芦澤:
最後に、個人的に前田さんに聞きたいことが一つあります。今日紹介できなかったものも含めて前田さんの作品を見ていて、建築をオブジェクトとして考えるのではなくて、都市から、街から、ランドスケープからというところで、建築のあり方を捉えようとされていると思うのですが、もっとくだけてもいいんじゃないか、という気がしたんです。さっきのアーキラボの作品、あれくらい建築がとけていくと、その後の劇場のプロジェクトも変わっていくはずで、あれもアプローチとしてはランドスケープ的なんだけど、もしかしたら中できっちりと古典的な建築が担保されているんじゃないかと思いました。それは一例だけど、その障壁を突き抜けていったときに、これは勝手な僕の想定ですけど、前田さんらしさが突っ走っていくことができるんじゃないかと、勝手に思いました。
前田:
さっきの平沼さんの話かもしれませんが、きっとそこがやりたいんだというところを、もうすこしきちんと出していく、もしくはクライアントがいるときにもきちんと説明する手段をもつことはすごく大事なんじゃないかと思っています。やっていくと、こうした方がいいとか言われる中で、機能を満たした上で、建築を溶かしたいというのはあるんですけど、それのもうひとつ先の、建築かランドスケープか分からないようなもの、埋めるとか、隠すとかではないかたちで、建築とランドスケープがくっついたものを、規模を問わず、ずっとやりたいと思っています。規模が大きい方がうすまるかもしれませんけど、そこはまだ駆け出しなので大丈夫でしょう(笑)。今、芦澤さんが頭の中では何となくビジュアルを共有していますけど、そういうものが具体的に一体どういうものかというのは、人に頼まれないでもつくっていったり、展覧会をして発表することも必要かもしれませんし、こういうものがあると公共に対する所有感がこんなふうに変わるのかもしれないという可能性を、もっと出す必要があるのかな、と感じていたので、そう言っていただくと、またがんばらなければと思います。
芦澤:
もともと前田さんが持っている、ずけずけと入り込んでいく感覚と(笑)、丁寧さを持ち合わせていらっしゃるので、走っていけば問題なく進んでいくと、僕は信じています。
平沼さん、最後に何かどうぞ。
平沼:
よく言われるじゃないですか。19世紀、戦いの時代。20世紀、経済の時代。21世紀、環境の時代って。現代はまったく建築のつくり方がリセットされていて、僕ら、前田さんも芦澤さんもそうでしょうけど、今は環境に対してどういう解答を持つかということを、毎時間くらい競争でつくっていってる状況だと思うんです。それは、巷で言われているエコロジーとかいう話ではなくて、前田さんが言われていたように、どう周辺環境に溶かせるかということによって、生まれてくる環境の方式がどうであるかを探ろうとしているんじゃないかと思います。環境というものを直に解こうということは、皆やっていなくて、住まい方を変えることによって生まれてくる発想の原点であったり、根源的なことをやることによって、新たな空間の使い方であったり、また空間ができたことによって、その空間に対して新たな生活スタイルを生んでいこうというような見方ができると思います。そんな状況の中で、前田さんはランドスケープで建築を溶かしていくということをやられていたり、いろんな手法をやっておられるな、と今日は見せてもらって感心していました。その中で、今、前田さんが本当にこの手法に興味があるんだと、はまっていることをひとつ教えてください。
前田:
ペローとの差や、ペロー事務所にいたときの設計のやり方と、離れてからのやり方の違いという話に繋がるかもしれませんが、ボリュームを決めてから、内と外の関係をイーブンに考えるというやり方は、今でもボリューム段階で外部空間のスタディをものすごくするんですよね。それはペロー事務所のやり方で、それは継続しています。反面、まだ手法という程ではないんですけど、僕の意識として持っていることとして、ペロー事務所のときには、そこまで外部を内部に浸透させるような感じは持っていなくて、外は外、それをつくるためのボリューム、マッスが建築、マッス内部は内部、とを割と切っていたところがありました。
ペロー事務所に行く前に、この人は都市空間と、内装とか素材とかに興味がある人なのかと思っていたら、まったくそのとおりで(笑)。個人の興味というのはモノに出てしまう、その間のところは手を抜いているとかではなく、興味が無いんです。それが作品にも出ているんですけど、僕はもうちょっと少し、平沼さんのお話にのっかっているような気もしますけど、外と中の両方の所有というか、境界が溶け合う境界が面白いと思っているので、そこを小さい規模でもやっていきたいと思っています。
芦澤:
それはある意味では日本的なのかもしれないね。
前田:
そうですね。話が戻ってしまいました(笑)。
芦澤:
はい。今日は長時間、前田さんにペロー事務所の時代のお話から、いろいろと聞かせていただきました。ありがとうございました。
平沼:
ありがとうございました。
司会:
これで本日の217を終わりたいと思います。皆様、最後までご清聴ありがとうございました。

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