芦澤:
じゃあ、ペロー事務所の話はこれくらいにして、前田さんがご自身でやられている作品を2、3説明してもらいます。これは、シナゴーグですか?
前田:
はい。郊外に現在建っているこの写真が、既存のシナゴーグなんですが、それの建替え計画を行いました。学校に勤めている教員の先生が設計をするので、手伝いというかたちで入ったプロジェクトなんですけど。まだこのとき、大学を出て2年目か3年目くらいで、ペロー事務所で働いていたんですが、事務所の仕事をしながら、どうやったら人が集まるのかみたいなことに興味を持っていました。ちょうどその頃に「シナゴーグ」という言葉を捜してみると、ラテン語のシュナゴゲーという「集まる」という言葉が語源で、その集まる場所をつくって、そこに機能を被せればシナゴーグになるんじゃないかという仮説で、その話をユダヤ人の友人に話したら、そういう設計を進めてみようよっていうことで、進めていたプロジェクトです。今映っている写真も、これは1955年くらいに発表されたランドアートですが、こういう場をつくると人の場所が決定されるということを考えて、のところに差し込んで、そこに機能を被せるということで、建築とランドスケープの間くらいの事ができないかなと思っていました。それを思ったのは、すでにこの場所は起伏があって、今この建物だけを取り除いてやるだけでも、微地形がすでにあって、勝手に場所ができるんじゃないかと思いました。そうすると、あの建物自体が居場所と言うものをブロックしているんじゃないかなという気持ちがあって、まずは取り払って、公園のような場所を地形でつくり、そこに居場所ができたら、そこを囲ってやれば、そこがシナゴーグというものになるんじゃないかなという提案です。
次のスライドにいきます。このあたりは、ちょうど事務所に入ってから1年目か2年目で、楽しくフランスで過ごしていたんですけど、事務所からお昼ごはんにサンドイッチとかを持っていって、こういう公園でピクニックのようにして食べるのですが、ここは良く使われている公園で、人がみんな思い思い場所を楽しんでいる。僕が子供だった頃の古墳で遊んでいた話とどうつながってるかはわからないんですけど、こんなランドスケープと建築が交われば面白いなと思っていました。
ちょっと話が脱線するのですが、ペロー事務所にいると、建築だけじゃなく都市計画のようなものすごくスケールの大きい仕事をやることがあったりしました。これはベルサイユ宮殿みたいな、当時のベルサイユ宮殿のランドスケープを担当したル・ノートルという造園家の別のランドスケープです。僕はいつも春になったらここに花見に行っていたんですけど、公園といっても、このスケール感というのが日本人が想像する庭のランドスケープからはだいぶかけ離れていて、ランドスケープをこのスケールでつくる国民性なのかと思ったときに、次のスライドなんですけど、フランス国立図書館がわかった気がしました。このスケールで、ランドスケープと都市を両方考えるスケール感みたいなものは、フランス人の身体の中にあるんだなぁと納得し、同時に、自分はそのスケール感を真似をすることはできるけど、もともとの身体感覚としては持ってないのではないかと思いました。
芦澤:
持っていないから、自分なりの感覚でやるということ?
前田:
ただもう10年向こうに住んでいたので、このスケールが心地良いと思う気持もあるんですよね。だから、10年という過ごした時間が自分の感覚をどう変えてくのかは、これから自分でもわからないんですけど、もともとの感覚としては持っていなかったな、という感じです。
芦澤:
なるほど。確かに確実に違いますよね。ヨーロッパ独特の感覚というか。
前田:
人間個人が持っている感覚として、そのスケール感の構築物を生み出そうとする感覚ですよね。体験する側は、まだわかるんですけど。
芦澤:
次はインスタレーションになるんですね。展覧会ですか?
前田:
そうです。これは、ちょうどアーキラボという展覧会が、3、4年前に東京の森アートセンターでやっていましたけど、フランスには建築の模型とかをちゃんとコレクションしている地方の美術館みたいなのがあって、そこが2年に1回のペースで建築展をやるんですね。2006年がちょうど日本建築家展だったんです。それで、展示会場に日本庭園をつくってほしいというオファーがあって、そんな庭の素材もないのにできるのだろうかと思っていたんですけど、できる素材でやってほしいということだったんです。既存の木を全部切り倒して、完全に更地にしても構わないから新しいものつくってほしいと言われたんですけど、それはしたくなくて、白砂を持って来てもらって、その砂の上に、これは3Dソフトでモデリングし、現実には鉄板に鏡をつけた板にステンレス棒とを溶接したもので構成されています。複雑に見えるんですけど、8つの種類のものを組み合わせているだけで、8つの角度しかないんです。これと同じようなことを、富国生命ビルのファサード計画でも似たようなプレゼンをしていて、あれは複雑に見えるんだけど、実はファサードのユニットとしては、フラットなものと、1モジュールで凹んでるものと、2モジュールで凹んでるものの4つしかありませんよ、というプレゼンをしていました。そして、それは通ったんですけど、実際にできてみると180くらいの種類にまで及んでいました(笑)。
芦澤:
(笑)これは8つですか?
前田:
これは8つです。これも職人さんにできないって言われたんですけど、角度の着いた8つの型枠をつくって、板を型枠に合わせて角度をつけて置いてから上から垂直にステンレス棒を溶接をしたらできました。歩いていくと、映っていく風景が逆戻しみたいな感じで、上に映ってる白砂の部分は目と同じように動いていくんですけど、鏡の反射で映っているものは、それとは逆方向にいくので、風景の半分だけが逆方向に流れていくように見えます。実はそこまで意図したわけじゃないんですけど、これもできてみると偶然にも、結構おもしろかったです。
芦澤:
何かこう、ランドスケープから建築をつくり上げている感じですね。
前田:
そうですね。これも劇場なんですが、国立劇場くらいのスケールで、劇場とアートセンターの両方が入っていて、平米数が3万uくらいあります。地下に埋めることができないボリュームをそのまま置くのと同時に、建築じゃない場所を並行してつくれないか、建物の形がそのまま広場をかたちづくることができないかなと思ってやった案ですね。

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