芦澤:授業料、早稲田高いですよね、ふふふ。

栗生:高いですね。それでね、学校の掲示板にいろいろなアルバイトの求人が載るんですよ。で、時給がいくらか、一番高いのをずーっと探してるとね、それでも難しいな、大変だなと。それでね、弁当売り・青木屋っていうのがあってね、時給は能力次第って書いてあるんですよ。

平沼:ふふ、なんか、怪しい感じもありますね。

栗生:とにかくそこへ行ってみたんです。目白の奥の鬼子母神っていう所にあってね。間口2軒ぐらいの、ガラス引き戸の中でお弁当作ってるわけです。覗いてアルバイトしたいって言ったら、裏に回ってくださいって。裏に回ったらね、大きな自転車がたくさん並んでるんですよ。

平沼:なるほど、なるほど。

栗生:中に入って話を聞いたら、僕は最初、弁当を売るっていう事で、どっかの駅のお店で売るのかなって思っていたら、この自転車に弁当を乗せて売りに行くんだよって。

芦澤:ああー、はははは。

平沼:出前じゃないですよね?注文なしですよね?

栗生:そう、自分で買い手を探して。だから簡単に言えば、仕入れた弁当に利ざやを乗せて売って、能力給ってのいうのはそう言うわけで、売っただけ稼ぎになる。ただし、残ったら全部お前の責任だよってことで。

平沼:確かに能力給ですね。

栗生:だから、早朝に起きて弁当屋に行って、弁当作るのを手伝って、卵かけご飯かなんかを食べて早い時間に出て。それで、自転車の後ろのプラスチックの箱に、1段に12、それが3つ重なって36、それを3段重ねて108つ、4段で144個、自転車の荷台に重なると、肩ぐらいまできちゃう。それでね、新宿とか渋谷に売りに行く。みんな飛び込みですよね。ビルの一番上までエレベーターで行って、走って階段を降りながら一軒一軒飛び込んで「弁当屋です!今日はこういう弁当があります!」って。

芦澤:あぁー。

栗生:最初は10個とか20個ぐらいで、だんだんだんだん数が増えていく。その当時はね、毎日今日は何個売れるかって言うのを計算して、天気を予測して、こういう天気の時はこういうお弁当が売れるだとかね、女性が多いところでは、こーだとかあーだとかっていうことをね、記録につけて。

平沼:なるほどなるほど。

栗生:んで、午前中はそれをやって。午後からしか学校に行ってないんです。でもね、その弁当売りがものすごく面白かった。

芦澤:ふーん。

栗生:もう、いかにして数を売るかっていうことを、一日中考えてたんですよね。これは、ある意味でいい建築の勉強になったと思ってるんです。人間っていうのはどういうことに興味を持って、どういう対応をすれば、どういうレスポンスがあるかっていうようなこととか。売り先でも5、6人しかいないような事務所もあれば、200人、300人の大きな会社もあるわけでしょ?その、行った時の対応が全然違うわけですよ。雨に濡れてビショビショで飛び込んだところでね、「あぁ弁当屋さん、大変だね」ってタオル持ってきて拭いてくれて、「弁当みんな買ってやろうよ」って所もあれば、200人ぐらいの大きな会社で、ボンッとこう、カウンターに弁当を置いて、口上を述べるわけですよね。そうすると、まず総務課長とかが飛んできてね「ちょっと君!君!こっち来て」と部屋に通されてね。そしたらまぁ、分かってくれて、売れたんですけど。みんな唖然としているっていう。

平沼:うーん。

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | NEXT