栗生:次は先程お話したせんぐう館です。完成は2012年ですね。皆さんご存知のように20年ごとに新しいお社に神様がお移りになられます。外宮の勾玉池っていうのが入口入ってすぐの所にあるんですけれども、ちょうどL型に池を取り囲むという形になっています。この時どんな風に考えたらいいかなと思ったとき、やはり神宮のマナーと言いますか、大切なものは奥にあるとされている。板垣があって外玉垣があって内玉垣があって瑞垣があってと、これ4段階の垣の奥に社殿があるわけですよね。そういう奥性みたいなのを空間で表したいなっていうことと、遠景・中景・近景というものの在り方、それからこのランドスケープは宮城さんの所でやったんですけれど、触景という触る景色ということを考えました。カテゴリーミスだとは思うんだけども、水のゆらぎだとか風のそよぎだとか、砂利を踏んだ時の足触りだとか、音だとかですね、木の手触りだとか香りだとかって、そういうものを大切にしていこうということを考えていたわけです。これは断面の模式ですね。神宮さんのご英断と思うんですが、原寸大の御正殿のモデルを展示する。本来足元には皆さん行けない訳ですからね。直に、本当に足元に立ち至って、御正殿の妻の部分を見ることができるということです。これも、国立公園の中の建物ですから、高さを13m以下に抑えるっていう規約があるんです。さらに、2000u以内。そうするとこの原寸大を入れると、どうしても13mを超えてしまう。で、ここも下に掘ってるんです。5mなにがしか掘って、それでギリギリ入れ込んでいます。屋根型も、御正殿だとか宝殿だとか重要なの建物は直角の矩折の勾配ですから、それに合わせて矩折の勾配のものにすると。で、段々近づくにつれて、先程の4つの垣を超えて建物に入っていくというイメージで作っています。モジュールって先程言いましたが、棟の上に鰹木という木が乗っていて、2,850だったと思うんですけれども、その寸法を基準にして、柱の間隔を決め、その分数で鋳鉄屋根の寸法も決めています。さらに、壁・床・天井というものも同じように割り込んでいってます。鋳鉄屋根材は幅が50cm弱だったと思うんですが、長さが11mある。こんな鋳鉄作ったことないって。重さ1枚につき800kgあります。これが全部で360何本かになるんですけれども、これが出来上がった状態ですね。やはり手作りの感じがすごくするのと、それから重厚感ですね。少し古代のイメージを引っ張ってくるということです。もう一つは、矩折の勾配の方は神様のお住まい、或いは宝殿という重要な建物はそうなんですけれども、それに付き従う建物は神宮の中でもわりと緩い勾配になっているんです。ですからここでも資料館の方は重要な建物ですから、矩勾配にしてます。こちらは、休憩舎なんですけど、緩い勾配の屋根になってます。休憩舎の方から見た勾玉池ですけど、この建物ができるまで来られた人は池の存在もよく知らないで帰る方が多かったのですが、やはりこれができたことによって、ここに立ち寄って休憩して池を見て、その先に奉納舞台があって、ここでさまざまな催しが行われています。これが休憩舎の内部の一部です。このベンチもデザインしてはいるんですが、使われている木が、地元の木が使われている。今、御正殿の棟持柱だとかは木曽の方から引っ張ってくるんですけれど、やはり地元でとれた木を使うというのが本来の姿ですので、大正12年から、植林をしています。当時の写真を見るとね、この近所の山は皆はげ山なんですよ。それは参拝に来られた人たちの煮炊きに全部使っていたということで。それではいけないということで、植林を続けて大正12年からですから100年近くなるわけですね。で、今回は間伐材を使ってこのベンチを作りました。左が休憩舎、正面が資料館です。こちらはエントランス部分です。この右の方の壁、木で出来ていますけれども、これ実は中はコンクリートなんです。で、さっきの大きいスパンを飛ばす開口部を作るためにコンクリートと鉄で作ってる。最初この木の部分、コンクリートの打ち放しで表現してたんですね。先程の宇治の平等院の鳳翔館だとか、或いは長崎の祈念館だとかに、神宮の方をお連れして、「こういう肌触りのコンクリートの打ち放しです」って説明をして納得していただいたんですけども、やっぱり最終的には「神宮は木ですから」というお話があって、コンクリートの上に木を貼ったんですね。ただし、僕がお願いしたのは、ここは雨がかりがあるんでできればこれは20年ごとに張り替えてほしい。それも一つの物語ですよね。だから遷宮に合わせて、ここの部分は張り替えて頂ければありがたいんですけども、ということをお願いしています。北側の回廊、これも入れ子構造になってて、矩折の大きい屋根の下に3つの四角い木の箱が入り込んでいるイメージですね。北側なんですけども、足元60mぐらい地窓が切られているんですけど、上から壁を吊ってるんですよ。外側に白い「お白石」っていう、御正殿の周りに敷き詰められた白い石を敷き詰めているんですけど、これによって反射光が北でも入って、とても明るい通路になっています。だんだん御正殿に近づいていきます。これが内部、一番奥に原寸大の御正殿の模型がある。模型といってもこれ本物ですよね。神様がいないだけで、本物で使われている材料を使い、ここの宮大工さんが同じように作られたものです。高さが約12.5m、幅も同じように12.5mの正方形の中に納まる大変プロポーションもいいですし、近寄ってみると見事なものですね。あぁ棟持柱ってこんなに太いんだっていうことがよくわかります。ガラスの部分も、これは内玉垣のプロポーションをそのまま持ってきて、すりガラスと透明な部分でできています。これは夜景ですね。観月会っていう夜に月を見るお祭りがあります。今年は10月の4日だそうですけれども、夜にもオープンする時が時々あるということです。

平沼:芦澤さんどうですか?

芦澤:どのプロジェクトも非常にコンテクストが非常に強いといいますか、伊勢神宮なんか勿論そうなんですけれども、そういうプロジェクトを私などがもしやる場合、リサーチにすごい時間がかかってしまうんじゃないかなと思ったんですけども。そのあたりは、どのようになさっていましたか?

栗生:時間は限られてますけども、集中して調べますよね。やっぱり建築っていうのは、空間と同時に時間をデザインするっていうことが僕は重要だと思うんで、歴史を徹底的に調べるっていうことと、それから空間もその周辺だけでなくて、かなり大きい地図、この場合は町全体から始めるぐらいのスケールでものを見ていく。本当は世界地図から始めてもいいとは思うんですけれどもね。

芦澤:あと、建築形態と空間構成が非常に明解だと思うんですけれども、相当スタディをなされて、最終的なこの形っていうものを導かれていらっしゃるんでしょうか?

栗生:そうですね、コンセプト模型ですけど沢山作りますね。周辺の環境と。周辺の建物や何かも一緒に作ってどういう形が一番ここに収まりがいいかって、これ、槇さんからの受け売りですけれども、建築を作る時には外部空間も一緒に作るんだ。ネガとポジなんだよと。それはそうですよね。砂漠に作るのと違う訳でかなり周辺環境があって、建物作ることによってネガのスペースの外部空間っていうのは同時に出来てしまう訳ですから、それへの配慮は常に考えないといけないということです。

芦澤:なるほど。栗生さんの、スタッフの方との進められ方っていうのは、どんな感じなんでしょうか?こうトップダウン的にやってらっしゃるのか、それともフラットにご意見を出し合って?

栗生:そうですね。これも槇事務所と同じやり方ですけれども、メンバーと一緒にというか、メンバーが色んなアイデアを出して、それを議論しながら詰めてくっていう事ですね。

平沼:すいません、次をお願いします。

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