平沼:なるほど。今後どんな建築をつくりたいですか? 建築だけだとすると。

藤村:大勢の人が集まる建築という意味で、スタジアムが作ってみたいです。大空間ですね。スタジアム建築が好きで、しょっちゅう色んなスタジアムへ行っては、いつかは理想のスタジアムを設計してやると思いながら見ております。

平沼:でっかいね。

藤村:そう、だから原弘司さんってすごいんですよ。超高層と駅とドームを設計した建築家って原さんだけなんですよ。憧れですね。

平沼:ちょっと会場から質問取っていいですか。2人くらい、どうぞ。

会場1:今日は貴重なお話しありがとうございます。鶴ヶ島の話にあったような市民の意見を取り入れて公共政策していくような事がこれから必要とされていますが、具体的にはアーキテクトという職能を持つ人が、市役所側にいるのか、もしくは藤村さんのような建築家として個人事務所を持つような方が第3者として介入していくのか、そういった今後を具体的にどういった予測をされているのか教えて頂けますか?

藤村:ご質問ありがとうございます。核心を突く質問というか、非常にデリケートな質問だと思います。大学という場所から鶴ヶ島のようなプロジェクトが始まったんですけども、市民と行政とか、市民と政治家って向き合ってしまうんですよね。第3者として脇にいるっていうのは非常に重要な事だなと思っていて、脇にいるから色んな事を提案出来たり両方に話しを聞いてもらえたりするので、そういうポジションをキープしている限りは色んな提案を出来ます。これで例えば私が市長になっちゃったら向き合っちゃうんですよね。提案が出来なくなっちゃうんですよ。
アーキテクトはどういうところにいるべきかというと、誰も反対しない第3の立場に立つべきだと思います。大学っていうのも一つだし、後は公益社団法人、JIAとか、建築士会とか、公益性の高いと言われている専門家集団にも可能性があるんじゃないかと思います。芦澤さんも大学で教えていらっしゃいますが、大学って今すごくやれる事が多いような気がするんです。

芦澤:そうですね。

藤村:大学の公益性っていうのは武器なので、そういうものはもっと色んな場所で活かされていくと良いなって思ってたりするんです。

会場1:どうもありがとうございます。

平沼:もう一方。

会場2:お話ありがとうございました。コンペティションとか見ていてですね、僕は22なんですけど同じ世代が作っているものがナイーブだと思うんです。多分、心の内に凄いエネルギーは持っているんでしょうけど、表現の仕方は凄くナイーブになっていて、過去のコンペティションの作品のように、時代をつくってやるぞみたいなエネルギーにあふれている作品が減りつつあると思うんです。今日お話しを聞いていて凄く面白かったのが、メディアにエネルギーをかけていらして、お話を聞いている感じではあまりそうしたエネルギーを、わざとそうなんだと思うんですけど、あまり感じられないような喋り方をしておきながら、メディアにかけるエネルギーが凄くあって凄い人間なんだなって思ったんです。そうした大勢に向けてのエネルギーをもってして、具体的にどうやってアプローチしていって人を繋げていったのかっていうのが凄く興味があります。

藤村:ご質問ありがとうございます。平沼さんの語りがソフトなものですから、つられてソフトになってしまい、元々声が小さくて聴こえないと時々怒られるんですけど、いつも以上に聞き取りづらいお話しをしてしまったかもしれないと反省しております(笑)。
学生と接するようになって、集団とコミュニケーションを取る時に、自分なりのスタイルとして「棒読み」「棒立ち」であることが重要だ、ピークをつくらないでコミュニケーションをするっていうのが大人数とコミュニケーションをするコツかもしれないと思った瞬間があったんです。例えば、家成さんとかもっと熱いですよね。熱く語りかけたり、怒鳴ったりしてますよね。山崎亮さんとかも笑顔で、とてもアッパーな喋りをされて、さすがふたりとも元ラガーマンって感じ(笑)。すごいなと思いますけど、自分もそういうスタイルを真似るんじゃなくても良いんだと思った瞬間があったんですよね。
自分にとってのスタイルは定期的にひたすら同じ事を反復するということでした。毎週日曜日の午前中に集まるとか毎年やるとか、そういう反復の中でフィードバックして、ちょっとずつ進化したり拡大したりしていくのをずっとやっていけば良いって。こういうのをインクリメンタリズム、漸進主義って言って、政治とか法律とか大きなものを動かす方法として言われているのですが、自分はそれが合ってるんだなと思った瞬間がありました。Twitterで毎日つぶやくとか、そういう些細な事でも、ずっとやっているとだんだん動きになっていきますね。

会場2:ありがとうございます。

平沼:最後に、建築家はどんな職業だと思いますか?

藤村:今は「建築家」っていう言葉とカタカナの「アーキテクト」という言葉の関係が凄く緊張感のある時代だなと思っています。カタカナの「アーキテクチャ」という言葉は、今はコンピューターのソフトウェアの互換性を保証するフォーマットとか基盤とか、そういう意味で使われる訳ですが、それを転じて人々の行動をコントロールする法律をつくる人とかそれを使って課題解決しようとする政治家の事を「アーキテクト」と呼ぶようになっていて、建築家は「アーキテクト」だと思われてない。どちらかというと建築家は「デザイナー」とか「アーティスト」だと思われていて、構造をつくる人だと思われていない。そういう状況が長らく続いてきた気がするんですけども、だから私たちは「建築家っていうのはそもそもアーキテクトなんだ」っていう凄く素朴な主張をしなければならない。建築家というのは本来、世の中の構造をつくったり動かしたりする人なんですね。そういうことを社会は忘れているから、取戻さないといけないんじゃないかと思っています。

平沼:なるほど。今日はどうもありがとうございました。

藤村:ありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |