芦澤:普通は、ミースとかコルビュジェが出そうですけど、

北川原:ミースとかコルビュジェって社会全体を見ていたと思うんですよ。特にミースは社会の構造が、経済システムに乗っかってね、ものすごく変化していくということを見抜いていたと思う。ウィトゲンシュタインという人は、ほんとうに不器用な人でね、そういうことに全然興味がなかった。ははは。(笑)そういう人ですよね。

芦澤:より建築を純粋にと言うか、思考を探っていた人。

北川原:建築ってやっぱり経済システムとか色んなことに関係しているから、建築って純粋じゃないと僕は思っていて。だからウィトゲンシュタインは、自分の緻密な哲学的な方法論をそのまま空間化しようとしていて、実は建築はそうは出来ないんだって所にものすごく悩んでいた。それがね、この建築から見えるんですよね。彼の人間性が、あぁいいなって思った。
このペースで行くとちょっと大変なことになっちゃうよね。(笑)

平沼:はい。(笑)

北川原:なんか写真が100何十枚あるみたいなので、とばすところはとばして行きたいと思うのですが、今映っているのは、ちょうど今年開催されているミラノの万博です。日本では最近、愛知博って言うのがあって、その前は大阪万博がありましたけど、所謂何年かに一回行われる万博ですね。それがミラノで今年は、「食」をテーマにやっていまして130ヵ国位のパビリオンがあるんですが、その中の日本のパビリオンのデザインを担当して造りました。このマスタープランは、ヘルツォーク&ド・ムーロンですね。ヘルツォークが国際コンペで1等になって、このマスタープランをつくった。実はこの通りには出来ていないですけれど、ウナギの寝床のような敷地に、それぞれパビリオンをつくると言うことになって、日本館も同じように細長くつくりました。手前の方にスロープをつくって建築じゃない感じになっているんですね。奥の方に、ボリュームがあるんですね。僕は最初、木造で造ろうと思ったんですね。日本の食べ物がどのように作られていくのかを考えると、皆さんご存知のように、明治時代位までは、自然のある循環システムみたいのがあって。雨が降って豊かな森から、栄養分の高い水が里山に流れて、田んぼや畑が潤って、それでおいしい野菜が色々採れてさらに、川を下って、海に辿り着くとそこで沿岸漁業が栄えると。そして海の水が蒸発したのがまた雨となって森に降ると。この循環の中で上手く日本の食べ物の生産というのが行われてきたと。その元が、健康な森だろうと言うことで、その森を維持するには、間伐をしないといけない。今間伐材の写真が映っていますが、その材をジョイント金物を使わずにめり込み作用だけで組み立てていくと。いわゆる昔ながらの塔状の建物とかですね。法隆寺など日本の古来の建築ってほとんど金物を使っていないわけで、ほとんどめり込み作用。これは東京大学(農学部)の稲山さんという私の友人ですが、彼と10数年やってきているんですけど、めり込み作用の構造計算式は、彼が考案したものです。森を育てていく象徴的な意味を持つだろうと思って、今回の日本館もそのめり込み作用の木造にしたわけですね。コンクリートや鉄にたいしてめり込みってこう動きますからね、常に変化するっていう意味で生命論的っていうちょっと大げさなタイトルをつけました。それで、イタリアの現地で、シベリアからカラマツが結構入ってきているので、それを使ってモックアップを作ったんですね。これは6mくらいの高さですが、構造解析はオブ・アラップのミラノ事務所でやってもらって、石本建築事務所さんが実施設計をやってくれまして、石本さんの協力で安全確実なものをつくることが出来ました。。これ組み立てているところのムービーがあるので、見ていいただければと思います。このイタリア人が現地の木造加工会社の職人さんですね。非常に上手いです。すごく不安だったんだけれど、日本の大工さんよりも上手いですね。非常に精度が高くて、やっぱりアルチザンの国といいますかね。この材料は岩手県の山の間伐材カラマツですね。農水省が頑張って集めまして、それを船につんでイタリアまで運びました。今映っているこの所員、桑原くんっていうんですが、彼が立体木格子のスタディを一生懸命徹夜でやってですね、非常に良いデザインができました。立体木格子で構成されているんですが、実はこれで全部構造を作るとなると、EUの所謂、構造の認定を受けないといけなくて、それが非常に難しくて。まず材料が、日本の木材を認めてくれないんですね。EU認証も取れない。したがってそういうもので作った構造も認めてくれないし、めり込み作用の計算式は一切認めないと。日本で言ったら大臣認定みたいなものがいるんだけど、それを取るのに3年かかると。そんなことしていたら万博終わっちゃうということでね。それで諦めて、建物本体の柱梁は鉄骨でできているんですね。こちらは貴賓室です。貴賓室の中は金沢で工芸職人の方に金箔や漆や、そういう方々にいろいろ作ってもらって、それを使って内装を仕上げています。毎月、現地に工事監理に行きました。うちの所員も行ったり来たりで大変でしたね。これでちょうど高さ12mくらいですね。これは内側からみたものですね。角度によっていろいろな形が見えてくるんですがそれで実はね、てっぺんが十字架が並んでいるように見えるんですよ。これができあがってから、イタリア人が騒いでね、あれ十字架じゃないかと。この木造は十字架を組み合わせて作ったのかとか言われてね。

平沼:ははは。(笑)

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | NEXT