平沼:最後に、聴講者の方から質問を取ってもいいですか。

西沢:はい。よろしくお願いします。

AAF:はい。質問ある方はおられますか。

会場1:今日は貴重なお時間ありがとうございます。
ルーブル・ランスのお話を発表されていなかったのですが、数年前に関西で、美術館と博物館で共同展示っていうのがあって。そのときに新聞のコラムで美術史の方が、美術館は年表思想、博物館は地図思想ってことを少し触れられていました。そのルーブル・ランスの展示空間を見たときに、年表思想を形にするというのはこうなのかというので非常にびっくりしたのを覚えています。それと同時に、西沢さんは、使われ方になっていくような建物に求められるコアのような部分を、どう探っていっているのかなというのを気にしています。西沢さんはリサーチされる時に注意されていることとか、手法があればお伺いできればと思います。

西沢:ひとつはやはり、地域の個性が一つで、ここの場合だとやっぱりランスっていう元炭鉱の地区で炭鉱の歴史という事ですね。太陽が低くて、オランダ海岸みたいに光が上に、空を照らします。アジアみたいに太陽が上から落ちてくるのではなくて逆に照らす、すごく間接的な光の空間で素晴らしいところですけれども、そういう場所に合う建物。炭鉱の歴史は展示にもなるので、そういう周辺環境への興味が一つと、お施主さんのルーブル美術館の個性とか思想がやっぱり一番大きいですよね。彼らの個性はやっぱりコレクションの巨大さで、それはさっきの話で言えば年表的であり地図的である、両方ですね。博物館にして美術館、始まりはシリアとかバグダッドから始まって、フランスやイギリスまで行きますから、あの作品を年表順に並べるのですが、やっぱり縦方向は年表ですけど横方向は地域差になっているのですね。歩いていくとローマ帝国とか色んな国が出てくるけれども、それが出たり消えたりしていくというような、地図の変化でもあり年表の変化でもあるようなものを美術作品でも感じるという、これは他の美術館ではやれない事で、やっぱりクライアントの個性とか考え方から大きく影響を受けていると思います。これはタイムギャラリーといって、古代から始まって向こうに行くとフランス革命で終わるのですが、その先に、ガラスギャラリーという空間を僕らはつくりまして、そこで現代美術を展示して、かつ、炭鉱の町を見られる。炭鉱の町は、産業遺産にも指定されたとこで、ある意味で20世紀の我々の時代の風景の一つで、中のこういうルーブル美術館の展示と周辺の風景っていうのを体験として繋げようとしています。それもあって、ガラスギャラリーを現代美術にして、炭鉱とか産業革命とか、ゆかりの作品展示のものになったりしています。つまり、お施主さんの考え方と地域の個性によって大きく建築の方向が変わるのですが、ただ、人間の経験を中心に考えるという意味では、多分どこであっても同じような我々のスタイルになると思いますね。

会場2:お話ありがとうございます。
僕は2年ほど前に、豊島美術館を訪れて大変感動したのですが、西沢さん自身が自分で設計した建物を訪れた時に、どのような印象を受けることが多いですか?例えばとても良いものができたなあと思うのか、あるいはここもっと上手くできたじゃないのかなと、またどのようなフィードバックを得て次の作品に生かしているのか教えていただきたいです。よろしくお願いします。

平沼:良い質問ですね。僕もお聞きしたいです。

西沢:建築家にとって一番幸運なのは、問題が上手く解けることもそうですが、それより大きいのは、問題を作ってしまうことです。自分が今後挑んでゆく課題みたいなものです。 一つのプロジェクトで苦労して格闘している事で、自分が立ち向かうべき問題が 見つかっちゃう、出ちゃう、ということがあるのです。 その時にはちょっと躊躇 しますが、 今後自分がこれと5年とか10年付き合っていくのだなという気分になりますが、 そういうふうに問題が出たとき建築家 はすごい運がいいと思いま す 。毎回問題を作れるわけ ではないし、またみんながそうでもないと思うのです。 自分が今後立ち向かっていかないといけない大きな問題に出会えた時は、そのプロジェクト一個で「ここをこうしたら良かった」とかそういう事ではないのです。ひとつのプロジェクトで解決できるような問題ではなくて、 色んなプロジェクトで、色んなアプローチでもってそれに向かっていく事になって。楽か苦しいかっていうと苦しい のかもしれないですけど、建築家にとってもし問題を持てるのであればそれは 素晴らしい事だろうなと思います。

会場2:ありがとうございます。

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