芦澤:デュシャンの大ガラスも色んな要素が散りばめられていてそれぞれがバラバラですけど、受け手側が関係性を読み解くような所がありますよね。北川原さんの作品も、それぞれの建物は今写真を見ますとデザインとしてはバラバラのように見えて…

北川原:バラバラなんだけどね、なんかどっかで繋がっている。

芦澤:それはじゃあ空間を体験する人が読み解いていく。考えてくれというようなことですか?

北川原:コンセプトの根底には、ワルター・ベンヤミンのパワー・コンステレイションていうキーワードをおいていたんです。それはどういう事かっていうと13社みんな侍の社長なんですよ。みんな好き勝手なこと言ってね。みんないい場所に建てたがるわけですよ。各社の位置、敷地割りというのかな。それまで全部やりなさいと。それはさすがに僕全部できませんと。何度も辞退したんですが、とにかくあなたがちゃんと決めてくれないと、いつまでたっても決まらないと。各会社の位置を、土地の形状から全部それをマスタープランの中で決めていったんですね。そのときに、やっぱり13人の社長の力関係、これがパワーストラクチャー。おもしろいなと思ってすごく研究しました。(笑)。単に政治的な話だけじゃなく、好き嫌いもある訳ですよ。そうするとね、こっちのA社からB社はみえないようにするとか、少なくともこっちのA社の社長室からはB社が見えないようにするとかね。これが結構面白くてね。建築って関係性って重要だなあっていう実感があって、このマスタープランをね、GAギャラリーで、展示したことがあるんです。その時に、たまたま磯崎新さんが来られて、「北川原くん、都市ってポリティカルなんだよね。」ってひとこと言ったの。僕はそれだけじゃないですよねって言いたかったんだけど、反論はしなかったんだけど。でもまさにそういうものをどう解いていくか、機能主義的な解決方法じゃなくて、ミースとかコルビュジェだったら違うやり方するし、バウハウスだったらもちろん違う。あるいは槇先生だったら絶対こういうことはしないと思うんです。ただ僕は機能主義の迷宮に陥りたくなかったので、機能主義は横に置いておいて、他の方法で都市をつくろうと頑張った。それが上手くいったかどうかわかりませんが、少なくとも満杯になって、元気に稼働しているからよかったかなと。

芦沢:結構プランを決められたりするのに、すごくスタディに時間をかけられているように思いますけど。

北川原:うん。理事会とかね、クライアントの方々とコミュニケーションの中で決まっていくことが多いのね。それでいいじゃないっていうね。だから机に向かっているだけだと、解決しない。(笑)建築ってそういうとこが面白いなと思いますよ。

芦沢:マッピングっていうかプロッピングっていうか。

平沼:ビックパレットのブックを見させてもらったことがあるんですけど、独特なんですね。やっぱり北川原さんの間のとり方が、合理的に考えていたり経済主義者が考えていくとなっていかないんですよね。これは、きっとその建ち方にもよるし。そこまでのアプローチももちろん考えると思うんですけど。結局はどんな建築空間をつくりたいと目指されているのかなと。

北川原:僕が目指したいなと思っているものに近いんですが、これはあのルーチョ・フォンタナというイタリア人とアルゼンチンのハーフの画家で、ご存知の方いらっしゃるかもしれないけれども、20世紀前半活躍したんですが、そのフォンタナの空間概念っていうタイトルの絵です。絵とは言いながら実は、ナイフでこうパシッと切れ目を入れただけなんですね。要するにもう絵は描かないっていう。絵は描いていても、越えられない。そこでフォンタナはキャンバスを切り裂くのを思いついたんです。その時代にはやっぱり批判は当然されたと思うんですけど、僕がこれからどんな建築やろうかって言った時にこういう発想がいるんだろうなと思っていて、まだ未だに何も思いつかないんだけど、このフォンタナのような仕事が出来るといいなと思っていますね。

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