芦澤 : では、次にいきましょう。次は、12のストゥッディオーロですか。

赤松 : これは一番の極小ミニマムというか、これ以上小さい住宅は、なかなかないと思います。西麻布の韓国大使館とかがあるところの近くです。

小嶋 : 敷地の裏にはビル3階分の崖があって、不思議な静かな場所です。でも、すごく便利なところ。そういったところに、家賃10万円以下で若い人が住めた方が良いのではないか、金持ちしか住めないのはおかしい、というディベロッパーがいて、依頼を受けました。ただ、家賃8〜10万円で貸そうとすると、12平米とか15平米でないと成立しない。しかもひとつの木造住宅の敷地を、角地だから2つに割って、斜線制限がかかった5階建てに6戸入れて欲しい という計画です。

赤松 : ディベロッパーってすごいなぁ、と思いました(笑)。ここに12戸も入れるの!?っていう感じですよね。

小嶋 : ワンフロア1戸にした方が安くできるし、その方が良いんじゃないのって言ったんですけれど、そうすると計算が合わないのです。

赤松 : だから5層のところに6戸入れて、それが2棟あります。普通だったら、5住宅+5住宅で10戸であればワンフロアでいくんですけど、そこに6戸ずつ入れてくれ、っていうのが最初の要求だったんですね。さっきの写真にあるように、4.5mのフットプリントで2棟建てるということで、あのフットプリントの中に12戸入っているので、12のストゥッディオーロという名前です。

平沼 : すっごい小さいですか。

小嶋 : これをハウジングと言ったら犯罪だと思います。でも、ちょっと考えてみると、日本は鴨長明のような縮小の美学もあるし、お茶室というのもあるし、街の中の 書斎というような、市中の閑居みたいなイメージがあったりと、書斎に住んでいる人もいるかもしれないですよね。それを、自分にとっての書斎であったりお風呂であったり、って捉えてすごく特化させれば面白いんじゃないか、ということを変に思いついてしまったので、「受けよう!」と言って、受けてしまいました(笑)。昔から知り合いだったディベロッパーで面白い人がいて、はじめから「断るでしょう」と言って持ってこられたお話です。

赤松 : でも、そこに6戸入れるときに、7uを切ってはいけないという、居室の最低面積があるんです。

小嶋 : 東京都安全条例で決められています。

赤松 : そういうようなことがあるので、あのフットプリントの中に7uの居室をとっていくと、全部結局メゾネットになるんですけど、それで解けるのは、たぶんこれでしか解けないだろうっていうくらい、ぎりぎりの条件でした。その条件をわかった上で提示しているとしたら、やっぱりディベロッパーってすごいなぁと思います。

小嶋 : 発注者は、西沢立衛さんの「船橋のアパートメント」とか、乾さんの「アパートメントI」とかを発注しているところなので、まず、行政との打ち合わせは、むきだしの洋式便器が置いてあるところはどこまで居室と数えていいのか、というところから始まります。

赤松 : トイレとか水回りは、一般的には居室にカウントしなくても良いので。

小嶋 : でもこの場合はカウントしないと7uとれないから、その分、引かれたらもうアウトなんです。構造は小西康孝さんですが、壁構造ではなくてラーメン構造なんです。 コーナーに三角形の柱を入れて、壁厚を減らしています。壁厚を減らさないと、建蔽率との関係で、壁芯が内側に寄ってこられると面積がクリアできないのです。・・・というくらい、ぎりぎりでやっています(笑)。あと、全部の家に 「ガチャ柱」と棚板 を備品として備え付けて、箱モノ家具を 持ち込まないで生活できるようにしています。ガチャ柱用の棚板には 結構いろいろなオプションがありますから、いろいろアレンジして使えます。

赤松 : 先ほど茶室とか、そういった話もありましたけど、ここまで都心の便利なところだと、お休みの日は郊外地に住んで、仕事をする平日はここに泊まって、という、都心の中の自分の部屋という考え方も十分できるのかな、と思いました。だから住むのではなくて、例えば洋服だけダーッと並べたり、フィギュアだけ並べたり、時々行ってひとりで楽しむような使い方だって、十分あるのかな、と。

小嶋 : 普段、こういう小さいアパートは、内接円の半径を気にして設計しているんですけど、ここでは内接円の半径が最大40cmしか取れない部屋というのがありました。つまり、ほとんど全部廊下みたいな場所なんです。だからここの壁は左官仕上げで、荒い下地くらいにしているんですけど、どうやって目の前の壁が遠くに見えるかということを真剣に考えたら、茶室の土壁のようなつくり方になってしまう。コーナーも、三角形の柱を入れてラウンドエッジにして、できるだけエッジを少なくして、距離がわからないようにしています。現場に行っても、本当にこれくらいの距離ですよ。とにかく、嫌なものをつくってしまったと思わないようにするための知恵をものすごく絞って、こういうような設計を行っています。

赤松 : 開口部のとり方も、その部屋の中に入って、どういう景色が見えるのか、ということを考えた配置で決まっているので、最終的に外から見るとちょっとランダムになっています。

小嶋 : 共用部を入れて、155uに対して12戸入っている。だから 話だけ聞いていると面白いかもしれないですけど、自分の仕事だって考えたら、あんまりやらない方が良いですよ。

赤松 : この住戸 は階段を上がった人は、上でかならず「おおっ」と声をあげるんです。登った先にバスタブしかないので(笑)。また、最上階の 住戸 はお風呂がど真ん中にあるというプランになっていて、 見に来てくれた人が、これはもうお風呂を麻布に借りるってことだね、って(笑)。天空のバスルームと呼んでくれた人もいます。バスタブの上に板を載せればテーブルにもなる、という使い方もあります(笑)。

小嶋 : 現場で担当者に しつこいほど言ったのは、お風呂からお湯があふれたとき、階段に水が流れこんでこないようにと、立ち上がりまでは防水しました。また洗濯機を全自動でコンパクトなものをつける、というところまでは発注条件 でした。

赤松 : 設備機器とかは 丸見えで見えているので、結構よいもの、すっきりしたものを置いています。

小嶋 : あとは、あまり一般的ではないけれど、メディアの人たちは本を 沢山持っている人が多いですが、ここでは1戸あたりの壁量がすごく多くて、それを全部棚にできるわけです。そうすると、書庫にするのにはすごく良いとか、こういうものから発見できる人にとっては良いみたいです。ディベロッパーも、すぐにお客さんが見つからなくても良いと言ってくれて、こういうところに住む人は、一度入るとなかなか出ないから、それはそれで良いと言ってくれています。

芦澤 : 現場はどちらかが担当されているんですか。

赤松 : どちらが担当するかはそのときによって違います。でもどちらかが全然見ないというのではなくて、 情報は共有しています。

小嶋 : 初めて現場に出る所員をどっちが教育 するか、という意味での担当者はいます。でも住宅をシングルネームで出すときは、現場は担当しか行きません。最後に行って見て、こうなったんだね、という感じです。あとは、 プロジェクトによって、相手との相性やタイミングに応じて、これについては赤松のほうが打ち合わせによさそうとか…。

赤松 : 小嶋が行ったほうがは迫力があっていいから、ここは小嶋に行ってもらって ・・・とか (笑)。

小嶋 : だれでも人に対しての得意、不得意がありますからね。

赤松 : 見た目含めてキャラが全然違うので、時と場合によって使い分けています(笑)。

芦澤 : そういう意味では名コンビですね。

小嶋 : そういうのがないと、パートナーシップってうまくいかないですよね。

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