芦澤 : では最後の作品ですね。

西沢 : はい、これは「香港深?ビエンナーレ」のための屋外インスタレーションです。香港と深?というのは電車で20分くらいの隣町ですが、その両方で同時に都市博を2年に一度やっているのですが、その2都市博覧会のための仮設のインスタレーションです。指名プロポーザルだったんですが、用途から考えてくれというもの。僕はそれぞれの都市に1つづつ、合計2つの仮設の展望台を提案しました。展望台と言っても、都市を一人で見るための展望台。中国の都市は一人になれる場所がないので、一人で都市を見る場所が必要だろうと思って。深?会場は丸い展望台で、香港会場はピラミッド型の展望台で、どちらも頂上に1人用のパラソルとソファーがあります。予算の条件が厳しかったので、展望台は足場パイプでつくります。スチールのパイプだけじゃなくて、中国や香港にあるような竹や丸太などの足場も混ぜてつくって、中国の近代化を表象するような展望台にするというものです。

芦澤 : ものすごい特等席ですね。

西沢 : そうですね。最初の案では地上40mです。

芦澤 : 40m!

西沢 : その後20mにしてくれとか、25mくらいならいいですよみたいなやりとりがありました。

芦澤 : 実際には、プロジェクトは終わってしまったんですか?

西沢 : 終わってしまったというか、もともと2ヶ月だけの仮設のインスタレーションなんですが、最後はこちらから参加をお断りしました。もともと世界中の建築家40人くらいの指名プロポーザルだったんですが、入選したあと、中国側の責任者が出て来て、あまりにお金のことしか言わないんですよね。僕としてはモノづくりについてデイスカスしたかったんですけど、それはどうでもいいという感覚で。なので残念だったんですが、ビエンナーレが始まる3週間くらい前に辞退しました。

芦澤 : なるほど。最近は木造をやられているというお話だったんですが、木造の可能性っていうのを、いまどのようにお考えですか。

西沢 : そうですね。木造というのは、ある意味では処女地のようなところがあると思うんです。建築家が本気で手を出してこなかったという意味でも処女地だし,近代化が完全になされなかったという意味でも処女地だと思うんです。もちろん丹下さんの昔の自邸が木造だったりとか、清家さんの初期も木造だったりとか、あることはありますが、コンクリートや鉄骨と比べると,圧倒的に建築家の仕事が少ないです。いわば手つかずのフロンティアみたいなものだと思うんですよね。

平沼 : なるほど。笑

西沢 : それに、日本にはとても優秀な大工さんが、まだ少なからずいます。さっきの砥用町の体育館の大工さんも、駿府の教会の大工さんも、すごい人たちなんですね。体育館の場合、部材は工場のプレカットではなくて、全部手刻みです。伝統的な仕口の考え方を応用しているんですね。よく海外で言われるんですが、お前の建物は2度驚くと。まず遠くから見てデザインレベルで驚いて、近づいてジョイントを見て仰天すると。このジョイントを見れば、なんかすさまじいテクネーがあることは、海外でもわかるわけでしょう。もしこれが面一になって樹脂かなんか使ってると2度目の驚きはないんですが、伝統の仕口を使っていることで、もう膝ガクガクになると。笑

芦澤 : そうですよね。笑

西沢 : 海外の人たちもやりたくてしょうがないみたいですけど、やれるもんならやってごらんって言っています。笑
もちろん、それは僕の実力ではなくて、職人さんたちの実力ですね。ただ、そういうバックボーンに支えられて設計できるというのは、わりと誇らしいですね。世界的に見てもほとんど希有なことなので。

芦澤 : 平沼さんも木造やってますよね。

平沼 : いやいや、僕なんて恐れ多くて、、、大良さんほど、ここまで緻密に背負い込んで考えているわけじゃなくて。ただ、今までの在来木造のあり方だけじゃない、また銘木っていう価値のある木だけの使い方じゃなくて、ある仕組みの中で、積んでいくだけのような木造ブロックのようなものだったり、宮大工のような特殊な職人だけがつくれる構法ではないもの。また、材も特別な価値のないもの間伐材みたいな、それこそ山のゴミみたいなもので、すこしだけも新しいものをつくりたいって思っているのです。でも、なかなか難しいことが多いです。

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | NEXT