芦澤 : では、これからまたいくつかプロジェクトを紹介させてください。【画像】最初は、柿畑のサンクンハウスです。敷地は神奈川ですか?

赤松 : はい。小田原のあたりで、写真でどこにあるのかというと、ちらっとここに見えています。これが敷地で、ここが柿畑になっています。ここは生産緑地のような状態で、住宅地のちょうど境のところにあるんですね。この緑を見ると「すばらしい敷地ですね、広いんですね」って言われるんですけど、これは完全な借景です。これは人の家なので、その緑を最大限借りているのです。

芦澤 : 断面にすこし特徴があるようですが、土が盛られているんでしょうか。それとも掘っているんでしょうか。

赤松 : この柿畑に行ったときに、木の緑の下に空間があって、緑が上に広がっているので、やはりそこと同じ視線の高さにして、緑とつながっていくような場所にしたいな、と思い、もともと盛土してあった土をちょっと掘っています。木造ですけれど、どうせ基礎をコンクリートでつくらなきゃいけないので、それを利用して半分埋めているような状態にしています。

小嶋 : これ、予算聞いたら、どんな若手の建築家の方でも、俺の方がいい金もらって仕事している、というくらいの低予算です。

芦澤 : すばり、おいくらくらいなんでしょうか。

小嶋 : あんまり言わない方がいいんだけどなぁ(笑)。

芦澤 : いやいや(笑)、教えてください。

小嶋 : 1 900 万円くらいです(笑)。ちょっと自主工事はありますけれど、床暖房まで入っています。だから建物の寸法をつめる、みたいな現実的なことにもすごく意味がありますし、裏返しにして使っていますが、いわゆる在来木造です。種類はピン柱で、構造は佐藤淳さんにみてもらっています。

赤松 : ここの真ん中のコアのところ、こういうところで全部、耐力壁をとっていって、周辺には壁は一切ないんです。だから、ここの上が二階のボリュームになっていて、ちらっと見えている、そこには外壁があるんですけど、一階部分には外壁が存在しない家になっています。

平沼 : これ、在来工法ですか。

赤松 : 在来です。だからXY方向に、一生懸命、「あともうちょっと壁がとれるかも!」って言って、やってもらっています(笑)。

平沼 : 佐藤さん、大変・・・(笑)。

赤松 : 周辺はピン柱で、軸力だけの柱が入っています。

小嶋 : ロッドに したら、もっと細くなるって佐藤さんから言われたんだけど、お金がないのでパイプでいいです、と(笑)。でも細いっていうのがポイントです。

平沼 : 人が建っているのを見ると、すごいスケールですよね。

赤松 : そうですね、ここの高さは本当に抑えています。玄関を入るところで、頭を打たないくらいぎりぎりまで、という感じです。

小嶋 : 1800(mm)かな?

赤松 : 18 50です。

芦澤 : こちらには、黒白の論理はあるんですか。

小嶋 : 建具を全部引き込んだら内側が黒になりますが、全部の建具を出すと、ここからここが窓になります。真ん中の部分をエントリーと呼んでいるのですが、そこが交差点の動線になって、クローゼットの間であらゆるA点とB点をつなぐことができます。そこから上は2階で空気が抜けて、光が下りてくる。だから周りが黒で、真ん中が白と言えなくもないような、どうにでも変わっていくような感じです。

赤松 : これがその建具です。建具は白に塗ってあって、それ以外のところは比較的、黒っぽくしているんですね。外の緑がすーっと見えるように、という理由で、この床の立ち上がりの壁は黒にしてあります。 そこに十字に交差するように建具が配置されていて、この辺に実はちょっと工夫があります。工夫と言っても、ただ単に、十字にどちらでも開いていくように金物を削ってもらったというだけなんですけど。

小嶋 : この建具もラーチ合板で厚さを出してあって、それをSOPで塗っただけですから、実物見ると、結構いい味出しています(笑)。

赤松 : これがコアのところにまとめて閉じた状態です。お風呂場は完全にオープンで、使うときはこの建具をこっちに持っていって閉じてカーテンをすると部屋になるという、そういう家です。

小嶋 : ちなみにこの住宅はふつうに子育てしている人の家で、アーティストの家とか、 では ないです。

赤松 : ふつうのご夫婦が住まわれています。トイレも、使うときはこの建具をもってきて、鍵をかけられるようにはなっています。

小嶋 : 両側に鍵が見えています。

赤松 : どの建具をもってきても、どの鍵をかけても、大丈夫なようになっています。

小嶋 : うちの事務所が設計した物件では珍しいの ですが 、周りはフィックス窓が多くなっていて、4方向に1か所ずつ開閉できる窓が配置されています、ひとつはコーナーで開きます。どこか窓を開けると、上から抜けていくので、ほとんど自然換気で快適です。

赤松 : スケール感としては本当にこじんまりした家なんですけど、向こうの柿畑が夏の間、緑が生い茂ってきれいなときには、借景ってここまでしていいのかっていうくらいに、見事な借景になっています(笑)。

小嶋 : 本当はこういうのを自分のためにつくったらいいんですけどね。自分のだったら絶対予算を 抑えきれないでパンクする(笑)。

赤松 : この住宅ではコストを抑えるために、上の木のところ に溝をきって、ガラスをフィックスにして、下もアルミの アングルとフラットバーで抑えたりとか、ガラスに関しては完全に躯体、直おさめです ね。

芦澤 : お二人の作品を見させていただいて、結構素材の使い方が、いい意味でざっくり決められているのかなぁ、と思ったんですけれども。

小嶋 : シナ合板は高級品で、ラーチ合板だったら予算内で使えるとか、そんな決め方です(笑)。さっきの氷室アパートもそうですよ。

赤松 : きれいに全部仕上げ ていくよりも、すこしずつ質感を残していく方が好きっていうのはあるんでしょうけれども。そういう風にした方が、素材の良さが出てくるということもあります。

小嶋 : ちょっと汚したとか、ちょっと傷つけたとか、ピカピカの新車に初めて傷をつけたときの悲しさみたいなものを、建築ではあんまり感じない方が良いと思います。建築というのは、少し大雑把な言い方ですが、それこそ日常的に使う住宅とか学校のようなものでは、あんまりびくびくしないで使えるフィニッシュがいいかな、と思っています。

赤松 : なかなか、超・高級住宅とか、やったことがないだけなんですけどね。

小嶋 : 誰か大阪の人、頼んでくれないかな。

芦澤 : でも、芦屋とか、東京の高級住宅地とかにつくってそうなイメージがあります。

小嶋 : 一回、苦 楽園 のプロジェクトに参加させてもらったのですが、結局何も建ちませんでした。

平沼 : でも作品を見ていくと、豊かですよね。仕掛けとか、好きですよね。

芦澤 : 構成は非常に明快でわかりやすいですね。

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