香山:これ描いているのは芸術家ではないただの職人のひとりとしての僕です。

平沼:でも香山先生は絵も彫刻もやられるじゃないですか。

香山:そうですね。京都会館は、完成直後から、正直に言って、出来た時からホールとしては失敗作だったんです。それを客観的に前川さんも自覚していた。しかし都市デザインとしては素晴らしい。従ってそれを大切にし、前川さんが、やりたくてやれなかったことを、ぶくがやったつもりでいます。従って悪いところは壊して外見は同じで新しくしました。これはその時のスケッチです。

司会:平沼先生、すみません。たいへん残念なのですが、お時間が参りました。

平沼:ごめんなさい、いま絞めのとってもいいところだから、あと5分だけ。お願いします。香山先生、すみません。最後にホールの説明をいただけますか。

香山:(笑)はい。これが一番大きいホールで全部やり直して作ったところです。舞台が狭かったら広げればいいわけですが、でも2000人というキャパシティは保ってという命令ですから、客席の面積が減った分積み上げる以外になくて、そうするとオペラハウスみたいになりました。それが特色になりました。
こちらが前川さん特徴的なめくれ上るような大びさし、これは実は構造的におかしいところがあっていくつも落ちかかっていたもので内側から鉄骨で引っ張って止めていたんです。それを僕が綺麗に直してそして、その屋上には、昔は上に上がれなかったんだけど、上がれるようになりました。そこで美味しいシャンパンも飲めますので是非。最後に見て頂きますが、これは北海道にあるトラピスチヌの修道院の前庭です。修学旅行で行ったことがあるかもしれないですけど、100年前にフランスの修道女が作った庭を、僕は30年ずっと色々なものを付け加えたり、それからそれに接する建物を直してきたんです。この修道院は観光客の囲いの中の聖堂は入れない修道女だけがお祈りするところです。これも大分傷んでいた、というよりも醜く直されていたのを改装しました。十字架とか聖櫃、ろうそく台こういう椅子とかも僕が作ったものです。入口も変な入口がついていたんで直したのがこれです。中に入って古くからあった像なんかも全部置き直しました。ここは年間200何十万人も観光客が来るんですよね。その人達が騒がしい。うるさいんです。それで休憩所を造り直すことになった時、修道院長の希望は、その中に入ったら静かになる建物を作ってくださいという希望で、それで、こういう建物を作りました。

平沼:これは木造の12角形ですか。

香山:はい。北海道の山の中にある蝦夷ヒバという腐らない木を選んで切り出してきてやりました。単純な建物です。中にも12本の柱が巡っていて、上から光が落ちてくる。それだけの建物なんだけど、修学旅行で来た人たちが入って静かにしています。見ていて面白いのは、修学旅行中の学生に時々茶髪とか鼻輪をしているような人が混じってくる。皆で入って来て、それで次行きますって皆で出て行くでしょう。そうしたら時々そういう人のひとりがぱーっと戻ってきて、そこで静かにお祈りしてぱーっともどっていったんです。胸打たれるね。時には建物もそういう力があるんですね。

芦澤:空間の力ですね。

平沼:更生施設みたいな?(笑)

香山:(笑)いやいや、不良じゃない人もいっぱい来てくださいね。

会場:(大笑)

香山:昔あったレンガの建物の壁に、みっつの丸にアーチが残っていたところに僕がレリーフを作りました。デッサンに10年かかって、実際に粘土で作るのに3年かかりました。これはついに完成した時の、お祝いのミサの様子です。すべて聖家族が主題ですが左側が受胎告知で、右側が家族がエジプトに逃げていくとき、中央が、キリストの生誕した馬小屋の場面です。両側の製作で2年、真ん中で3年かかりました。テラコッタ1つ1つが大体30cm40cmくらいのようやく1人で持てるような大きな重いものです。200枚を1人で作りました。これが元のデッサンでこれはデッサンをスタディした時の模型です。このやっているよぼよぼの爺さんが僕です。

会場:(爆笑)

香山:これは多治見の工房で、実際に制作しているところです。壁に貼ってあるのがコンテのデッサンです。これが全体の10分の1の模型でこちらが実際の大きさでの部分のスタディです。始めの荒彫りの時には工房の人たちが手伝ってくれています。最後、実際にやるのは自分一人じゃないとできないんです。これは大体3日で仕上げないと出来ません。

平沼:3日?

香山:粘土が固まってしまうからね。

平沼:これの写真の香山先生は、どうしてこの体勢、なんでしょうか。

香山:最初のうちは粘土板の平らな部分に板を敷いて、その上に乗っていますが、だんだん彫っていくと最後には乗るところがなくなる。だから、足場板を上に渡して、この上に腹ばいになってないといけないんです。

平沼:これは3日間、1日中この体勢ですか?

香山:そうです。工房には、エアコンもつけられないし、風も入れられない。粘土が乾いちゃうからね。筋トレをやって、ちゃんと鍛えていたんだけどやはり45分で休まないと続かないんです。45分で「ピッ」っと笛が吹かれて、15分くらいひっくり返って、休む。サッカーみたいなものですね。そのようにして、午前中4時間、午後4時間、1日8時間やりました。

平沼:これはいつの出来事ですか。

香山:3年前に完成しました。

平沼:80歳手前くらいですか。(笑)

香山:(笑)そう、80歳手前でしたね。その時は、年を考えてなかった。一応今日お見せしようとしていたのはこれだけです。時間が経ってしまってごめんなさいね。

平沼:とんでもありません。本当にありがとうございます。貴重な機会を僕らだけで終わらせるのは、勿体ないですから、最後に会場からおふたりくらいの質問を受けて頂いてもよろしいでしょうか。

香山:(笑)もちろんです。

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