平沼:今の続きで、もう1つだけ質問いいですか。これ、答えてくださらない建築家も中にはいて、俺は歴史家じゃないからと言う人もいるんですけど、ご自身を歴史上の建築家にもし位置付けると、どういうタイプだと思われてますか。

古谷:歴史上の建築家の誰に似ているか? 誰に似てるかなぁ。

平沼:希望はカルロ・スカルパですか。

古谷:いや、違います。

平沼:違うんですか。

古谷:カルロ・スカルパは、コンセプトとしては本当に凄い事をやったんじゃないかって僕は思うし、学ぶものは多いと思いますけど、自分はそういうタイプじゃないと思います。強いて言えば、吉阪さんみたいになりたいという気持ちはありますね。

平沼:なるほど。最後のご質問は、月並みで申し訳なく思うのですが、ご登壇してくださる皆さんにお聞いています。かっこよく答えてくださるか方や、分かんないよー、と率直に仰ってくださる方たちもおられますが、今日のように聴講にきてくれる若い人たちも多くいるもので、建築家とは、どんな職業だと思われているのか、お聞かせください。

古谷:はい。いくつか思い浮かぶことがあるんだけど、1つ言いますと。欧米では、世に古くからの3大職能があると言われていますよね。それが医者と弁護士と建築家。でも、なんとなく感じるに、医者・弁護士と建築家は何かちょっと違うなぁと思うんです。よく考えてみると、医者と弁護士はクライアントが病気を抱えているとか、問題を抱えているとかその人の人生で最も不幸な時にやってくるんですね。だから大体あの、クライアントよりプロフェッショナルの方が強いんですよ。だから、相見積もりなんかとらないしね。

平沼:あっ、そっか。

古谷:建築家の場合は、クライアントはその人の人生のもっとも幸せな時にやってくる。家を建てたい、新しく工場をつくる、会社を興す。凄い絶頂期にやってくるでしょ。クライアントが強いのね。こっちはちょっと弱い。3者見積もりなんかとられて。

会場:(爆笑)

平沼:(笑)はっそっか!会場の皆さんもお医者さんに3者見積もりなんかとらないですものね。

古谷:割の合わない商売だと思うんだけど、人生の一番幸せな人が幸せになりたいと思っているのを一緒にやる仕事は悪い仕事じゃないと思うんですよ。だけど、最近痛感するのは、お医者さんと同じような役割があるということを東日本大震災から後、考えるようになりましたね。つまり、俺たちはどうも、幸せな奴だけを相手にしていたんだけど、そうじゃない多くのケースも、なんとか手伝わなければいけないっていう大事な使命があるということを、切実に感じます。

会場:貴重なご回答をいただき、ありがとうございます。

平沼:はっ、と思わせていただく、素晴らしい回答でしたね。

会場:よかったです。ありがとうございました。

平沼:このままずっとお聞きしていたい、僕たちも会場の方たちもきっとそうなのですが、お時間がいっぱいになりました。本日は本当にありがとうございます。

古谷:時間、ちょうどに終えることができましたね。よかったです。きょうは楽しかったです。どうもありがとうございまた。

平沼;ありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

会場:(大拍手)

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