平沼:それは既成概念をガラッと変えるような建築というようなこと?

北川原:そう、既成概念を変えるというか、ある時代に移っていく時にやっぱりその新しい時代を予言するようなものって出てくると思うんですね。ものづくりをやっている人ってそういうところに挑戦したいって夢持つじゃないですか。現在を越えて未知の世界に行く1つの見方ですよね、これも。
今やっているプロジェクト、キース・へリング美術館、既に第1期工事は数年前に終わっているんでが、キース・へリングってこういう絵を描いていた人ですね。今映っている写真の中の人が中村さんっていう美術館のオーナーです。実はある大企業のオーナー社長でもあるんですが、キース・へリングに惚れ込んで、美術館を山梨県の北杜市の小淵沢というところにつくったんですね。なぜ小淵沢なのか、それはもちろん、中村館長が決めたんですけれども、縄文文化が栄えた場所で、この写真の上の3つの土器はその場所から出た土器です。実は下の写真はキース・へリングが作った壺ですが、その絵柄が非常によく似ているんですよ。これを中村館長が発見して、最初はニューヨークにキース美術館をつくるか東京につくるかってお考えだったんですが、この縄文土器とキースの土器があまりにも似ているってところを発見して、この小淵沢に、『北川原君、小淵沢につくることに決めたから』って言って、小淵沢につくったわけです。最初はいろいろスケッチを描いていて、分散型の、森の中に展示室が分散するようなイメージでスケッチしたり、様々なデザインを考えたんですが、最終的にはワンストーリーで空間が展開していくような構成を考えたんです。実は2年ほど前から第2期工事っていうか増築工事ですね。実はこの美術館がここにあって、同じ敷地の中にホテルをつくりました。こちらに研修棟がありまして、そんな感じで少しずつ施設が増えていっているんですね。これが工事中の写真ですけれども、今この左側のコンクリートのものこれが収蔵庫です。これが新しくできたミュージアムコートですね。新しくできた展示空間の新しいアルミの立体作品。この作品を見て、キースってやっぱりすごいんだって思いましたね。この作品の前に行くとなんか手を合わせたくなるくらいほんとに崇高な作品ですね。

平沼:キース・へリングの空間の扱い方とそれまでの北川原さんの作品と違うように、ワンストーリーで解くって今までの北川原さんの作品の中では見たことがなくって。ちょっと衝撃を受けて、あっ変わった、みたいな感じがありました。

北川原:プロジェクトごとに、しょっちゅう変わっているんですけどね。キース・へリングという1人のアーティストだけの美術館なんですね。ワンストーリーでキースの世界にどこまで奥深く入っていけるかってことで、ともかく1本に絞るって考えたんですけどね。

平沼:かなり緊張感が空間の中にあるじゃないですか。やはり意図されたものですか。

北川原:キースってポップアートと見られているじゃない。だけど、実はものすごく深刻な社会問題とか人間存在の問題とか、きわめて哲学的でかつ深刻な問題に彼なりの表現で取り組んでいると思うんですね。彼の作品はものすごく深刻なものを孕んでいる。

平沼:なるほど。それをこう表現されたんですね。例えば今のキースであったり、周囲の環境との調和ってどういうふうにこう考えられていたんですか。

北川原:すごい難しい質問ばっかりだよね。1つの例としてね、これもつい数か月前にできたんですが、あのこれは建築ではなくていわゆるなんていうのかな、彫刻みたいなもので、南アルプスの国立公園の制定50周年記念モニュメントのコンペがあって、でたまたま1等になってつくらせてもらったんですが、南アルプスって自然そのものなわけだけど、そこにモニュメントなんてつくってどうするんだ、って批判は当然あると思うんですけどね。南アルプスの山々は氷河でえぐられてるんですね。カールといわれる美しい曲面をつくってるんですが、そのカールでまず立体を構成したんですね。南アルプスってほんとに水がきれいで、湧水もほんとに美味しいんですが、その水のイメージを、ハート型の断面の立体にしました。これはそのチタンでできてるんですけどね。チタンって電圧をかけると発色するんですが、その電圧によって赤くなったり、ピンクになったり緑になったり、こういうブルーになったりするんですが。水のイメージのブルーのチタンとカールのコールテン鋼を組み合わせたんです。

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