塚本:パリに集合住宅をつくりました。ここでもアパルトマンのタイポロジーを導入しています。特にヨーロッパの歴史的な街区では、建築のタイプと都市形態(モルフォロジー)が有機的な関係にあり、タイポモルフォロジーという概念が成立しています。パリならば道路に接するようにヴォリュームを置いて、ブロックの中心に中庭を残すのが基本の形式です。通り沿いに連続する外壁には、窓と壁の比がだいたい1:1で、規則正しく窓が反復します。フレンチウィンドウと呼ばれる床から天井までの内開き窓で、その外側に中折の鎧戸がついています。窓の幅は1.2mなので、大人一人にちょうどあったサイズです。それが誰もが通れる公共の領域である道に接している姿は、個の参加が公共の領域をつくり、それを見守ると同時に、個は公共の領域から見られるという、相互的な関係を良く表していると思います。このフレンチウィンドウの連続するファサードの面白いところは、どこまでが一世帯か読めないところにあると思います。一つでもいいし、同じ階の4つの窓全てでもいいし、上下階2つづつでもいい。窓がたくさんあるリダンダンシーの高さが、猛烈な多様性を抱え込めるわけです。それに対して、モダニズムの集合住宅は、世帯単位と構造単位を一致させ、その中での間仕切りを自由に変えられる点をフレキシビリティとして主張していますが、実践的に考えればそんなに頻繁に変えることはない。外側から家族の単位が均一に見えてしまうことで、部分の総和=全体という図式的関係が空間として物質化されている。それに馴れてしまった現代人は、そういう風にしか部分と全体を考えられなくなっている。そこが、乗り越えないといけない問題の一つです。
場所はポルトペッシェといって、駐車違反でレッカー移動された車を引きとる駐車場があるところで、パリの住民はいい印象を持っていません。60年代に建てられ老朽化した公営住宅団地を、働く場所を含めたサブセンターに作り替える都市計画が進んでいて、壊される集合住宅140戸分を新たにつくるプロジェクトです。近くにあるバティニョール墓地の脇の人通りのない道を半分の幅にして、奥行き12m、長さ500mの敷地が確保されました。墓地の中には綺麗なプラタナスの木が並んでいます。ペリフェリックと言うフランスの建築事務所が頭になって、5組のフランスの建築家、あと日本とスイスの7組の建築家がワークショップをしながら設計を固めていきました。、1組20戸つくるプログラムです。公営住宅ですからプランニングについては寸法や大きさのテンプレートがあります。プランもオーセンティックである方が、無理がない。そういう時でも、玄関の大きさ、部屋のプロポーション、部屋どうしの関係、そして窓などには、色々と考える余地があるものです。最終的には同じ住戸タイプを縦に積んで18戸をコンパクトにまとめ、両隣の敷地との間にほとんど独立型といえるような2戸を挿入し、全部で20戸にしました。集合住宅の通りの中に、戸建住宅のようなヴォリュームが入り込み、間から墓地の緑が見えます。これをフレンチウィンドウの反復がまとめています。中央の棟には18世帯に対し108の窓があり、その1階には子供の遊び場に面して長いロッジアがあります。さらに様々な大きさのバルコニーがランダムに配置されることにより、ファサードからはどこまでが一世帯かわかりません。

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