芦澤:マテリアルは、消していっていますよね。

藤本:消したい訳ではなくて、うまく扱えない時に、「もううまくいかないから消しちゃえ」みたいな感じです。そこは、まだ僕が成長しきれていない部分です。例えばHouse NAの場合には、少し白を入れていますけれど、窓は木です。この窓枠は既成の木製サッシなので、11cmくらい奥行きがあります。柱が6cmくらいなので、窓枠が柱からはみ出しています。単純に窓枠がはみだしてボコッとくっついていることが、馬鹿馬鹿しくって面白いよね、と思って(笑)だって普通窓枠って柱より細いじゃないですか、それが逆転しちゃって窓枠がごろっと取り付いている。面白いなあって。その面白いということは抽象的なのかもしれませんが、普通の建築と逆転しています。同時に、窓や階段、家具が全部同じような位置づけになって、なんかクスッと笑えるよねという。普通の窓は建築の仲間で、造り付けの本棚は家具と建築の間ぐらいです。階段は建築の仲間ですが、それが家具のような感じでポコポコくっつけられていて、「あれ何が起こってんのこれ?」みたいなことです。いわゆる標準的な納まりを反転させていくことで、この家で起こる新しいスケール感みたいなものがより生きてくるのではという発想でした。だから僕としては、どこまでも実体験的な発想のつもりなんですよね。体験した時にどういうことが起こるのかを考えられる範囲では考えたいです。最後は想定を超えていくので、サーペンタインも自分が考えていた物を超えた何かができていくので、でもそれは考えられるところまで考えたことによって、初めて生まれてくる、その向こう、みたいなものなのではないかという気がします。

芦澤:ディテールに興味はありますか?

藤本:ありますね、めっちゃありますね。この家は、窓のガラスの納まりや窓の納まりは、普通ではいきません。訳の分からないディテールになっています。6cmぐらいの間の床にガラスが入る時と、ガラスが入らない場合などいろいろあり、それを全部あたかも何事もなかったかのように納めることは、とてつもなく大変です。それを、1個1個作っては、スチレンボードで1/1のモックアップ作り、「あーいいねー」「この隙間もうちょっとなんとかなんないの?」のような、超マニアックな事をしています。

平沼:施工をされている方がこの会場にも居ると思いますが、この建築にはディテールがないですよ。多分学生の方は、模型どおりできている!と思っているかもしれませんが、この裏側には、相当たいへんな思いをされた方が、何人もいるのではないでしょうか。

芦澤:サーペンタインギャラリーのもそうですが、藤本さんの建築を、学生が模型で見ればできるのじゃないかという気がして真似します。これを藤本病といいます。

平沼:本当にディテールを省略された模型のように、ディテールを消す。実際、そのまま現場で実現をしようと思いましたら、この会場のように、水平ブレースや間柱などがいっぱいでてきます。

藤本:ブレースは、一個だけありますよ。(笑)わざとね、ここにブレースを大きくひいています。これはこれで可愛いなと、そういうしょうもない事を色々楽しみながらしています。実は、構造的にも面白いです。柱は長くなると座屈するので、長さに対して太さの限界は、決まっています。ところがこれは、床がたくさん入っているので、一見長い柱に見えますが、実は全部途中で揺れが抑えられています。それでこの65mmの柱のサイズが実現できています。

でもあえて言うなら、僕の中ではディテールの定義は、細かいスケールと中ぐらいのスケールと大きなスケール、色んなスケールが建築にありますが、その調和だと思うんですよね。その調和を作るのがディテールで、そういう意味では素材も、マテリアルもその調和を作り出すひとつの要素だと思います。houseNAの場合、ガラス周りに細かい材が出てきすぎると、全体の統合している分節された床とか細い柱とかのスケール感と、その細かいディテールのスケール感が調和しないと思った。だから細かいディテールのスケールをすっ飛ばしているんです。それから、マテリアル特有の、目地を切らなければならない時がありますよね。昔の建物は、どうしても素材が限られているので、長年の経験で素材が持っているスケール感と建物のスケール感、それをうまく分節するというか、さらに分けるスケール感みたいなものを経験上蓄積しているので、全体と部分がうまくできています。でも現代建築は、色々な新しい素材が出て、プレーンな面が出てきた時にどう扱っていいかがなかなか難しいです。そういう意味でのディテールにはとても興味がありますね。

平沼: 藤本さんの個性はご自身の中で、どのようなところにあると思いますか。

藤本:こ、個性ですか、、、あんまり無い気がするんですよね、、、(笑)。さきほど、アインシュタインの話をしました。物理学者の個性はどこにあるのだろうってなかなか難しいですよね。最終的に発見した理論は、自然がそうなっているからそういう風になっているので、アインシュタインが勝手に作りあげたものではないです。だけどそれでも、彼自身のユニークな発想と天才性によって、そこに辿り着いた訳です。建築家の個性も、それに近いようなところがあるのではないかと思っています。建築もその場所や文化とか、もちろんクライアントもいるし、僕たちのライフスタイルみたいなのもあります。そういう物の中で、色々な可能性があり、色んな建築がありえます。僕が何かを見つけ出し、こういうものが面白いのではと提案をした中に個性があるのか疑問に思います。さきほどのサーペンタインが僕の個性かというとそうでもない気がする。むしろ個性は消えていて、グリッドという誰でも知っている形式と、もやーっとした形、曖昧だけどなんとなくそうだよねというもので出来ている。そういう意味ではとても当たり前のものでもある。でもそれを作り上げたのはやはり僕の積み上げてきたものだろうし、僕の中から出てきたものなんでしょうね。
常に自分を通して、でも世界の可能性のひとつが明らかにされるのが建築なのかなと思います。巫女さんみたいなもの何じゃないかなあ、、、だから僕にはあまり個性はないです(笑)

平沼:刺激を受ける建築家っていらっしゃいますか。

藤本:良い建築は好きです。その当時、現代でもいいですが、新しい何かを試みていることと、それから驚くべきその細部と全体の調和がつくられていることに、すごいと思います。いつも言っているのは、コルビュジェです。ミースももちろんそうです。現代の人だったら、ビャルケとかもすごく大好きです。僕とはスタイルが全く違いますが、建築のある可能性を切り開いていると思います。彼のレクチュアを何回か聞いたことがあり、影響を受けて、プレゼンテーションの仕方を少し真似してみたりとかもあります。他にはクリスチャン・ケレツ、ガルシア・アブリル、スミルハン、今年のサーペンタインをした、スミルハンラディクという建築家もそうです。そのあたりは会う機会も多いですし、それぞれとても個性的な、ユニークなアプローチをしているので、面白いと思って見ています。

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