芦澤 : なるほど。では次にいかせていただいて、こちらは集合住宅ですか?

西沢 : 木造の寮です。僕が卒業した高校の寮ですが、臨海学校の期間だけ使用する宿泊施設です。僕の卒業した高校は古い学校で、昨年が120周年でしたから、この臨海学校行事も70年以上続いています。高校1年生が夏休みのはじめに全員ここで合宿して、戦前以来の集団生活をしてもらうための施設です。ですから文明の利器なしで集団生活を体験することになります。日の出とともに起床して、海で水泳だけをやらせて、日没とともに就寝する。空調もないですし、テレビもないし、パソコンもないです。寮のまわりにコンビニもないし、何もないです。わりと進学校なんですが、ここでは勉強もしない。とにかく泳ぎだけをしてもらって、最終日に全員で遠泳をすることだけを目標にして4泊5日を過ごします。そのための合宿施設なんですね、これは。

芦澤 : はい。

西沢 : 今までは、戦前の施設をずっと使って臨海学校をしていたんですが、既存の建物は築70年ですからあまりにも古すぎて、補修や改修では追いつかなくなってきた。基準法以前の建物なので、厳密には遵法義務はないものの、さすがに行政指導がやかましくなってきた。それにPTAや先生方の意見もあります。この臨海学校は文部省よりも古いので、この行事で生じる全てのことの責任を先生たちが最終的に負わないといけないので、あまり好まれないです。それで、古い材料をなるべく使いながら建てかえることになりました。

芦澤 : 材料は再利用されるんですか。

西沢 : ええ。たとえば既存の床材は全て再利用します。それと既存の柱なども構造以外のところに使いたいと思ってます。ちなみに温熱環境的には、文明の利器なしの生活というのは教育方針で決まっていることなので反対できないんですが、だとしても、今までよりも身体に負担をかけない室環境をつくりたいと思っています。建物全体を日射遮蔽のスキンで覆って熱不可を下げて、既存の井水を利用して冷風を吹き出す、といったことを考えています。

芦澤 : なるほど。では、どんどん次にいかせていただきます。これは住宅、宇都宮のハウスですね。

西沢 : はい。これは東京ガスがスポンサーになった実験住宅です。竣工してから1年間展示会をやって、その後に購入希望者に売るという住宅です。ちょうど先月売れたところです。東京ガスというのはエネルギーの会社なので、自然エネルギーの良さをアピールしたいわけですね。ガスというのは家の中で火を燃やすので、電気のIHヒーターに比べると、わりとプリミティブです。そういうプリミティブな暮らしの良さをアピールするような実験住宅を設計してください、という依頼です。僕が提案したのは、「光の中の生活」というものです。光を通すスラブが、地上3.5mに浮いてまして、住宅全体を照らしていると。この屋根スラブには半透明の部分と透明の部分がありまして、半透明の部分は家の中をぼんやりと照らして、透明の部分(トップライト部分)からは強い光が、生活時間にあわせて落ちてくると。

芦澤 : はい。

西沢 : つまり朝はベッドの真上に光が落ちてきて、お昼ご飯の時間にはキッチンカウンターのシンクの真上に光が落ちてくるようにしています。そうすると、朝光を浴びて目を覚ましまして、4時間くらいたつと、今度はキッチンがキラキラ輝き出して、なんだろうと思って近寄っていくとお昼ご飯の時間になっているというわけですね。光で生活のリズムを組み立てましょうという住宅ですね。

芦澤 : なるほど。

西沢 : 最近はみんな、体内時計がおかしくなっていますよね。たとえば朝起きれない、集中力がない、鬱気味になる、ひきこもる、キッチンドランカーになる、昼夜逆転する、みたいな現代病がありますよね。そういう人たちは、生活の仕方がわからなくなっちゃっていると思うんですね。そうなってしまった人は、光に生活の仕方を教えてもらったらどうかという、そういう建築ですね。

平沼 : なるほど。笑

芦澤 : この壁面はこれ開口は

西沢 : 外壁部分は,基本的に建具の連続になっていて、動く壁のような扱いです。中間期は全部開放して、敷地の隅から隅までを使って生活します。夏と冬は建具を閉ざして、光の中で生活します。床に東京ガスの温輻射・冷輻射のチューブが入っていて、冷暖房機(ファンコイル)を最大4台増設できるようになっています。

芦澤 : 冬場はこもってしまうんですね。

西沢 : エネルギーロスを気にされる方の場合は、ですね。部分的に開放してもかまわないんですが、エネルギー効率がやや悪くなります。この動く壁は60mmくらい断熱材が入っているので。

芦澤 : なかなかでも、住宅でここまで大きなトップライトをどーんと開けるっていうのは、けっこう勇気がいるなぁという気もするんですけど。

西沢 : 僕は1990年代の終わりくらいから、プロポーザルやその他の提案で、これと同じようなことを提案してきたんですね。その意味では、過去10年くらいの蓄積がありました。10年前の段階では、熱の問題とか、納まりの問題とか、維持管理の問題とか、歯が立たなかったんですけれど、10年かけて少しづつ問題をクリアしてきたんですね。幸いこの仕事の場合は、自然エネルギーを重視するということがあったので、提案してみたんです。

芦澤 : なるほど。

西沢 : それから真夏は、外壁を閉めるんですが、天井付近に熱がこもってしまうので、それを除去するために屋根スラブ内に通風を採り入れるようにしています。屋根スラブが外に跳ね出していて、軒下があるんですが、軒下の風上側と風下側に、通風用の開口があります。大梁の向きは宇都宮の夏の風向き方向に合わせているので、軒下の通風口を開けると、だいたい風速1.5mで1mくらいでずーっと風が屋根スラブ内を流れて、熱気を除去するようになっています。風の流れについては設計中に風道実験をやって、ちゃんと流れることを確認しました。それでも暑いと言う方は、ファンコイルで冷房をハイパワーにしてもらうことになりますが、なるべく自然通風だけで熱を除去できるようにしてあります。それで、この天井の仕上げはルーバー材ですけれど、ピンで吊るすだけの納まりにしているので、風が流れると、草原みたいにそよそよそよって動くんですね。

芦澤 : 動くんですか?

西沢 : 動きます、草原みたいに。だから壁を閉めてても、上からの光の変化とか、風のリズムとか、上空に感じれるようになっています。これはねえ、めちゃめちゃ気持ちいいですよ!

芦澤 : なんか気持ちよさそうですよね。

西沢 : こういう家に住めば、もう絶対病気にならないです。

芦澤 : なるほど。笑

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