塚本:恋する豚研究所を運営するのは千葉、埼玉で特別養護老人ホーム等を経営している社会福祉法人です。恋する豚研究所は一階が豚肉の精肉、ハム、ソーセージへの加工、さらにしゃぶしゃぶ用へのスライスを行う工場、二階は豚しゃぶレストランと、福祉法人の事務所、そして屋根付き広場になっています。この工場部分で障害のある人たちを雇い、法定賃金を保証することによって得られる助成金を活用した事業です。工場は細かく部屋が分かれ、作業も決まっているので、ルーティン化しやすく、障害をもった人でも働くことができるのです。
この福祉法人のコンセプトの一つが「ケアはクリエイティブである」です。ひとりひとりの違いをよく理解しないと良いケアができない、毎日が発見でそれによって自分たちの方を変えていかなければならない。そういう意識で仕事に望むためにも、クリエイティブな環境が必要であるということで、しっかりとデザインされた施設を求めていました。また、近隣の農家の人たちが野菜や果物を売りに来たり、人での足りない農家の作業を手伝うワークショップを企画したり、植林されたままの杉林を手入れして薪にしたりと、地域の生業や風景に対してもケアの思想を拡げています。そういうふるまいと農村風景にふさわしい建築のあり方は何だろうか?敷地は実はロードサイドで、近くには道の駅もありますが、自動車文明が農村を侵食しているようなあり方は参考になりません。農村風景の中で、人々が集まってくる堂々とした建築。それはむしろ、イタリアのヴィッラの系譜につながるものではないかと考えました。モータリゼーションではなく、農村に属する建築としたかったのです。特にパッラーディオが考案した、農具倉庫などを翼を広げたように庭に対して置き、その中央に館を位置づける構成が参考になります。人を迎え入れるロッジアは二層構成で、上部はレストランと事務所に面し、両側に広がって一つは敷地奥に設けた駐車場へと伸びて行きます。駐車場を建物の前からはずして、敷地の奥に持って行ったのです。屋根は少しずつ勾配の違う4つの寄せ棟が組合わさった形になっています。レストラン、広場、事務所、トイレの順で屋根が低くなっていきます。外周で軒が水平に揃い、そこから腰壁までが全部360度窓となって、周りの杉林が良く見えます。窓が奇麗に保たれることもレストランのおいしさの条件だと考え、窓の外にキャットウォークを回して掃除しやすくしています。広場は屋根がかかっただけの場所で、外気と連続しており、薪ストーブで暖をとります。

平沼:なんかすごいですね。それとね、大変なことに気づきました。スライドが250枚あるのにまだ140枚しか流せていないんです。(笑)

塚本:終わらないですね。どんどん質問してください。


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