千葉:でも、復興という過酷な状況下では、建築界全体で何か協力関係を築かないといけないのではないかとも思っていました。だからこうした厳しい基準や条件は全て受け止めようと。基本的には四角い建物しかつくれない。だから僕たちは、四角い建物を前提に、そこにどんな関係性を築くと釜石らしいコミュニティに応えることができるかということを一生懸命考えました。全体は、四角い箱が4つ集まっていて、その外側に廊下が廻って
います。街路に面して廊下が廻っていて、このようにいつでも人が出てこられる状態になっています。被災地にほぼ毎月のように通っていますが、よく東北のコミュニティは濃密だと言われていますよね。建築界でもそういう認識は支配的だったと思うんですが、でも実際はそんなに単純ではない。もちろんそういう面は確かにありますが、一方で釜石は工業都市ですから、都市的な側面もあって、そういう複雑なものに対する見る側の目の解像度はすごく大事だなと思います。だから僕たちは、一歩出ればいつでもお隣の人ともつながれるような空間と、逆にくびれて奥にプライベートな場所を設けて、選択性のある空間を提供したんですね。これはつい先月できたばかりです。
ただ、この中で1つ僕たちが問題だと思ったのは、この地域はいずれまた津波が来ると想定されている地域なんですね。それで僕たちの提案は、1階レベルは、基本的には地域の人達が自由に使える公園のような場所にしようという計画なんですが、ただ、居住空間はつくれないので、どうしてもただのピロティみたいな場所になってしまうんですね。
そんなときにたまたま、三協アルミさんというサッシュメーカーから、フェンスをデザインして欲しいという依頼が来たんです。復興とは全然関係のないプロジェクトです。何人かの建築家と一緒にフェンスのデザインをやりたいと。僕たちは、さっき住宅でもお見せしたように、日頃からフェンスをつくらないようにしているので、こういうのに全く興味がなかったんですね。フェンスは嫌いなのでやりませんって言ったらね、そういう方にこそお願いししたいと思ってましたと言われて。それで改めて、少し考え始めたんです。僕たちが子供の頃は、こういう風景がよくあったんですね。塀の上に牛乳瓶が並んでいる。この家は、たくさん牛乳を飲むんだとか、家族がたくさんいるのかなとか、そういうコミュニケーションが生まれるようなインターフェイスとしてフェンスが機能するんだったらおもしろいなと思い始めて。そこで僕たちが考えたのは、このようにリングがいっぱい挟まっているものです。そのリングが植木鉢を支えるものなら、例えばここに花を活けたりすれば、それが単に敷地境界を明示するものではなくて、お隣さん同士のコミュニケーションのきっかけを作るものになるのではないかと思って、そのことを発見してからは、段々面白くなって、こういうお庭にしてもいいなとか。そのうち調子にのって金魚鉢が意外といいんじゃないかとか、鳥に餌をやる場になってもいいんじゃないかとか。こういう人と人との関わりを育む触媒のようになるんだったらフェンスも面白いなと。これは実際に商品化されています。単純に見えますが、全部鋳物で作っているんです。三協アルミさんの方もすごく面白がってくれて、鋳物でこういうかたちを作るのはとても難しいんですね。一旦リングをつくった後に縦桟にセットして、一体的につくるような方法です。もしこういうものを、釜石の復興公営住宅の1階に設置することができれば、居住空間はなくても、もう少し街に人の関わりが見えたりするかなと思っているところです。お金がかかるので、なかなか使えないんですけど。三協アルミさんに寄付してもらおうかと思ったら、公共の建築で寄付は難しいとか、いろいろ課題は山積みです。

芦澤:はははは。

千葉:まだいくつか復興公営住宅は動くので、今後の課題かなと思ってやっています。

芦澤:そうなんですか。関係性を作られていますよね。

千葉:そうですね。小さなことでも、そういう関係をつくることができるといいですね。

芦澤:なるほど。

平沼:次の質問ですが、現代社会における建築の関わりっていう随分重たい話。

芦澤:重たい、随分重たいですね。

平沼:これからの建築家の役割って、千葉さん以降の世代に、僕たちも含めた若い世代にメッセージとしていただけたら。

千葉:メッセージですか。それはすごく難しい質問ですけど、例えば被災地での仕事とか、あるいはフェンスみたいな通常だったらやらないようなスケールの仕事も含めて取り組んでいることをお見せしたんですが、建築をやっている人たちだからこそ、様々なかたちで社会に貢献できるチャンネルがたくさんあると思うんですね。建築をやっている人たちが社会にコミットできる方法や領域というのは、これからもどんどん増えていくと思うんです。先ほどお見せした大多喜のような改修の仕事も増えるでしょうし、最近だとプロダクトをやっている人もいます。つまり、建築と呼んでいる領域がどんどん広がっているし、建築家の職能も、積極的な意味で曖昧になってきている。それはそれで、社会に必要とされる建築的な知恵を提供しているという意味で、とてもいいと思うんですけど、その一方で、やはり古い意味での建築をつくり続けることも、とても大事ではないかと思っています。ちゃんと街に着地し、永きにわたって残り続ける建築をつくる。そういう場面が来た時に、ある質をもった建築をきちんとつくることのできる実力や提案力は、建築界にいる限り、みんな持っていないといけないと思います。こういう、何でもありの時代だからこそ、敢えてちゃんと堂々と建築をつくるということをやり続けるといいのではないかと思っています。僕自身もそうありたいなと思っています。

平沼:なるほど。

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