平沼:建築家の中には、処女作を実現できる建築家と実現できない建築家がいて、五十嵐さんはすごく早い時期にこれをつくられたわけじゃないですか。それは幸運だったと思いますか?

五十嵐:よかったと思います。僕はアカデミズムな世界で勉強してないので、実践で学ぶしかなかったんです。どっちが幸運だったかと言うと、今にして思えば建築家の事務所に行かなくてよかったと思ってるし、経験の中から建築を作り出す方法を考えていけたのはよかったと思えます。

平沼:なるほど。芦澤さんはそのあたりについてどうですか?

芦澤:処女作についてですか?

五十嵐:芦澤さんはねぇ、中枢の学校を出て安藤忠雄さんの事務所に行かれたわけだから、僕とはたぶん対極な状況で学ばれたと思ってるんですけど、どうですか。

芦澤:大学にべったりだったら違ったかもしれないですけど、僕はアウトローだったので(笑)。その後もまぁ・・・アウトローな事務所ですよね。

五十嵐:そうなんだ(笑)。

芦澤:結果的に、辿った道はよかったと思ってますけどね。それを否定してもしょうがないですからね。

五十嵐:そうですね。

芦澤:さっきの仮設劇場も、たまたまこちらもそうですけど、他にも白い建築をやられてますよね。よく聞かれる質問かもしれないですけど、どういう過程で白い建築になっていくのか、あるいは作品によって存在感を出すものと出さないものがあったりしますよね。その辺を聞かせてください。

五十嵐:理由はけっこうシンプルですよ。例えば「矩形の森」の場合は、ポリカーボネートの作業工程をできるだけ減らしたかったんです。例えばボードを張っちゃうと、ペンキとかクロスの作業が出てくるんですけど、ポリカーボネートなら大工が張って終わり。そうすると一工程省けるのでコストが下がりますよね。その場合、色はどうしようかっていうことになるんですけど、ポリカーボネートの波板の色サンプルって、せいぜい5、6種類しかないんですよ。その中から青とか黒とか、そういう色を必然的に選択肢から外していくと、フロストと白しか残らないんです。当然白を選びますよね。光を透過するところだけはフロストを選ぶという、かなり必然的な話です。床はなぜコンクリートかというと、これ床暖房が入ってるんです。床暖房においては熱容量が大きいことが絶対条件なのでコンクリートにしようと。さらになぜ素地かというと、これに仕上げを貼るとするとコスト的にも上がるし、熱がダイレクトに伝わらないからです。「風の輪」は針葉樹合板を使ってるんですけど、あれもコストです。白にする理由は、クロスを使う場合でも他のペンキを使う場合でも、コスト的な理由が大きいですね。コストがたくさんあって、いろんなテクスチャを使えるのであれば、白じゃなくてもいいと思うんですけどね。

芦澤:そういうのもありますか?

五十嵐:ないですね(笑)。ローコストばっかり。

平沼:五十嵐さんは、北海道で活動されていることが多いので、太陽との関係性とか、光に対する意味合いがすごく特異なイメージがあったんですよ。僕たちみたいに大阪でやってる者にとっては、「あ、そう捉えるんだ」っていうやり方をされていて。でも色に関しては、逆に暖色であったり暗い色で太陽光を吸収できる方がいいのかなって思っていたんですが、やっぱりその、白に求めるものっていうのは何かあるんですか。

五十嵐:なるほど。たぶん白に何かを求めてるということではなくて、例えばこの柱を赤にしようという理由はないじゃないですか。これは絶対的にないと思うんですよね。逆に無垢でやろうということになるのかもしれないんだけど、無垢でやろうと思うとアンカーボルトとか仕口があって、相当な手間がかかる。塗りつぶすというのはある意味でそういうものを隠蔽できるので、「矩形の森」の場合はそういうこともあったんです。ただね、やっぱり白が好きなんですよね(笑)。いや、好きだとか言っちゃうとどうでもよくなっちゃうんだけど、

平沼:雪が多い環境も関係していますか?

五十嵐:僕が中学を卒業する頃に、両親がいまの家を建てたんですけど、壁の色を決めるときになぜか僕は「絶対に白だ」って言い張ったらしいです。しかも真っ白にしなきゃだめだみたいなことを言ったみたいですね。たぶんそこに理由はなかったと思うんです。感覚的に白を選んだんですよね。

平沼:その頃の白って、汚れるとかいろんなことを言われる時代だと思うんですよね。でもそれを叶えてくれたんですか?

五十嵐:そうですね。真っ白でした。

平沼:すごい!

芦澤:それは建築の抽象化とか、光と影の質だけを求めていく、純度を高めていくっていうことでもないんですか?

五十嵐:例えば光の反射とか、陰影をダイレクトに表現するためには白がいいとか、いろんなことが言えるんですけど、主な目的はやっぱりコストが大きいですね。コストの調整がしやすい。

芦澤:例えば、「矩形の森」のようなものを頼まれて、クライアントが黄色がいいって言われたら黄色でつくりますか?

五十嵐:例えばクライアントの好みでそう言われたら、おそらく必然的な理由を説明してね、たぶん違うんじゃないですかねとか言いながら、材料とかにもっていくんじゃないですかね。黄色っぽい木とか(笑)。

芦澤:なるほど(笑)。

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