西沢:自由曲線が同じ、その形を自然と、建築の両方が共有するということで、主従関係が分からないような、どっちがどっちのためにということを超えたような関係を、イメージしていたような気がします。コンクリートが固まった後にこの穴にこういうアプローチをしてという、土を掻き出していく、ほとんど原始時代みたいな感じでしたが、なかなか迫力のある工事で、豊田さんはほんとうにすごい人だと思います。土を掻き出すと、空間ができます。ひとつの大きな問題は、13mぐらいあるこの穴をどうするか、どう塞ぐかということで、いろいろ考えましたが結局は、塞がずにそのまま開放したままで、完成ということにしました。色々な問題を僕は個人的に考えていて、ひとつここで大きかったのは、なぜ この 島で美術館をつくるかということに、理屈ではなく 感覚的に答えるということができるかどうかということが課題でした。都会からわざわざ来て、見て、大自然のなかで島が美しくて、この建物はいらないだろうという風に結論付けられない建築は何かという…平沼さん、このままで大丈夫ですか?

平沼:いや、すごいなぁと思って。

芦澤:ねぇ、すごいです。

西沢: つまりこの穴をガラスで 塞いじゃうと建築になってしまうのです。 中と外ができて、 中には空調 するですね。また面積区画がおきて、シャッターが必要になり、消防の進入の誘導灯や煙感知器が、換気設備が、色んなものがジャラジャラ でてきて、内装完備の 展示室になって、近代的な 展示室 の四角が丸いっていうだけで、空間の経験としては空調された、外とは別世界 で、その空調によってできる断絶感というのは、大変なものだろうと思ってですね。船に乗って、島に来るというところからある種の芸術体験というか島体験が始まって、その連続感の中で内藤さんの作品が出て消えるっていうようなこと以外には、この建物の 存在意義っていうか、生きる道がないという風に思って、 結局このガラスを外すことを提案して、内藤さんの作品は穴の下に泉が広がってくってこともあったのです。そういう意味で雨が、それに合流するのは、すごいっていう風に、思ったのもありました。内藤さんは 勇敢な方だと思いました。 内藤さんのことを多くの方がご存知と思いますが、もともとは室内ですごく繊細な、ファブリックとか、そういうものを作られていた方ですけども、屋外ってことに一緒に立ち向かってつくりあげることができて、内藤さんに対する感謝がすごくあります。僕らは建築だけを経験して感動していないのです 。 作品を見て 、もしくはそこまでの道程とか、色んなものがまとめて経験になっていて、パリのルーブル美術館は、建築としては素晴らしいですけども、建築だけ見る 人はいなくて、やっぱりセーヌ川の第一区の美しさがあって、建物も素晴らしいけども中の作品群の展示があって、1日かけてへとへとになって見て、夜ホテルに帰ってきて、よかったなあと思う。建築の経験 は、街の経験だし、室内の人間の活動とか、美術作品とか室内のことの経験だし、そういうものが全体としてつながっている。僕はそういうふうに経験全体として評価されるものを 目指していると思います。 もう一つ、ランドスケープもやっていて、ここに棚田を模したチケットオフィスがありますが、ここでチケットを買って、いきなり内藤さんの作品にいけないように、周回路、時計回りで回るようになっています。右に行くと福武總一郎さんがやった棚田の再生事業という、放棄されていた棚田が今復活して素晴らしいのですが、それを見て、瀬戸内海を見て、そこから森に入り、森を抜けて 内藤さんの作品に向かって行く。あんまり目的的じゃない、 いろいろな豊島の財産 を見ながら内藤さんの作品に向かっていくような形にしました。内藤さんの作品は泉が湧き出るということでわいわいした感じではなくて、自分に向き合う、 スピリチュアルというか、何もないっていえば何もないし、多くのことが起きるといえば多くのことが起きるような作品です。 入り口を狭くしてその2人で入れない空間をつくるっていうことを考えました。 当時自由曲線の何がすごいかと考えていたのですが、1つはやっぱりあの狭い入り口と中の大きな空間が連続 していくことですね。直線だとそれができない、ガクガクと段階的になっていくのが、自由曲線は小さいものから大きいものができることで、建築家は誰でもそうだと思うけれども、自分が直線とかカーブとかを使うときに何がいいのかを考えながらやるのですけど、 入り口の 狭い寸法と室内の大きな寸法が段差なしに連続 することは、僕には 大きなものでした 。
シェルストラクチャーは閉じて初めて成り立つ構造で、閉じると光が入ってこないので開けないといけないのですけど、閉じてかつ開くという、これは 自分にとって面白い建築の課題の一つです 。ただ、建築は全て閉じていて全部ドアがついて開いているもので、開いてないと出入りできないし、閉じてないと中のものを守れないということで、その2つを両立させることがあらゆる建物でやっていることなので、たいしたことじゃないですけど、僕にとっては建築が持っているもっとも創造的な問題のひとつに感じています。穴を、内藤さんと施工の理由といろいろなことで決めているのですが、最終的には朝日と夕日が一番奥まで入るよう、内藤さんの考えもあって東西方向に空けているわけですね。

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