芦澤  :  すみません。次の質問ですが、今までずっといろんなものをつくってこられて、最近はどんな建築をつくろうとされているのか、ということについて、お話を伺いたいと思います。

小嶋  :  はい。【画像】 「FLUID DIRECTION」と書いてあります。流れるもの、流体が「FLUID」で、「DIRECTION」が方向づける。デザインまでは決めつけないけど、方向くらいは出てくるのではないかと。
【画像】 小さい矢印がいっぱい書いてあります。例えば、構造も今は このようなノ ーテーションで描けますし、これはホーチミンの大学キャンパスの人の流れですね。この小さな矢印の群れみたいなもので、流れを読み取ってつくったらおもしろいのではないかと思っています。
【画像】 この左側の大きな矢印が20世紀なのではないでしょうか。20世紀は、15億人が60億人になった世紀です。とにかくスピードとか、量とか、都市をつくるとなれば、世界中同じやり方で できるように、ゾーニングから始まって、道路の掛け方、インフラの入れ方まで、21世紀の今も、中国でも中近東でも中央アジアでも、同じことをやっている。単純化すると分業できる。誰かが倒れても、次の人が同じことを引き継げる。
右側の小さい矢印は、僕らが思う現代です。 ITを使えば 、大量にうごめいている色んな方向の 矢印を、矢印のままに単純化しないで扱えるようにな ると思 います。それは人の流れでもそうです。例えば、昔は小学校の廊下の幅は、1学年とか1学級が一度に 動けるということで決まっていましたが、僕らはそんな学校の設計の仕方をしていません。そういうふうに捉えるといろんなことがずいぶん違って見えると思います。
【画像】 上は、ドイツの哲学者 ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの言葉で、下は僕の恩師 の原広司さんが、それを建築で言い直した「建築はモノではなくて、出来事である」 。小さな矢印の群れというのは、結局、出来事につながっていく。例えば、いい学校というのは、子供が活き活きしている学校であって、建物としての校舎が、こういうふうに立派だとか、新しいからいい学校というふうに考えてはいけないと。
【画像】 これが今言ったとおりですね。小さな矢印の群れイコール出来事である。
【画像】 それが具体的には、いろんなファクターで、それぞれが語りうると。

芦澤  :  だいたいここに書かれているキーワードに集約されますか。それとも本当のファクターとしては、もっと他にあるのですか?

小嶋  :  そうですね。ここには例えばストラクチャーは入っていないですけれど、構造の力の流れも、例えば、近代 の ラーメン構造というのは、大きな矢印です。すごく単純化して解析できる。でも現在 の、例えばシェル構造がいちばんわかりやすいのですが、実際 構造というものは、もっとマイクロに細かく力が 分かれて います。そうするといままでありえなかったような構造体が成立します。例え ば 、石上純也さんのKAIT工房ですね。ああいうふうに、同じように見えている柱が、圧縮で効いたり、引張で効いたりということを、全部探って解析できるので 、 アーキテクトの方が、モニタ上で柱を動かしたら、解析がついてくるわけですよ。

芦澤  :  そうですよね。では、次の「TIME」 ですね。

小嶋  :  【画像】 時間は流れです。全部当たり前なのですが、時間を考えると、建築よりも農業の方が長持ちしていることに、あるときふと気づいて、ずっとさかのぼっていったことがあるのです。
【画像】 左側の写真は、開発の時代だった20世紀、農薬 を大量に 使っている、機械化されてい る、どうにも出来ないところ だけ自然が残る、という写真です。でも、東アジアの我々に馴染み深い農業は、もっと本当に小さい粒子を扱っているようなものなのです。

赤松  :  右側の写真は、自然を征服するというよりは、自然をちょっと借りながらという感じで、山のところを段々に、一生懸命、人の手でやっていくというような、非開発的という意味をもった写真なのではないかなと思います。

芦澤  :  右側の写真は、もともと本来、自然と調和した姿というか、長い間こういうことをやっていたのではないかなと思うのですよね。

赤松  :  そうですよね。やっぱり時間の流れの中で、ずっと繰り返し、繰り返し、何十年も何百年も続いてきている姿が右側の写真の姿だと思うのですよね。

小嶋  :  3.11の後では、「寄り添う」という言葉が、本当によくつかわれるようになりましたけれど、右側は寄り添っていく、左側は押し倒していくと捉えることもできます。

芦澤  :  なるほど。次は「WIND」ですね。

小嶋  :  はい。[画像] こういうのは、今はいくらでもできます。外に頼むと大変高いので、僕らの事務所では、風解析を触れる人間を、常に何人か置いておくようにしています。

芦澤  :  そうですよね(笑)。

小嶋  :  はい。これはホーチミンシティにある新聞社の本社ビルの解析なのですが、ビル風の話ではなくて、インテリアで、紙が動かない程度に緩和された風を、どうやって取り込むかというシミュレーションで、もう5年前のプロジェクトですけれど、いまでも 新しいですね。
僕らは基本的に、どこに行っても、はめ殺しガラスをあまり使わない建築をつくりたいと思っていて、ベトナムでもできるだけ冷房を使わないつくり方をしたいと思っていました。そうすると、こういう解析をきちんとしていかないと 、「風通しがいいですよ」 ってプレゼンテーションで通ったとして も、実際竣工して風通しが悪ければ 、どんな素人でもわかりますから。

平沼  :  そうですよね(笑)。

小嶋  :  そういうのを「大丈夫です」って言うのが、いちばん怖いのです。
「きっと気に入りますよ」 とか、「きれいですよ」 みたいな話は、主観の問題ですけど、「風通しがいいので、冷房はいりません」って言っておいて、「暑いやないかい!」って言われたときには、どうしようもないですからね。

平沼  :  はい。(笑)

芦澤  :  こういったシミュレーションを、きちんとするようになられたのは、いつごろからなのでしょうか。

小嶋  :  後で出てくるハノイのプロジェクトですね。東京大学生産技術研究所の研究チームと一緒 にやっていた、研究プロジェクトなのですが、ベトナムは建設費が安いので、研究費 で家が 建つのではないかと 言って、 冷房のない集合住宅をつくったのが最初ですね。
学生たちで、シミュレーションをたてながら、「こんなものはおまじないだな」と思っていたのだけれど、できたら本当に涼しかったので、それから信用するようになりました。

平沼  :  そうですか。

芦澤  :  それまでは、ご自身の感覚でやられていたのですか?

小嶋  :  そうですね。普通にみなさんがやられているのと同じだと思います。
【画像】 これがそうですね。6戸の集合住宅ですが、プライバシーは欲しい。だから向かい合わせに窓をあけるわけにもいかない。 ヘクタールあたり1000人 住んでいるところなので、すごい高密度で、そういうところで、 できるだけエアコンを使わなくて快適であれば、その方がいいと。あと、シンガポールとちがって、ベトナムの人はエアコンがあまり好きじゃないのです。なので、こういうことがやりやすいのです。

芦澤  :  なるほど。

小嶋  :  それで、3次元的な中庭を、 スペースブロックという手法をつかってやっているのですが、この複雑なかたちは、全部、通風とプライバシーで決まっています。

芦澤  :  なるほど。

小嶋  :  【画像】 ここは雨の多いところで、半外部空間が、ハノイの気候だと、無駄な場所ではなくて、ビールを飲むのも、キッチンもシャワーも、こういうところの方が室内より快適だったりするので、わりと有効なのです。

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