平沼 : じゃあ、ここからは、僕たちが届かないところに行っちゃった藤本さんに、これをちょっと詳しく教えてください。

藤本 : いやいや(笑)。これはあまり発表されてないから、みなさんご存じないかもしれないんですけど、この間コンペで1等をとったんですよ。場所はセルビアという国で、ベオグラードというセルビアの首都ですね。ここに見えているのが、これがセルビアの旧市街で、ここにお城があるんですね、こっちに旧市街が広がっていてここに川が流れていて、すぐそこでドナウ川に接続しているっていうベオグラードの顔みたいな場所で、このちょっと余っていた敷地があって、ここに何か、街を活性化させるようなものをつくりたいと。いろいろやってるうちに、こういう渦をまくような、台風のようなものになってしまって、出したら1等に選ばれたと。1等が二人いて、それはどうするかって、それはさておきとしてですね。これは結構ややこしくて、さっきのインフラみたいなものから、都市のスケールから人間の身体スケールみたいなものっていうのがもうひとつあるんですよ。ただ、かなり複雑なプログラムなんですよね。展示スペースとか、商業スペースみたいなものと、バスとかトラムとかフェリー乗り場とか、いろんなものがここら辺でハブっぽく融合して、何かなってきそうな場所だよと。後ろにあるお城からも人が降りてくるし、下にこういう古い倉庫があって、それのリノベーションと絡んで活性化させたいということもあり、かなり複雑にプログラムが絡み合ってごちゃごちゃになっていたんです。ただ、僕らの中ではとにかく人がそこに集まってきて、またそこからベオグラードの町にいろんなかたちで散ってくような、ハブみたいな場所をつくれないかっていうのが大きな問題としてあったんですよね。最終的には、単純なリングみたいなものを、浮いているリングみたいなものをつくりたいなと思っていたんですけど、リングだと普通の近代建築だから、もっと人がごにょごにょ動いてることそのものが、物体としてではなくて、人の密度としての拠点をつくるというか、人がそこに吸い込まれていくあり地獄みたいな、そういう場所があれば、見かけとしてはぼんやりしているんだけど、求心力はすごくあって、という、ネガの広場というか、ネガのアイコンというんでしょうかね。そういうものができないかなと。このね、グルグルのかたちは僕の思いつきで、何ですかね。

芦澤 : 動線がそうなってるというわけではないんですか?

藤本 : 一応ね、後ろのほうから下りてきた道がこれに絡め取られて、どこかに向かっていくんですけど、厳密なものではないんですよね。ただ、ある求心性をもった場所をつくろうとしたときに、最後はそれこそ人類の潜在意識として、グルグルしちゃうんじゃないかという思いつきだったんですよね。

平沼 : 具体的には高架式の歩道デッキで処理していくんですよね?

藤本 : そうなんです。しかもこれ、柱が1本も描かれてないですけど、柱は普通に入ります(笑)。そんなドローイングでコンペの1等をとっていいのかっていう話はありますけど、ま、柱は当然出てきますっていうことで。だから巨大なグッケンハイム美術館みたいなもんですね。今年の1月か2月にNYに行く機会があって、グッケンハイムに行ったら、あれってこう、スパイラルのかたちがおもしろいというよりは、吹き抜けに立ったときに、あの上に人がいろんな風に分布していて、何だか知らないけど賑わっている。そこがやっぱりとてつもなくいいんですよね。

平沼 : スパイラルの傾斜の角度がいいんでしょうね。

藤本 : さすがですね。いや、そうでしょうね。あれ、いいですよね。

芦澤 : グッケンハイムも、藤本さんの案も、非常にアイコニックですよね。それが、最初のCaveの感覚とはちょっと違っていて、かなり与えているなって思います。それはそれで僕は好きだし、潔くて、そうした方がいいんじゃないかなという気がしてしまうんですけど、どうでしょう?

藤本 : いや、でも、ここ2、3年くらい、海外の都市構造を含み込んだようなコンペにけっこう出してるんですけど、その中でアイコニックなものを持たざるを得ない宿命みたいなものは、あるんじゃないかなと思っています。なんかこう、どかーんと出てくると、それによって都市の構造が変わってしまう。単にどかーんと出てくるだけじゃなくて、アイコンの強い存在のありかたの新しいつくり方みたいなものが、もし、何かが発見できれば、非常にパワフルなんじゃないかなと。もう一個は、道がね、最初は何気ない道なんだけど、気づいたらグルグルになっていて、たいへんなことになっている。それって言ってみれば、東京も大阪もありますけど、高速道路あるじゃないですか。あれってこう、アホみたいにビルの間とか行っちゃったりして、ちょっとおもしろいじゃないですか。ちょっとCaveっぽいんですよね。絶対ここのためにつくっていないだろう、というインフラが持っている乱暴さみたいなものが、ギリギリ人間の活動の快適さとかすかな接点をもつような、そういう瞬間にちょっと憧れているようなところがあって。さっきの都市スケールから建築を通り越して、家具スケールとかね、そういう雰囲気に興味があるんですよね、最近。

平沼 : これの方が前ですか?

藤本 : 前ですね。

平沼 : こっちが原点になっているんですか?

藤本 : 似ているんだけど、これはGAに出させてもらったやつで、2等だったんですよ。スペインでシアターをつくるというコンペで、こっちの方がちゃんと考えてつくってるんですよ。劇場をつくる話で、ひとつはさっき言ったアイコンをどうやってつくるかという。アイコンなんだけど、ぼんやりしている最終イメージがあって。劇場って求心的なかたちをしていますよね、もともと。だからグルグルスパイラルがまわっていて、その一部が座席になっていたり、その外側が公園になっていたりしたら、非常にシンプルだけど、これまでにない劇場のプロトタイプになるんじゃないか、みたいなことをわりと真面目に考えてつくってたんですよね。だからあんまり都市インフラ的なイメージじゃなくて、わりとこう、劇場って言うものに真摯に向き合って、新しいプロトタイプを提案したいという感じだったんですよ。これができて、けっこうおもしろいなって思っているうちに、さっきのセルビアのプログラムがやってきて。レム・クールハースがやっていることに近いのか、もしかしたら、今年の春にIITっていうシカゴの大学で教えてたんですね。ミースがつくった大学なんですけど、そこにクールハースがつくった建物が一個ぽーんとあるんですよ。それがすごく良くて、言ってみればインフラの絡み合いがそのまま建築になっているような建物なんですよね。高架の鉄道がぼーんとあって、変なチューブみたいな高架の鉄道が入っていて、その下に学生が通る獣道みたいなものを全部顕在化させて、その間がランドスケープ的にぐちゃぐちゃになっていて、実にいろんな場所ができているんですよ。ああいうインフラチックなものから、人間の座る段差みたいなものまでが、ずーっとつながっている感じがいいなと思って。唯一、その建物に違和感があったのが、入り口のドアなんですよね。自動ドアがぴゅーと開くんですけど、あるフレームを通過して入っていく感じが、もっと連続してないとだめなんじゃないかなと思ったんです。
それで、さっきのグルグルは、ほとんど外部だからずるいんですけど、中に入らなくてもすんじゃうんです。だけど、ある領域の中に入っていくときに、自動ドアでぴゅーと開くのではない絡めとられ方みたいなものがあってもいいんじゃないかなと。そんなのもあってセルビアのプロジェクトは、ああいう乱暴さみたいなものが出ている気がしますね。

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