平沼:安藤さん、僕は長年、芦澤さんと友人として仲良くさせてもらっているのですが、もうひとつ聞かせてください。芦澤さんは安藤事務所で優秀だったのでしょうか。

安藤:皆それぞれ苦労しとるので、個性が全部違うから、どれが優秀というよりも、全部に才能があるじゃないですか。

平沼:なるほど。

安藤:例えば私の事務所では設計以外にも展覧会を開催する。開催文章や建築説明の原稿をざっくり書いて所員に「リライトしておいてください」と渡すと、得意な所員がやっぱりいる。全部自分ができる訳じゃないので、得意不得意のある人たちが集まった事務所だと、個性に合わせた才能を発揮してもらうことができます。

平沼:先ほどお聞かせくださったご講演の中で、モンドリアンのコンポジションやピカソの写真を見せていただきました。安藤さんが建築を考えられる時に、アートや音楽、他分野から影響を受けられることはありますか。

安藤:そうですね。たとえば先日、ラン・ランという中国人の音楽家が、大連と深センの音楽ホールの依頼に事務所へ来ていました。中国では1番有名なピアニストです。でも私は、子供の頃に音楽を聴いていませんから、ホールはつくるけど、音楽はダメですね。

平沼:僕もそうですが、今日の会場には安藤さんと同じ地元、大阪の方が多く来られています。先ほどのお話しにもありましたが、この絶望的な大阪を良くしていくには、どうしたらいいですか。

安藤:これはもうね、一人ずつの意識が変わらないと治りません。

平沼:治らないですか。(笑)

安藤:治りません。(笑) もう絶対に治りませんが、それはそれで、楽しくする方法もあります。この会場でもあるグランフロント大阪・梅田北ヤードの銀杏並木があるでしょ。このあたりに並木が3列ありますが、その向こう側にも3列つくる。つまり6列の銀杏並木をつくる提案をしています。緑も多くし、もっともっとこの街のことをみんなで考えて、良い街にしていきたい。今、大阪には海外からたくさん観光に来る人たちが増えてきていますが、もっともっと、街に影響されて人生を楽しめる人たちが増えるといいなと思っています。たとえば、もう一度、大阪大学をはじめ関西を代表する学校に、中之島周辺に戻ってきてもらう。来年くらいには梅田に、大阪工業大学ができますね。

芦澤:はい、そうです。

安藤:これは街にとっても、大きなことです。学校のキャンパスになる敷地が市内になかなかないので、中之島を全てキャンパスにしてもいいくらいですね。そういうふうに、大阪でしかできない街づくりをしてゆければ、東京に一極した同じ価値観の人ばかりではなくて、大阪の大学に進学したいと思う人も増えるだろうと思います。昔は、京都の学校に行きたい日本人はいっぱいたわけですね。だけど今、京都へ行くと、観光地として充実させる政策ばかりを強めたせいで、アジアを中心とした留学生や観光客ばかりの増加で歩けない。国民が学び、街での生活を楽しむことができる豊かな都ではなく、経済が優先された観光客目当ての街に変わりつつあるかもしれません。

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