が夢をかけた絵を1枚出すことからはじめます。例えば、3枚出せば思いは3分の1になるから、私は1枚しか出すなと所員に言っています。結局、外観と内観は必要ですから3枚くらいにはなりますが。もし所員に何も言わず、ほっておいたら何枚でも書きます。やっぱり1枚の中に夢を描けているかどうかからはじめる。重要なことだと思います。

平沼:なるほど。所内のコンクールで提案された落選案は、そのまま無効となりますか。

安藤:全てがそうでもないのです。私が 1番良い提案を選びますが、ちょっとずるいのです。(笑)
良い提案の全てが良いのではなくて、それぞれの提案にある良いところは、救います。でも、あんまりないね。(笑) なぜか言うと、喧嘩腰でない。「喧嘩腰で必死に苦労してでも俺はこれをやるという気持ち。」これがあったらいいアイデアになるんでしょう。今、設計事務所に、格闘技がないじゃないですか。私は所員が事務所に入った途端に、毎日格闘技させた方がいいんじゃないかと思っている程です。

平沼:大学在学中に格闘技をされていた芦澤さんが、安藤事務所に入所された時に、格闘技するから芦澤にリングをつくってくださると言われた「伝説」のような話しをお聞きしたことがあります。

芦澤:先生にそう仰っていただきました。(笑)

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