石山:福島県の猪苗代湖畔にやってる、地域計画じゃないけど45ヘクタールくらいの広域計画をやってて。建築はいらないから農園作りたいって人が出てきてね、まさか自分が農園設計するとは思わなかったんだけど。建築の商売は、クライアントあってのものだから。僕が学生の頃ね、そういうこと先生が誰も教えてくれなかったんだよね。なんか建築家っていうのはガーンっていって、そしたら何かできんのかなと思ってたらとんでもない話で、いつもクライアントがいるんだよね。それから設計料もくれないっていうのは教えてくれなかったんだよ。それはともかく、クライアントがいて、それでやっと仕事です。
これは、ゴミも含めて外に出さない、エネルギーも外から貰わないっていう。水も電気もそれから汚水もごみも、ひとつのクローズドにしちゃうと。これ失敗してね。クライアントがこれを建てるの嫌って言ってね。僕にもこういうのを作りたいってのがあんだな。こういうのやめればもっと仕事になるんだろうけど、どうしても作りたいんだよね。案の定嫌だって言われてね。

芦澤:いいですよね、なんか。いいと思います。

石山:いいでしょ? 建築家がいいって言うと絶対だめなんだよ。子供とかね、普通のお母さんがいいわねって言うとね…。だからブタとか書いてあるでしょ。模型にブタとかね、そういうのをこの頃置くようになったんだけどね。そういうものと一緒にいるような。これ山の上の発電所です。エベレストを登るときに、ベースキャンプって作るでしょ? これが、この全体の計画を作るためのベースキャンプ。気長な、十年、二十年の計画だから、まずベースキャンプを作ろうってことで。こういう計画をやって、これは下のほうだけ出来てます。

芦澤:一番下のコルゲートっぽいのは…

石山:コルゲートです。これ好きな材料なんですよね。今、アルミとか軽金属の時代になっている。でもアルミは腐らないんだよ。ゴミがゴミのままなんだな。だから伊東さんなんかの考え方、ちょっとおかしいと思うんだけどね。腐らない材料って怪しいですよ。いきなりがたって崩れるんだよね。古い鉄はね、錆びて、好きな材料なんだな。

芦澤:その辺は昔の「幻庵」からずっと受け継がれている…

石山:そう。そうですね。コルゲートパイプって錆びるし、いずれ腐るんだよね、300年ぐらい経つとね。僕の師匠だった川合健二って人が、この人は、日本で2台目のポルシェ乗ってたの。でも変な人でね、運転できなかった。奥さんが言ってたけど、ポルシェじゃ買い物行けないって。乗らなくなっててね、ポルシェがもう腐ってんだよね。日本で2台目のすっげーポルシェなのに。中にアオダイショウが住んでて。でね、僕に、「石山君、東京でポルシェに乗ってるやつは馬鹿だ」って言うんだよね、じゃあどうしてあんたポルシェ持ってんだって、「これはね、エンジンの音が誠に良い」って言うんだよ。エンジンの音がいいだけで車買うのか? 「これが腐ったら自分は土の中に埋めてあげて、お神酒をかけてやる」って言ってたね。そういう、その人がコルゲートパイプの先生だった。アニミズムなんだよ。

 

石山:これはね、ツリーハウスって木の上の小屋みたいなものを、掘っ建て小屋じゃなくて作ろうと思って。これ実際に出来てます。子供の遊び道具としても使えるかなあと思って。

芦澤:素材は何で作られてるんですか?

石山:これニューマチック。浮き袋ですよ。

 

石山:大掛かりな造園で実現したのが1個あるんで、それちょっと見て。こういう形好きなんです、このひし形みたいなの。真四角はあんまり好きじゃないのね。各コーナーにプレッシャーをかけてくと四角が歪むでしょ。平行四辺形になるでしょ。そういう形が論理的で好きなんですよ。真四角っていうのは、実にくだらない形ですよ。プラトンが考えていたようなああいう幾何学。あれはおかしいんですよ。
半分ぐらい土の中に埋まってんの。これ福島県で、ここは建築を建てたらいけないとこなの。農作業のための施設だったらいいって、今農業の時代だからね。それで農業用倉庫っていうことで。これ違法建築じゃないんですよ。ちゃんと県庁と相談して、またお前来たのかって言われましたけど。でも倉庫で農業用の、ジャガイモとかそういうのを収納する巨大施設ということでそれならいいと。でも本当はオーディトリアム。

芦澤:農倉庫としては使われてないんですか?

石山:倉庫って国に申請してるから。劇場としてはまだ使ってないんですけど、中は見てもらえる。これは真四角なんだ。適当なこと言ってんだな。これ、中にね、スロープがこうぐるぐる上がってるんですよ、それがみそなんだけど。学生時代、二年生ぐらいの教育でね、箱を作って穴ぽこ開けて光を体験しろみたいな、それが忘れられないんだよね。あなたもやったでしょ?

芦澤:はい。

石山:やっぱりね、建築って儲かんないけど面白いんだよね、すごく。それを久しぶりに実体感したって言うのかな。コンクリートなんてくだらない材料なんだけどね、やっぱり重くていいんだよね。空間作りって言うのかな、面白かったですね。これでっかいんですけど地下に少し埋めちゃった。これ内部なの。ちょっといいでしょ。

芦澤:いいですね。ちょっともモダンな匂いもしますけれど…

石山:モダンじゃないよ、教養無いなあ。これサッシレスなんですよ。サッシってね、今日サッシメーカーの方が来てたらお詫びするけど、あれ一番いらないものなのね。僕はこれね、コンクリートとガラスを直接貼ったんですよ。実にいろんなところからいろんな形の光が入ってくるんですね。それでこう周りをぐるっと 螺旋が回ってるんですね。ここは300人ぐらい入って楽隊も入るんだけど、だからジャガイモの倉庫っていうことになる。ジャガイモと人間はそんなにたいして変わらないよ。これね、見るたびにかっこいいなと思ってるんですけどね、ここに子供が来ると走り回るんだな、このスロープを。自分でもこういうものが好きなんだなあっていうことを痛感しましたね。これは、文章書いたり絵描いたりじゃ分からない感覚なんですよね。クライアントにお金払ってもらうってのは最大の喜びですもんね。すごい文化的なことだから、クライアントもそれを喜んでくれて。これ作ってちょっと事業が傾いたけどね。これは経営者の責任だ。これは、いつか全部できたら見ていただきたいけど、それまで自分は生きてないと思いますね。ひろしまハウスも十何年かかったけど、計画はしつこく長いほうがいいと思いますね。四角の中に作った、ある意味じゃ表現主義的なんですけどね、反射論とかそういう単純な表現主義じゃなくて、空間自体、物質自体の仕組みを作ってるつもり。結構いいでしょ?これ。

芦澤:そうですね、そうですね。

石山:実際に見に行くとこんなに…、写真のほうがいいんだよね。

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