平沼:ありがとうございます。この後に行かれたマリオ・ボッタ事務所のことをお聞きしたいのですが、これ以上お聞きすると、雑談ばかりで終わってしまいそうなので、作品をお聞かせいただいても、よろしいでしょうか。

古谷:はい。じゃあ、ひとしきりお話ししたいと思います。本当は7個くらいの作品と言われたんですけど、僕そんなにうまく括れなくて、話題としては7個くらいになっているものをまとめてお話しします。今日お話ししようと思ってるのはいくつかあるんですけど、突き詰めるとこういう事をやってんのかなっていうのがこのタイトルで、「Place to meet」要するに、僕たちは人が人に出会うための場所を作ってるというのが、僕の考え方です。で、人が人と出会って自分の知らない事を知ったり、すごい素晴らしい人格に触れて成長したり、究極的には幸せになるための場所をつくってるのではないかというふうに思うんですが、その時にも、もう1つ同時に考えられるのが、絶えず、建築だけがあるんじゃなくて、そこに至った来歴とか、周辺を取り巻いてる物とか、あるいは居合わせる人とか、ここで「surroundings」と書いたような、取り巻いてる物と一緒に暮らしてるんじゃないかっていう事をちょっとお話ししたいと思います。
最初にそのヒントとなったのはこれです。1995年ですね。20年以上前に、初めてモンゴルに行った時に撮った写真で、よくスライドに使うんで、見飽きた人もいるかもしれませんけど、これほんとに衝撃的で、ガスも電気も、水も全くない、インフラもない所にこの一家族だけ暮らしてます。でもよく見ると、プロペラがあって、風力発電して、パラボラアンテナが置いてあるから、これで、朝青龍とか今で言えば日馬富士、白鵬が勝つか負けるかライブで見ているというんです。それを20年前に見て、びっくり仰天した写真がこれなんです。だから環境の中にたった1人、この家族だけで暮らしてると言えるんですけど、世界と一緒に暮らしてるというふうに言えると思います。このモンゴルのゲルはとっても面白い物で、中はワンルームで仕切りがありません。だからまあプライバシーがないんだけど、無限のプライバシーが外にあります。中は人が人に会うための、1日の遊牧が終わって、家族と会ったり、あるいはそこを訪れているゲストにも巡り合ったりするための大事な場所です。またこのゲルの仕組みそのものが、モンゴルの民族衣装のデールと同じなんですね。この人たちは、夏にはこの下に、Tシャツ1枚、冬には毛皮とか何重にも着て、厚着、薄着をするんですけど、家がそっくりそのままそれと同じ事をやっていて、これ夏の状態。だから女の子がちょっとおへその見えるTシャツ着てるみたいな感じで下から風が入って、そしててっぺんに抜けてる。冬になるとこんな感じで、厚着していて、フェルトを3重にしてます。同じ家だけど、厚着して冬は暮らしています。衣服を脱着している家なんですね。おかげでマイナス40度から50度に近くなる所でも暮らしてられる。しかも電気もガスも全くないというのはものすごく衝撃的でした。
一方、これは沖縄の備瀬っていう沖縄本島本部町の暑い所です。ですから家そのものはまるでタンクトップみたいな家ですよ。ほとんどなんにも着てない状態です。だけど嵐が来る、台風のメッカで大変なので、周りにフクギという防風林が囲んでいる家です。それで、自分で言うのもなんだけどこれは僕が好きな写真なんですけど、猫が寝てるでしょ。この家のお父さんも寝てるし、お母さんもうたた寝してる、みんな寝てるって写真なんですが、建築と、その周りに重ね着している防風林との区別がつかない。もう建築だけじゃなくて、この周りの林とそこを流れてる優しい風みたいな物が一体になってできてるっていう事が分かります。しかもこれ真夏の1番暑い時期に撮った写真なんだけど、全員寝てるっていうのが良いんですよね。この1番暑い盛りに、仕事なんかしようと思うからエアコンをかけないといけなくなるんだけど、これからは夏場の暑い所では、この昼寝、冬の寒い所では冬眠を推奨するとかなりエコなのではないかという事を考えさせてくれます。ここで終わっちゃえばすごく素晴らしい話なのに、自分の話をしなきゃなんないってが辛いですね。
これは僕の家で、ZIGHOUSE/ZAGHOUSE。幸いなことに、爺さんの代から住んでいた敷地なので、庭の木が茫々生えていて、それを着ているようなものなんですね。で、家はガラス張りのように見えるけど、でも実は周りの木に覆われている。左の家が両親の、右が僕の家族の為の、二世帯の家ですね。世界中の民家のどこでも共通して言えるのは、さっきのモンゴルのゲルにせよ何にせよ、みんなその近所にある材料でできているというのが特徴なんだけど、東京だとなかなかそういう訳にはいかない。でもせめて、その材料は東京から近いところから手に入る材料という意味で、奥多摩の間伐材を使いました。中身は空っぽの伽藍堂みたいなもので、使う人がその時使うものを繰り広げていて、畳むときは、もぬけの殻になるというようなつくりですね。それで、これらはモンゴルのゲルのように、見事に厚着、薄着をしたりできないんだけど、幸いなことにその周りを取り囲んでいる家の庭木が、夏には大きな欅の陰で、日差しを遮断してくれるし、冬には葉っぱが落ちて、太陽の光が家の奥まで入ってくるっていう風に、勝手に着たり、脱いだりしてくれるという家ですね。

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