芦澤:
前田さんは、建築にどんな可能性を感じていますか?
前田:
今の話の延長になりますが、前の時代が良かったからと言って、そこに戻る必要はないと思います。今、ここに来ている人たちの多くは、僕らよりも10年とか15年くらい若い訳ですけれども、その人たちが街を所有するという感覚を持つときに、建築とどういう関わり方ができるだろうかと、目に見えないパブリックの所有感を彼らは持っていると思うのですが、そこにどう建築が関わっていって、場所を提供できるのかな、ということが気になっています。何となく日本で、あちら(フランス)が良かったというかたちではない、日本のパブリックなあり方に接続するには、何らかの見えないものと見えるものの両方に関わるような公共のあり方に建築が関わりを持っていけば、面白くなるのではないかと思っています。
平沼:
分かります。僕、たまに学生に教えに行くと言うんですけど、僕たちってモノがあふれた世界で生きてきたじゃないですか。生まれたときからモノがない状態じゃなくてモノにあふれた状態だから、これとこれはどちらが好き?と聞かれて、こちらを選ぶ。この服とこの服を比べて、こちらを買うということをずっとやってきたので、きっと比較の中から生まれてくる解答から何かを正しいという癖がついているんだと思います。でも、今の建築をやっている人たちは、一つの案を書いて、これがいいということにだんだんなってきていて、違う国の文化であったり、例えば他国の公共性のあり方を知らないままに、日本の公園はこうだからこれに対する解答はこう、みたいなことをやってしまっている現状に対して、僕は可能性がないような気がしてきたんです。
今日、前田さんのお話を聞く中で、公共性の扱い方というのは、例えば前田さんの場合、フランスと日本を比べることによって違う国の、バングラディシュだったらバングラディシュのコンペ案にも、そのことがどういうふうにトライしていくと、どういう結果が導き出されるかということを考えられて、その可能性を生んでいるのかな、と感じていたのですが、どうなんでしょうか。
前田:
まだもがいている段階ですね(笑)。どうしたら可能性につながっていくのかは、まだ全然わからないです。
芦澤:
僕ら設計者、建築家という職業に対して、今まで社会が用意してきた仕事のあり方そのものが、特に日本ではちょっと疑問符がついてきて、もう新しく建築をつくる時代ではなくなりつつあるわけでしょう。こんなことを言うと、学生にとっては希望がないのかと言われてしまいそうですね。でも希望がないわけではなくて、先ほど前田さんがおっしゃったように、ソフトとハードでいうとハードだけではない建築のあり方だとか、ソフトとしての建築のあり方みたいなものも、可能性は十分にあると思います。そういった部分も、これからは仕事としても成立するような時代になっていくのかな、という気がしています。
具体的に例えば、今は既にあり余るくらいの建物がある訳ですよね。それらをどう使っていくか、都市を面白くするのに、公共性を生めないか葛藤していくのに、そういうパブリック空間も含めて、どういじっていくのがいいかな、というのは個人的には重要なテーマだという気はしています。
前田:
所有化をどこまで皆が共有できるのか、公共の空間における僕たちの場所という感覚を、今までは僕たちの場所だという持ち方をおそらくしていなかったと思います。領域としてここは僕らの場所だという物理的な話でないにしても、都市を所有するという感じを、都市、ランドスケープ、建築単体でも置き換える仕事が出来れば、建築家にも何かできるのかな、と思ってます。
芦澤:
今までの話にもつながっていて、先ほどの話にもつながると思うんですけど、前田さんはもともと大阪の出身でフランスに行かれて、そういう経験を踏まえ、今後前田さん自身が考えていること、関西でこんなことをしたいという考えはありますか。
平沼:
何か特別なことは、意識していますか。
前田:
意識はしていないんですけど、今そんなに仕事がない状況で、コンペに参加したいと思っているんです。海外のコンペをやっていると、やっぱり面白いんです。日本のコンペをしていると、ときどき面白くないというか、自分に還らないような気がするんです。その違いは、それはひょっとしたら制限のされ方かもしれませんし、海外の建築のあり方やコンペの捉え方のようなものにはずっとコミットしていきたいなと思います。ずっと前、フランスの小さな村に日本の温泉を建てるというコンペに招待してもらったんです。現地に行って、敷地を見てきたんですけど、すごく小さな村ですが、何かこんな辺境の地にも建築を必要としている人がいて、地方でも海外に目を見開いている人がいて、外から人を呼び込もうと日本の建築家に頼もうとしている状況があって、それって面白いなぁと思います。

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