石山:ひろしまハウスいうのを、2006年にカンボジアでつくったんですけど、みなさんご存知じゃないと思うけど、これは僕の今までで一番出来の良い建築です。広島、原爆ドームとか、そういう負の歴史みたいなものに対して、どう自分の建築を表現するかって、キザなこと言いますけども、それに全力を挙げてやった建築なんですね。これはね、プノンペンです。カンボジアって言うとみなさんアンコールワット思い出しますけど、プノンペン最大の寺院、ウナロム寺院っていうのが、メコン川とトンレサップ川が合流するところにあります。カンボジアでは、一番安全なところが寺院です。ころころ政権が変わって、作ったものをすぐ接収されちゃう。でも、寺院の中は割りと安全なんですね。ウナロム寺院は、あんまり地元の人は言いたくないんだけども、ポルポトの内乱があって300万人ぐらい殺されてるんですけど、その時ポルポトの司令部があった場所なんです。その西門のところに一角を永久に貸してもらって、それでひろしまハウスを建てた。これがサイトプラン、この四角が、160m角ぐらいなんですけど、そこの赤い印のとこに建築をつくりました。これセルフビルドで、大きい建物なんですけど、基本的には僕が住んでる世田谷村と全く同じです。自分の出来ることは自分でやるということで、広島市民の方と一緒に。建設に10年以上かかりましたね。
これが完成したひろしまハウス。冗談だと思われるでしょうけど、これ、レンガを一個一個、積んでいったんです。10年かかりましたけど、でも集中的にやると2年ぐらいで出来るんですね。レンガが一個、さっきのソ−ラーセルと同じで、カンボジアだと15円ぐらいで、クオリティがすっごく良いですよ。良いっていうのは、それぞれムラがあるんですね。今、日本の設計が面白くないのは、メーカーやゼネコンなんかの管理技術が高くなっちゃったから、みんな同じものじゃないと使わせてくれないんですね。ここは部品が違いますから、そういう意味では非常に独特な仕上がりになってます。
内部は、自分で言うのもおかしいけど、かなり良いです。学生の頃から、僕は早稲田だったんで、アントニオ・ガウディとかいう変なものを教えられたんですね。なんか変な建築だなと思ってたら、年とったらこういうの出るんですね、アントニオ・ガウディみたいなのがね。僕は若い頃に変なもの、「幻庵」とかつくっちゃって、それから10年ぐらいそれを乗り越えるのが大変だったんですけどね。それで、もう駄目かなーと思ってたら、ちょっと年とってからこれができたのは、今でも誇りに思っていますよ。ものを作ってて楽しいのは、俺はこういうものをつくったからそんなに悪い人間じゃないだろう、と時々素直に思えるんですね。ただ残念なことに、良い建築だ良い建築だって言ってもあまり見に行ってくれる人がいないから、すごいぞって言ったってみなさん分からない訳で。でもこれはほんと良い建築ですよ。それからもうひとつ、人間のためだけではなくって、この建物全体が鳥の巣になってるんですね。竹竿を切って建築に突っ込んで、ツバメと雀が沢山ここで暮らしますよ。

芦澤:えっと、外壁側にでしょうか?

石山:はいそうです。

芦澤:あ、なるほど。

 

石山:これは僕が今一番考えている自分の建物と、ものづくりのキャッチフレーズ。ひとつの軸は、マンメイドネイチャー、人間がつくった自然。これは、ドイツのバウハウス大学のギャラリーでやった展覧会(シュツットガルトに巡回した)。バウハウスって結構悪いことも考えたんだね。グロピウスとかが、とんでもない間違った考え方を我々に教えたところがあるんですよね。みんな、モダニズムのデザインの教育で成り立ってんのね、僕も教えてますから。それで学生の作品をAとかBとかCとかつけてる基準がね、よくわかんないんだよ、はっきり言って。それで、かっこいいということで瞬間的に決めていくんですね。そのかっこいい、これは良いな、ていうのは、やっぱ教育で教えられてるんだね。だから、それはもう根本的な疑問が出てきて、だからそれはバウハウスに言ってやらないとかっこ悪いなと思って、バウハウスであんたたちの理論は違うんじゃないかって言って。うん、ちゃんと大人の対応して頂きましたけどね。これは、マンメイドネイチャーっていって、グロピウスさんとかミース・ファン・デル・ローエさんの考えはおかしいんですよ、っていう展覧会です。

芦澤:早稲田大学では、そういう教育方針の方向転換させようということは…

石山:二年生ぐらいの時にスケッチを教育するんだよね。

芦澤:はい。そうですね。

石山:それはバウハウスがつくったシステムであってね。この前が伊東さんのレクチャーだったけど、ああいうのがかっこいいと思ったりするのは教育でかっこいいと思ってるのね。心からかっこいいと思う。伊東さんがここにいないから言えるんだけど。

平沼:前回、伊東さんがすごく石山さんのこと褒めてらして、話も面白いし、特別なことやってるっておっしゃっていて。

石山:あの人、誰でも褒めんだよ。

平沼:そうですか。点数の付け方ってどうしてますか?

石山:点数の付け方は理屈じゃないですよ。奇麗だな、かっこいいなと思うと、良い点つけんだよね、製図はね。建築教育って偉そうなこと言いますけども、製図教育が基本ですからね、歴史教育と製図教育だけで良いんですよ。

平沼:なるほど。

石山:ヨーロッパの建築の教育っていうのは構造力学とか設備教育とか、エンジニアリングだからね。建築家が使えば良いという教育を、確かあなたもAAスクール…

平沼:はい。

石山:だから、そういう教育を受けてるはずですよね。日本だとアメリカのスタイルだから、一つの大学に全部いるんだよね、ごちゃごちゃ。おかしくはないけど、いずれきちんと態度を表明しないと、おかしくなってくると思いますね。

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