芦澤:
えっと・・・感想いいですか。(笑)
サスティナブル建築を分かりやすく設計していて、高度なものを使わずにやっているのはすごく面白いと思って見させてもらっていました。いくつか疑問があって、まず用途地域があるということで、南側が境目になるのですよね。今は、隣の建物の形態をかなり信じているというか、あれ以上建たないという前提での計画だと思うのですが、それだとここに後から建ってしまうと今やられていることは全く成立しなくなってしまいます。隣は第一種住居地域でしたか。
香川:
隣は、何でしたっけ。中高層住居地域か何かだったと思うのですが。
芦澤:
となると、三層の建物が建ったときにどうしますか。
香川:
隣の建物は結構新しいんです。この住宅が建つ数年前くらいに建ったばかりなので、すぐに建物が建て替えられるということはまずないかなと思います。僕の性格かもしれませんが、とにかく一番まずいときの状況でパラメーターをつくります。ここに建物が建っていて、隣の軒越しから太陽光が入るという想定をしているのですが、敷地の形状が斜めになってきているので、例えばここからの採光は期待できるのです。
芦澤:
写真で言うと、左側の建物は絶対に建たないということが保障されている、と。
香川:
そうです。いろいろ状況は変わると思うのですが、万が一建った場合、コンクリートに埋設する床断熱を入れているのですが、現時点では曇りの日や蓄冷したときのための対策なんです。そういうものを使おうかとは考えています。パッシブというのと、なぜ丘と呼んでいるのかということと関係していると思うんですけど、パッシブだけでできているというよりも、人の動きだったり、座るとか、人の視線とか、物が動いたり、いろんなところからこの丘を定義する方がいいと思っていました。というのも、丘って呼んでほしい感じがするのですが、それは蓄熱体とは呼びたくないのです。それはそれでひとつの機能を決めてしまうので、想定されている機能以外の使われ方をする可能性を妨げてしまうと思うんです。僕はこのことを「デザインを開く」と呼んでいるんですが、デザインが開かれなくなってしまうのではないか、これを見て他の人が何か考えると思うのですが、ひとつのことでしか説明できない建築はあまり面白くないと思っているので、そういう意味では開かれたデザインを目指したいと思っています。
芦澤:
もう一ついいですか。さっきの内観の写真ですが、南側の住居の北側に窓があります。これが何だかかわいそうだなぁ、と思うのです。(笑)閉じてしまっているようにも見えますが、これについてはどう思いますか。
香川:
当初、どうなるか分からなかったんですけど、逆に当初は見られてしまうのではないかと思っていたんです。見られてしまうと、お施主さんが嫌がるかなと思って、話をしていたのですが、結局この部屋の半分しか見えないんです。この部屋に座っている状況というのはここから見えないので、そんなに見られたからって大丈夫じゃないですか、という話をお施主さんはしていたのですが、逆に向こう側が閉じる状況になってしまったというのは、いいのか悪いのか分からないんですけど。
芦澤:
僕の家も、住んでいてかなり開放的にしているんです。目の前がマンションで、みんな窓が開けられないという状態になっていて、こっちは全然気にせずに生活しているんだけど。(笑)
でも、それってどうなんだろうと思いました。
香川:
いいことか悪いことか分からないですね。こちらがコミュニケーションを求めていても、向こうが閉じていたら意味ないですからね。これをきっかけに仲良くなってくれるといいんですけど。
平沼:
僕、ひとつ聞きたいことがあって、さっき香川さんが、よく断面でスタディを始めていくということを言われていて、明らかに1階はすごくオーバースケールしているじゃないですか。逆に2階はすごく制限された天井高になっていて、またこういう丘と呼ばれているところでもスケールが反復していくという考え方。これを決定するときの要件や理由は、何かあるんですか。
香川:
この断面を考えたのは1階に何もない状態を作りたくて、最終的には浴室をどこに持っていくかということから考えました。これと並行して進めていた計画では、建物の中に建物が入る入れ子案を考えていました、その他、3階建で吹抜のある案など、ただ、それらには入れ子や吹抜などの空間の名前があります。この最終案はどのような空間の名前なのか考えた時に、2階建てとしか呼びようのないものでした、でも隣にある木造2階建てと比べると明らかに違うじゃないですか。それは、この空間に名前がないということで、これが新しいものであるということを言っているのではないかと感じました。お施主さんにはその説明をしたのですが、そうであればこれでいいじゃないかという話になりました。
芦澤:
丘というキーワードはすごく面白くて、蓄熱の話から生まれてきていると思うんだけど、ただ、あの形態だと上のアクティビティがあんまり、ちょっと想定がしにくいのではないかと思いますが。
香川:
今、高さが1500mmくらいあるんですけど、1000mmくらいだと人が走り回れて、乗って使えるというのがあるということですよね。まず先ほどの蓄熱の話、玄関からのプライバシーで、壁などを立てるのではなくて、この丘で視線を切りたいということがあります。また、これより浴室を下げて、その上が明らかに使える状態に見えると、この建物を地下1階、地上2階で申請しなければならなくなる、法律上の条件ですね。木造2階建てというカテゴリーに納めようという意図も大きいでしょうか。
芦澤:
ボリュームが大きいから、この布の使い方が重要だと思っています。
香川:
そこはCGでスタディをしたり、一番最後まで悩んでいました。
平沼:
でもこれ、外から見られて木造二階建てと言うと、すごくびっくりされませんか。
芦澤:
絶対、違法建築だろうって言われますよね。(笑)
香川:
来た人が、この部屋しかないのではないかというふうに思うように見せたかったのと、正にそのように機能して欲しかった。

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