長谷川:シアトルにレクチュアに行ったら、マイクロソフトの社長も聴いていたとかで、そこでコマーシャル出てくれってオファーがあったんですよ。嫌ですってお断りしたら、なんでも言う事やってあげるって言ってきて、うちのスタッフが、事務所にネットワーク引いてもらったらいいんじゃないかって言って。それが出演料です。今はもうどこの事務所もコンピューターもネットワークもありますし、日本と中国でデータをやり取りして仕事を進めるとかできますけどね。プレゼン用のムービーとか、3Dとか描くのに、中国と仕事をする方が楽だったりするんですね。なんとなく日本の人よりテクニックが早いんでしょうね。
 これは珠洲っていうところの多目的ホールです。最初は、市長さんに「珠洲にどんなホールがあったらいいか、市民の意見を聞きながら考えて欲しい。1年間ワークショップやってください」って頼まれて、あの頃はまだ能登空港が無いから、金沢から雪の中1人で運転しながら、通いましたね。1ヶ月に1度、12回。それでワークショップをすると、子供たちがその村々で異なっているような独特の音色の竹笛を披露してくれたり。お祭りでみんなが竹笛を吹くので、子ども達も竹笛が大好きなんですね。世界の竹笛の展示場をつくってくれとか、竹笛をつくるワークショップをつくってくれとか演奏する場所もつくってくれとか、色々要望があって。それで多目的ホール1個のはずだったのに、竹笛のギャラリーとかワークショップとかカフェとかできて中央公民館みたいになっちゃっいました。

平沼:大きくなっちゃった。

長谷川:これは沼津のプラザヴェルデという建物で、展示場とコンベンションホール2つぐらいとホテルが入っているという、県と市と民間が一緒に進める大規模プロジェクトでした。去年の7月に完成しました。 基本的にはコンベンションホール2つと展示場、会議室なんですが、そうするとイベントがない時は締め切っちゃって全然使われない建築になってしまう。こんな駅前の一等地に日常的に市民が使えないような大規模建築があったらそれこそ無駄ですよね。だからできるだけ市民に開かれた建築にしよう、駅前にふさわしい公共的空間にしたいと、いろいろな提案をしました。
 前にも、群馬県太田市の行政センターと集合住宅が一体になった本陣団地の設計で「市民ロビー」っていうのを提案したことがありました。それは、地域のおばあさんたちが日本舞踊とか習うホールが近くの公民館の3階にあって、エレベーターが無くて大変だと。本陣団地の1階に新しいホールをつくって欲しいって言われたんですね。でも、日本舞踊の教室は土日だけしか使わない。ホールにしちゃうと普段は使われなくなっちゃうから、全部ガラス張りにして、ウィークデイは「市民ロビー」として使えるようにしましょうって提案したんです。教室の時はカーテンをして練習してくださいって。
 太田市に行った時、駅前の路上とかコンビニの駐車場とかに子供たちがみんな座り込んで、香港状態で本読んでいるんですよね。「行くとこないの?」って聞いたら、「ない」、「家にも帰りたくないからここで勉強している」って。えーっと思ったので「今度、市民ロビーできたからあそこ行って勉強しなさいよ。」なんて声をかけたら、本当に子どもたちがやってきて。午前中は街の人たちが使うんだけど、午後になると学校が終わって子どもたちがずっと夜まで勉強したりして使ってるんですよね。日本には子ども達のための空間っていうのが本当に街の中や公共の場にもないんです。家と学校しかないですね。青少年自然の家とか遠く離れた山の中にあるんですけど、街の中に子どもたちがお金をかけないで不良っぽくもなく普通に居られる場所がないんだな、だから駅前に座り込んだりしているんだと思いました。
 本陣団地のすぐ横ですが、群馬大学大学院「テクノプラザおおた」のコンペに入ったときに、市長さんが挨拶で、長谷川が市民ロビーをつくってくれたら高校生が勉強するようになって、去年まで東大に1人もいかなかったのに今年15人も行きましたって。笑。

芦澤:へへへ。

平沼:へー!

長谷川:まあ、東大合格との関係はよくわからないけど、太田で子どもたちの場所を作ったのはよかったと思っています。だから、沼津でも「スチューデントロビー」をつくりました。沼津でも市民との対話や要望を聞く会合をずっと続けていたんですけど、近くの中高生にも来てもらって、いろんな意見を聞きながら設計をしていましたから、ニーズがあるのはわかっていました。沼津駅の北側の方には高校が11校もあるんですよ。大展示場の前の広い通路とか建物をつなぐテラスとかエントランスホールとかに机と椅子を並べて、いつでも来て自由に使っていいんだよ、と。結果、すごく子どもたちが喜んでいて、太田市と同じ様に駅前で座り込んでいた子たちが来るようになって、日中は高齢者や乳母車を押しているお母さんも天竜の丸太を使った林の通路を散歩したりしていて、イベントがない時でも誰かしらいると。今はもう、「コンベンションホール」というより、本当に公共建築になっちゃいました。あらゆる所をみんなが使うので、運営者が悲鳴あげていて「コンベンションホールって集会、会議がある時だけ開くって思っていたら毎日開くんですねー。」って言われたりしています。
 屋上の庭園は私が自分でデザインしたんですけど、やっぱり誰でもあがって来られるんです。富士山を見ながら若い人たちがデートしていたり。市民が結婚式をあげたり。「コンベンションホール」というとスーツ着た男性しか来なそうだけど、公共空間にしちゃった!って、私の責任になっています。(笑)
 それからなんとなく沼津周りのまちづくりをやっています。

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