山崎:

そうやっていると総合計画をつくってくれないかという話になりまして、総合計画はご存じのとおりかもしれませんが、設計をするときによく上位計画で参照にするものですね。町が今後10年どういう政策をうっていくかという、教育委員会は何をするのか、産業振興課は何をするのか、建設部局は何をするのか、全部が並んでいる冊子ですけども、当時、島の人たちとかなりいっぱい知り合いになったので、その人たちに意見を聞きながら総合計画をつくってくださいと言われました。これが、2年間かかったのですが、2005年はちょうど僕が独立するときだったので、独立して1番最初の関わりある仕事になったんですね。住民参加で計画づくりをする一番最初のケースになって、これがうまくスタートしたからすごくありがたかったなと思っています。ある意味では家島に育ててもらった感じがしますね。ただ、総合計画を完成させようと思っていたぎりぎりのところで姫路と合併ということになってしまったので、家島町独自の総合計画はいらないということになりました。そうなったので、家島のまちづくり読本という冊子にまとめたのですね。100人ぐらいの住民の人たちと意見を出しあってこれからまちづくりをこういう風にしていきましょうという方向性がでたので、町が閉まる閉町式という式典があるのですが、そのときに3500世帯の人たち全員に配ったのが今の読本です。読本はみんなが提案したプロジェクトを、何人でできるプロジェクトかという風に人数ごとに目次分けして、1人でできること・10人でできること・100人でできること・1000人でできることという分け方で冊子をつくりました。
プライベートとパブリックがあってその間、大きさを自由に行き来するコモンという領域というのがありまして、という話をしても島の漁師さんにしても何のことやらさっぱりわからないわけですよね。だから、1人でできることはまちづくりとして1人でやっちゃいましょうと。ただ、100人1000人集まらないとできないことは行政と共同してやればいいでしょうということで、プライベートとパブリックというのがあるのですよ、ということを理解してもらおうという冊子をつくったということですね。ただ、これをつくっただけでは実は具体的に動きださないので、特に100人1000人ってたくさん人を集めるときにはそれなりの予算が必要になってきますから、その予算をなんとかつけなきゃいけないという課題がありました。そのときに、合併特例債とかがあって、家島が合併するときにですね、3億円のお金が使えるようになったんです。ただ、3億円のお金を家島町の貯金に入れておくと、姫路市と合併したあとは姫路城の瓦をちょっと葺き替えたぐらいですぐ飛んじゃうお金ですね。だから、家島町のためにお金を使っておかなきゃいけないということで、ありがちなんですけど合併するまでのこの1年で島のために3億使っちゃわないといけない。それで、どうしたらいいでしょうと相談しに来てくれたんですよ。それでハコモノとは言われているけども文化施設かなんか設計してもらうのが一番いいかなとむこうから言われて、僕は独立したばかりですから設計すれば処女作みたいになるわけですよ。でも、さすがにハコモノと言われる時代ですから設計するのはまずいなということで3億円を設計に使うのはやめましょうと提案しました。町が3億円を持っているということは、県や国からも同じだけ出してもらって6億とか9億の事業ができることはわかっていたんですけども、文化施設をつくってなんとか姫路市にお金をとられなかったと喜ぶよりも、もっと他のやり方があるんじゃないかということで調べて、まちづくりの信託銀行に預けてしまうというやり方にしました。いえしまふるさと基金という名前になり、家島町の支部官庁である兵庫県が認めれば、信託銀行に3億円全部預けてしまって、そこからちょびちょびとしか出せないという仕組みになっています。どこにそのお金を出すかというと、選定委員会がこのプロジェクトには出しましょうと、まちづくり団体のプロジェクトに上限100万円でお金を出していく。だから、たとえば上限100万円の助成金を年間10団体出しても1000万円ですから、30年間家島町のまちづくり団体を支え続けることができるんですね。30年間まちづくりの団体をずっと支え続ければ、うちの道の前に落ち葉がいっぱいあるんだから、それに掃きに来いとみたいに役場に電話する人はいなくなるだろうと。姫路市の中でも家島町は凄くまちづくりの盛んな町だという風に売っていくことができるんじゃないんだろうかということでご提案しました。結局、今は10団体になっていなくて、20団体ぐらいですね。それぞれ100万円じゃなくて50万円のところや30万円のところもありますが、年間に必要な額を出してもらって、ちゃんと公益的な活動をし続けている人たちをずっと助成し続けています。選定委員会は9人まで家島の人たちですね。元町長や議員さんとか漁港の組合長とかがやっていまして、僕は発案者だからということで家島の外から来た人間ですが委員会の一人となって、今もどのチームにいくら出すかということを選定しています。そういうことができあがってきたので、最初の10人の人たちがNPO法人をつくりたいということでNPOいえしまというのをつくりました。この10人は何をしているかというと、主に特産品をつくっています。特産品を開発してみんなにレシピを公開してその特産品を外部に売ることによって、その外貨を獲得して島の福祉的なことにお金を使おうと福祉タクシーを回したりだとか、元々あった広報家島というのをそのままちゃんと印刷できるように、できるだけのお金をつくるというのがNPOのミッションです。この人たちはなんで特産品をやりたいかというと、実は漁師の奥さんや漁協組合の奥さん、仲買の奥さんが集まっています。あとは旅館業をやっている人もいます。ここに写っているメンバーですね。この人たちが、やっぱり漁業の人たちが持ってきた魚の大部分が余ってしまって、これは売ることができない、と漁協の建前上、横流しはできないので、このお魚たちがもったいないからこれを使って特産品を外に販売したい、という風に言いはじめたおばちゃんたちです。このおばちゃんたちがすごく強いのは、男社会の中だと余った魚を横流ししたというのが分かると仲買さんに買い取ってもらえなくなるんですよ。そんなことをしないように仲買が買い取るお金が漁協で決まっていますから、安いお金で横流しするというのは絶対ダメなんですけど、このNPOいえしまが強いところはおばちゃんたちがみんな漁業やっている漁師さんの奥さんで、漁師の奥さんは「あんたこれ余ったんやったらうちら使うで。」と言って持って帰るんですよ。すると漁師の旦那さんたちは横流しはまずいんじゃないかと頭の中で思っているんだけど、奥さんに歯向かえないので全部持っていかれちゃうんですよね。その話を聞きつけて、仲買の旦那さんがあいつら横流し販売しているらしいやないかと、アカンのと違うか、と言うと仲買の奥さんもメンバーに入っていますから、そんなケツの穴の小さいことを言うたらあかんよと、別にただなんだからいいやないのよ、みたいなことを言うと。漁港の奥さんもいますから、漁港も何も言えなくなっているというのが現状です。奥さんたちの縦のつながりをつくってどんどん特産品を販売しているんです。ただし、数が決まっていないので、毎回注文を受けるということはできないのでなかなか難しくて。あるときにあるものを余ったものだけで販売するというやり方をやっています。

 

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